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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第1部

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第八章 贈られしモノ③

 かくして対峙する黄金の牛頭の巨人と、炎を纏う悪竜の騎士。

 この状況に一番困惑しているのは、実はコウタだった。



「メ、メル!? 何これ!? 《ディノス》がとんでもないことになってるよ!?」



 と、完全にパニックを起こした声で幼馴染を問い質す。

 まあ、そこまで動揺しても敵機から目を離さないのは見事と言うべきか。



「落ち着いて下さい。コウタ」



 それに対し、メルティアは苦笑を浮かべて。



「これこそが、真なる《悪竜(ディノバロウス)》モードです」


「いや、だからどういう状況なのさ!?」



 コウタはただただ困惑していた。

 なにせ愛機がいきなり発火し、景気よく炎上しているのだ。

 操縦席こそ熱くはないが、狼狽するのも当然だった。



「ですから落ち着いて下さい。コウタ。《ディノス》から噴き出るこの炎は本物ではありません。恒力による《偽物の炎(エフェクトフレア)》です」


「え? エフェ? 何それ?」



 コウタはますます眉をひそめてメルティアに尋ねる。と、



「簡単に言えば、恒力を炎の形に加工して放出しているんです。熱くもありませんし、何かを燃やすことも出来ません。見た目だけのハリボテの炎です」


「ハ、ハリボテ!? なんでそんなものを!?」



 コウタは目を丸くした。彼女の意図がまるで分からない。元々自分とは比較にならない頭脳を持つ幼馴染だが、ここまで意図が読めないのは初めてだった。



「……それは」



 すると、メルティアは少しだけ声のトーンを下げた。



「はっきり言うと、他に用途がなかったからです。有り余る無駄な恒力を処理しようとした結果、ハッタリ用になってしまいました」


「……え? どういうこと? それって?」



 視線こそ《金妖星》から離さないまま、コウタは眉をひそめた。

 それに対し、メルティアは小さく嘆息してから説明を続ける。



「《悪竜(ディノバロウス)》モードの欠陥は膨大すぎる恒力にあります。だったら、必要な分だけ確保して残りは排出すればいい。私はそう考えました」


「……排出? この炎が?」



 コウタは《ディノ=バロウス》の左手を動かして炎に目をやった。

 メルティアはコウタの腰を掴みつつ、「はい」と頷いた。



「今の《ディノ=バロウス》は私の意志で出力を調整しています。このティアラが操縦棍の代用品です。現状の恒力値は、機体が耐えられる三万五千五百ジン程。残りの恒力はすべて《偽物の炎(エフェクトフレア)》に加工して排出しています」


