表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第9部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

290/531

第七章 闇の先の未来②

 夕暮れを迎えて少し過ぎた頃。

 星が瞬く空の下。

 コウタと、リノは高台にあった公園に訪れていた。

 王都を一望できる小さな公園だ。

 奇しくも、コウタとリノが初めて出会った場所に似ている。

 どんな国、どんな街でもこういった場所にはニーズがあるのだろう。



「……ウム。オレハ、ココデマッテイル」



 と、公園の入り口付近でサザンXが告げる。

 やはり気が利くゴーレムだった。

 コウタとリノの二人は、公園の奥へと進んだ。

 そして公園の端。柵に傍にまで辿り着く。



「ようやく落ち着いて話せるの」



 リノは、コウタの方に振り向いた。

 次いで、ふうっと嘆息する。



「コウタよ」



 リノは、真っ直ぐコウタを見据えた。



「何故、あのようなことをした?」


「……当然、リノを連れていかれないためにだよ」



 コウタはそう答える。



「……まったく」



 リノは、深々と溜息をついた。



「連れていかれるも何も、わらわは一度戻るだけじゃ。暇を見つければまた会いに来る。まあ、次はまた半年か、一年後かもしれんが……」



 リノは仮にも支部長。多忙な身だ。

 こうやって会えるのは、恐らく年に一度か、それぐらいのペースになるだろう。

 それはとても寂しいことだが、それも仕方がない。



「わらわは必ずまた会いに来る。だからお主は――」



 と、リノがコウタを説得しようとした時だった。



「そういう話じゃないんだ。リノ」



 ――グッと。

 コウタに腕を掴まれ、台詞を遮られた。



「コ、コウタ?」


「君は理解していない」



 コウタは真剣な眼差しでリノを見つめた。



「また会える? そんな機会はきっとないよ」


「え……」



 リノは瞳を見開いた。

 コウタはかぶりを振る。



「ボクの兄さんは《七星》なんだ。それも最強の《七星》だ。ボクに会いにくれば、当然兄さんにも近づくことになる。今回みたいに初見ならまだいいよ。けど、次は兄さんも君の素性を知っていることになる。次からは格段に危険になるんだよ。そんな事態、ラゴウ=ホオヅキにとっては到底見過ごせないはずだ」


「そ、それは……」



 リノは言葉を詰まらせる。



「当然、《黒陽社》としてもだ。君のそんな無謀な行動は見過ごせないはずだ。今回の件は君の父親にも報告されると思う。そうなれば……」



 コウタはグッと唇を噛んだ。



「ボク達は、二度と出会うことはない」


「…………」



 リノは言葉もなかった。

 ただ、茫然とした表情でコウタを見つめていた。

 コウタは言葉を続ける。



「君は理解していない。いや、違う」



 少年は、より強くリノの細腕を握った。



「ボクなんかよりずっと聡明な君が気付かないはずがない。あえて、それを考えないようにしているんじゃないか?」



 その指摘にも、リノは何も言えなかった。

 コウタの指摘通りだからだ。

 本当は理解していた。

 次からはもう、コウタに会える機会などあり得ないことには。

 何故なら自分は――。



「……コウタよ」



 リノは静かに瞳を閉じた。



「……わらわは《黒陽》の娘じゃ」



 結局、それがすべてを物語る。



「お主の指摘通りじゃ。所詮、わらわは闇の中より生まれた娘。光の中にいるお主とは相いられぬ存在なのじゃろう」


「………」



 今度は、コウタが無言になった。

 リノは視線を逸らした。



「お主の言う通り、次はない。反論も出来ぬわ。仮にお主と共に歩もうとすれば、わらわはすべてを捨てねばならぬ。わらわにはそれほどの覚悟はない」



 コウタは無言のまま、リノの腕を離した。

 リノは、ポスンとコウタの胸板に頭を乗せた。



「……済まぬ。わらわは二度とお主とは会えぬ。ここでお別れじゃ」



 コウタは未だ言葉を発しない。

 公園には静寂だけが訪れる。

 リノはただ、この最後の静寂に身を委ねていた。

 そして――。



「……リノ」



 コウタがようやく口を開いた。



「……ボクの故郷は《黒陽社》に滅ぼされた」



 リノは顔を上げた。

 コウタは静かな瞳で彼女を見つめる。



「父さんも。母さんも。叔父さんも。一緒に育った幼馴染達も。隣のおばさんも。近所のおじさんも……」



 小さく息を吐く。



「みんな、殺された」


「…………」



 リノに返す言葉はない。

 彼女はその《黒陽社》の幹部なのだ。

 返してもいい言葉などなかった。



「全部、奪われたよ。残ったのはボクの命と、兄さんと姉さんだけだ」



 その声に感情はない。

 けれど、リノの胸は強く締め付けられた。

 誰にも見せたことのない、まるで泣き出しそうな顔でコウタを見つめる。



「……ボクは《黒陽社》を憎んでいるし、恨んでいる。そして……」



 コウタは、リノを一瞥した。



「君に対しても、思うところがある」


「わ、わらわは……」



 リノは視線を伏せて、言葉を詰まらせる。

 彼女は《黒陽社》の、まさに中枢にいる存在だ。

 当然、コウタに敵意を向けられる可能性は大いにあった。

 それが怖くて、リノは自分が《黒陽》の娘であると打ち明けられなかったのだ。



「……リノ」



 コウタは、鋭い面持ちでリノを見据えた。

 リノは、ビクっと肩を震わせた。



(コ、コウタ……)



 潤んだ眼差しで少年を見つめる。

 彼の次の言葉が、本当に恐ろしかった。

 すると、



「……君は一つ誤解しているよ」



 不意にコウタが語り出す。



「ご、誤解、じゃと?」



 リノが恐怖を隠しながら尋ねる。と、



「ボクは君が思うほどに優しい人間じゃない。憎しみもあれば、殺意も持っている。レオス=ボーダーは殺してやりたい。ボクは《黒陽社》を絶対に許さない」


「コウタ……」



 リノは息を呑む。

 少年から放たれる圧は、生半可ではなかった。

 コウタはさらに語る。



「ボクは《黒陽社》が憎い。だからこそ」



 そこで黒い双眸を細めた。



「奪ってやろうと思うんだ」


「……え」



 リノは瞳を瞬かせた。



「奪う? どう言う意味じゃ? それは……」 


「簡単な話だよ。君が捨てるんじゃない。ボクが奪うんだ」



 コウタは、そっとリノの頬に片手を添えた。

 リノは「……え?」と目を見開いた。

 少年の手は暖かく、とても優しかった。

 だが、その手に込められた意志は、途轍もなく強い。

 そして――。



「ボクは《黒陽社》から、一番の宝物を――君を奪ってやるつもりなんだ」



 悪竜の騎士は《妖星》の姫君に宣言する。

 ――堂々たる覚悟を込めて。



「君を離さない。あの渓谷で君が望んだように、ボクが君のすべてを奪うよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