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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第9部

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第六章 宿敵再び①

「……ふむ」



 ラゴウは、香り立つコーヒーをすすった。



「中々美味であるな。意外と良い店だ」


「ふむ。そうじゃな」



 そう告げるのは、同じように紅茶を飲むリノだった。

 彼女の隣には、コウタとサザンXの姿もある。

 それぞれ椅子に座っていた。

 ここは、市街区にあるカフェの一つ。

 裏通りにのっそりとある、人がほとんどいない店だ。

 さびれた様子の店内にはカウンターに壮年の店主が立つだけ。最悪、刃傷沙汰も考慮してチョイスしたカフェである。

 そこでコウタは二人の《妖星》とティータイムをしていた。

 まあ、コウタ自身は一度もコーヒーに口を付けていなかったが。



(……まさかこの男までいるなんて)



 静かに、丸テーブルを挟んで座るラゴウを睨みつける。


 ――《金妖星》ラゴウ=ホオヅキ。


 コウタが初めて戦った《九妖星》だ。

 あれから随分と時間が経った。コウタの力量もあの頃とは違う。

 しかし、それでも緊張を隠せない。

 優雅にコーヒーを楽しむ男に、全く隙が無いからだ。

 恐らく今コウタが斬り込んでも、この男は容易く凌ぐだろう。



(やっぱり強い……)



 危機感が募る。しかもそれに加えて――。

 コウタは、リノにも目をやった。

《水妖星》リノ=エヴァンシード。

《地妖星》ボルド=グレッグ。

《金妖星》ラゴウ=ホオヅキ。

 犯罪組織《黒陽社》の九大幹部。

 信じがたいことに、今この国にはその内の三人も来訪しているのだ。

 率直に言って、とんでもない状況である。



(一体、何が目的なんだ?)



 コウタは、目を細めた。

 わざわざ《九妖星》が揃うなど企みがないはずがない。



(……もしかして、兄さんが目的なのか?)



 表情を険しくする。

 今は騎士ではないが、兄は《七星》の一人だ。

 それも、今なお最強と謳われている。

 そんな兄を倒すために、《九妖星》が揃ったとも考えられなくもない。

 ただ、奇しくも《七星》もまた、この国に三人いるのだが。



「…‥そう身構えるな。少年」



 その時、ラゴウが苦笑を浮かべた。



「色々と勘ぐっているようだが、企みなどない」


「うむ。そうじゃな」



 リノが続く。



「少なくとも、わらわは義兄上に牙を剥くことはない。わらわの来訪の目的は、コウタに会うことと、義兄上にご挨拶することじゃからな」


(……それはそれで胃が痛くなるんだけど)



 リノに敵意はなくとも、立場的には兄と敵対関係になる。

 正直、リノについて兄がどう判断するかは、コウタにも分からなかった。



「挨拶は出来たのですか? 姫」



 ラゴウが、リノに目をやって尋ねる。



「うむ!」



 リノは、にぱっと笑った。



「まあ、コウタに連れられて中途半端にはなってしまったがな」


「そうですか」



 ラゴウは、どこか困ったような笑みを浮かべた。

 コウタは眉根を寄せる。

 どうも、ラゴウとリノのやり取りに違和感を覚える。

 ――いや、これは《地妖星》に関してもだ。



「……そういえば」



 情報は少しでも多く入手しておきたい。

 コウタは、率直に尋ねてみることにした。



「《地妖星》もそうだったけど、どうしてお前達はリノを『姫』と呼ぶんだ?」



 リノとラゴウ達は同格の地位だ。

 しかし、《地妖星》と《金妖星》の態度は、リノを敬っているようにも見える。

 二人に比べてまだ幼い少女であるにも拘らずに、だ。

 二人の性格といえば、それだけのことかもしれないが。



「ふむ? 何だ? ヌシは知らんのか?」



 すると、ラゴウは不思議そうに眉を寄せた。

 続けて、リノを見やる。



「まだ話されてなかったのですか?」


「う、うむ」



 リノは少し口籠った。



「どうも話す機会がなくての……」



 紅茶をカチャリと置き、気まずげにそう呟く。



「……リノ?」



 コウタは眉根を寄せた。

 リノは「う、うむ」と視線を逸らした。

 奇妙な沈黙が訪れる。と、



「ふむ。姫からは言い出しにくいようですな」



 ラゴウが口を開く。



「吾輩から語ろう。宜しいですかな? 姫」


「う、うむ。任せる」



 リノは少し躊躇いながらも承諾した。



「では」



 ラゴウはコーヒーを置き、コウタに視線を向ける。

 コウタは、ラゴウを見据えた。



「《黒陽社》第1支部・支部長。《水妖星》リノ=エヴァンシードさま(・・)



 ラゴウは語り出す。



「この方は、確かに吾輩やボルドと同じ地位に就き、そして《九妖星》の称号を持っておられる。それは実力によって得た地位と称号だ。その点においては他の《九妖星》も姫に敬意を抱いている。この若さで実に見事なものだと。だが、それとは別に姫にはもう一つ肩書があるのだ」


「……もう一つの肩書だって?」



 コウタは眉根を寄せた。

 ラゴウの台詞。どこか緊張しているように見えるリノの様子。

 酷く嫌な予感がした。



「我らが主君。偉大なる《黒陽》さま。姫は《九妖星》の地位とは関係なく、我が主君に心から愛されているのだ」


「え?」



 コウタは、リノに目をやった。



「愛されているって……」



 リノは群を抜いて美しい少女だ。

 メルティアにも劣らない。宝石とも評せるほどの美貌。

 たとえ歳が離れているとしても、彼女に魅了される男は多いだろう。

 そんな彼女に愛情を抱く。

 単純に考えるなら、男女の関係だ。

 幹部の一人と愛人関係。犯罪組織でなくてもあり得ない話ではない。

 しかし、コウタはそうは思わなかった。

 彼女は誇り高い人間だ。

 相手が主君というだけで、そんな関係になるとは思えない。

 だとすれば――。



「……リノ。まさか君の父親って……」



 その可能性に気付き、コウタは恐る恐る尋ねた。

 一方、リノは、ただ視線を逸らす。

 代わりに答えるのは、ラゴウだった。



「ほう。勘がいいな。少年」



 どこか皮肉気な笑みを浮かべて。



「そういうことだ。姫は《黒陽》さまのご息女。すなわち」



 そして《金妖星》は、はっきりと告げた。



「《黒陽社》の社長令嬢。我らが主君の姫君なのだ」

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