「……え? 残りを排出って、それって恒力の半分以上じゃないか!?」



 コウタは再び目を丸くした。

 そこまで説明されれば、彼も状況が分かってきた。



「ええっ!? 要するに《ディノス》って今、見た目を派手に演出するために半分以上の恒力を使っているってこと!?」



 ある意味、呆れるほど贅沢な機能だ。



「……むむ。そんな風に言われると不愉快です」



 ぷくうと頬を膨らませるメルティア。

 彼女とて、考え抜いた上での仕様なのだ。

 否定されるのは面白くない。



「出力は高ければいい訳ではありません。重要なのは技量に合った適切な量です」


「ま、まあ、確かにそうだけど……」



 そう言われ、コウタは困惑の笑みを浮かべた。



「けど、どうしてメルが搭乗するの? わざわざメルが調整しなくても、恒力の自動排出なら出来そうじゃないか」



 と、尋ねるコウタに、メルティアは「……う」と言葉を詰まらせた。

 確かに自動排出は、検討すれば恐らく可能だろう。けど、それでも手動にしたのは、ただコウタと相乗りする機会を作りたかったから……。



「そ、それはまだ研究中です。今の状態は試験段階と思って下さい」



 咄嗟に思いついたそんな言い訳に、



「なるほど。一足跳びで技術は進化しない。メルの開発理念だね」



 コウタはあっさり納得した。

 メルティアは内心で少しホッとする。

 彼が視線を敵だけに向けているのは幸いだった。

 きっと、今自分の顔は真っ赤になっているに違いない。



「コ、コウタ。とにかくこれが私の切り札です。使えますか?」



 と、メルティアは話題を変えるのも兼ねて本題を切り出した。

 すると、コウタはすうっと目を細めて――。



「……うん」



 グッと操縦棍を握りしめる。



「凄くいい感じだ。かつてないほど《ディノス》の感覚が伝わってくる」



 言って、コウタは口元を綻ばせた。

 普段の《ディノス》は、若干の物足りなさがあった。

 かと言って以前の《悪竜(ディノバロウス)》モードには物足りなさこそないが、濁流の中に放り込まれたような過酷さがあった。


 しかし、今の《悪竜(ディノバロウス)》モードは全く違う。


 力が溢れ出てくるという感じではない。例えるならば全身に余すことなく血が巡り、充実感に満ちたような感じだ。



「言葉にするのなら絶好調って感じかな」



 コウタはそんなことを呟いた。

 製作者たるメルティアは、「それは良いことです」と笑った。



「さらに言えば、今の《ディノ=バロウス》は外部から調べると恒力値は七万二千ジンを示します。ハッタリ効果は充分です。きっと相手はビビってます」


「……いや、それはどうかな?」



 幼馴染の言葉に、コウタは思わず苦笑した。



「むしろあの男に関しては興味津々で、きっとワクワクしていると思うよ」



 言って、《金妖星》を睨みつける。

 牛頭の巨人は斧槍の石突きを地につけ、微動だにしていなかった。

 恐らくこちらの出方を窺っているのだろう。



「……さて、と」



 コウタは《ディノ=バロウス》を身構えさせた。



「そろそろ行くよ。メル。しっかり掴まって」


「はい。分かりました」



 メルティアはそう答えて、コウタの背中にギュッと身体を寄せた。

 柔らかな感触に普段なら少年らしく動揺するコウタだが、今は表情も変えない。

 今の彼は完全な戦士だった。その視線は敵のみを見据えている。



『……行くぞ! ラゴウ=ホオヅキ!』



 そう叫び、炎を纏う《ディノ=バロウス》は地面を蹴りつけた。

 《雷歩》ではないただの跳躍。

 しかし、その脚力は圧倒的で、瞬きする間もなく一気に間合いを詰めた。



『……おおッ!』



 ラゴウが目を見開き、感嘆の声を上げる。

 そして横薙ぎに振るわれた《ディノ=バロウス》の処刑刀を斧槍の柄で受け止め、さらに目を大きく瞠った。

 通常の鎧機兵より巨大な《金妖星》が、軽々と吹き飛ばされたのだ。



『ふふ、ふはははははっ!』



 地を削りながら《金妖星》を着地させ、ラゴウは呵々大笑した。



『その変化は伊達ではないということか!』



 言って、今度は、《金妖星》が地面を蹴りつける。

 大きく斧槍を振りかぶり、《ディノ=バロウス》に迫る黄金の機体。

 対し、悪竜の騎士は処刑刀を上段に掲げた。


 ――ギインッッ!


 そして鳴り響く剣戟音。



『……おおッ!』



 再び感嘆の声を上げるラゴウ。

 大地さえ切り裂く斧槍の一撃は、処刑刀の刀身で受け止められていた。

 炎の鎧機兵の両足こそ少し沈み込んでいたが、それだけだ。

 これ以上、圧し込めない。明らかに互角の膂力である。

 ラゴウはこれではっきりと認識した。

 それがいかなる機能なのかは分からないが、目の前の敵機は間違いなく自分の愛機と同格の力を手に入れている。先程までは精々遊び相手程度だった者が、一気に強敵クラスにまで格を上げたのだ。



(……ふふ、これは嬉しい誤算だな)



 ラゴウはゾクゾクと身震いした。

 このレベルの強敵とは、そうは巡りあえない。



『ふははっ! 次から次へとまるで飽きぬ! ヌシは本当に面白いな!』



 そう叫んで、操縦棍を握りしめるラゴウ。

 予想外の強敵を前にして高揚を抑えられなかった。



(もはや手加減はいらんな)



 思わず殺してしまうかもしれないが、それも仕方がないだろう。

 もうこの少年の成長を待つのはやめだ。

 これほどの敵を相手にして、自制しろというのは無理な話だ。



『ふふ、では存分に戯れようではないか!』



 そう言って、ラゴウは黒い瞳を妖しく輝かせて笑った。



       ◆



「――追撃隊を組む! 動ける者はいるか!」



 その頃、《黒陽社》の野営地にて。

 ラゴウより指揮を任された副官は、そう声を張り上げた。

 しかし、広場にいる者達の反応は乏しい。

 多くの部下達は本調子には程遠く、名乗り出る者は少なかった。

 副官は忌々しげに舌打ちする。



「完全に鎧機兵を出すタイミングを見誤ったか……」



 正直、戦場に出遅れたのがあまりにも痛い。

 駆けつけた時には、ほぼ全員が戦闘不能にされていたのだ。

 だがそれも当然だろう。見た目はともかく鎧機兵相手に対人戦を挑んだのである。勝ち目などあるはずがない。敵の本質を見誤った敗戦だ。

 今は各自意識を回復しているが、すぐさま追撃戦を行うのは難しい。

 指揮官である彼自身も入れても実質動けるのは十五名ほどか。



「……くそ。支部長になんとご報告すれば……」



 自身の不甲斐なさに歯を軋ませる。

 部下達の多くは負傷し、捕えていた《星神》は全員奪われた。

 追おうにも人員がまるで足りない。

 せめて、あの新兵器と思しき小型鎧機兵を一機でも拿捕できていればまだ言い訳も立つのだが、外装の欠片程度は見つけたが、本体の残骸はどこにもなかった。

 損失ばかりで何一つ成果がない。まさに降格モノの大失態だ。



「――くそがッ!」



 副官は苛立ちを吐き捨てる。と、そんな時だった。



『……副長!』



 突如、鎧機兵に搭乗したままの部下の一人から声をかけられた。

 副官は訝しげに眉根を寄せる。



『じ、実は、今気付いたのですが……』



 と、切り出して、鎧機兵に乗る部下が語り出した。

 その報告に耳を傾けていた副官は、徐々に顔つきを険しくしていく。

 そうして数十秒後。



「なんてことだ……」



 副官は額を押さえて思わず呻く。

 そして心底うんざりした気分で思う。

 きっと、今日は人生最悪の厄日に違いない、と。

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