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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第9部

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幕間一 《妖星》達の休日

 ――カチャリ、と。

 兵士ポーンの駒が、敵陣深くに切り込んだ。

 駒を手に持つのは少年だ。

 歳の頃は、十代後半ほどか。見た目からは考えられないほどの冷徹な眼差しを持つ、黒いスーツを纏った灰色の髪の少年である。



「……ここまでですか」



 と、答えるのは、チェスの対戦相手。

 年齢は三十代後半ほど。

 右側の額に大きな裂傷を持つ頬のこけた人物だ。

 少年同様に全身を黒いスーツで包んでいる。

 まるで、研ぎすぎた刃を思わせる黒髪の人物である。



「お見事です。ボーダー支部長」



 黒髪の男――ラゴウ=ホオヅキが、そう告げる。

 対し、少年――レオス=ボーダーが、苦笑を浮かべた。



「年の功というものだ」



 チェスはまだ、チェックメイトには至っていない。

 しかし、ラゴウは、最後までの手順を読み切っていた。

 もはや自分に逆転の目はない。



「まったくもってお強い」



 ラゴウは嘆息した。



「吾輩も、チェスには少々自信はあったのですが」



 これで三連敗だ。

 流石に自信もなくなってくる。



「所詮は遊戯だ。気にするな」



 と、レオスが言う。



「俺とて、奴相手では中々勝てんからな」


「……主君ですか」



 ラゴウは目を細める。

 レオスは自軍のキングの駒を手に取った。



「奴にチェスを教えたのは俺なのだがな。一月もせん内に越えられたものだ」


「……主君は特別ですからな」


「確かに」



 レオスは苦笑を浮かべた。



「俺も長年生きているが、あれほど才に溢れた人間は知らん」



 レオスは『才能』という言葉が嫌いだった。

 自分が薬物に頼らなければならないほど、無才であることを知っているからだ。



「あの才の半分でも俺にあれば、といつも思うよ」


「……ボーダー支部長」



 ラゴウが神妙な顔を見せる。



「まあ、無能な老人の愚痴だ」



 対し、レオスは王の駒を、カツンと置いて肩を竦めた。



「そう気にするな。それよりも」



 レオスは大きく開かれた窓の外に目をやった。

 大通りには多くの人。遠目には白亜の王城が見える。

 アティス王国の王都・ラズンの情景だ。



「奴の才を受け継ぐあの娘はどこに行ったのだ?」


「姫ですか?」



 ラゴウも、窓の外に目をやった。

 視線の先には、白亜の王城がある。



「恐らくはあの少年の元でしょうな。姫は常々会いたいとおっしゃってましたから」


「……ふん。あの小僧か」



 レオスは鼻を鳴らした。

 騎士ナイトの駒を取って、コツコツとチェス盤を叩く。



「あの小僧も才に溢れている。しかし……」



 レオスは、ラゴウに目をやった。



「あの親馬鹿な奴のことだ。愛娘に手を出されては当然、黙っておらんだろうな。そうなれば、あの小僧とて……」



 ラゴウは、双眸を細めた。



「確かに、吾輩の知るあの少年の実力では、主君にはまだ届かぬでしょうな。そういう意味では……」



 そこで、ラゴウは苦笑を浮かべる。



「姫を妻にできる者は《双金葬守》だけと言えるでしょう。恐らく、かの者の力は主君にも匹敵するでしょうから」


「それが、まさかの弟の方という訳か」



 レオスも、また苦笑を浮かべた。



「因果なものだ。だが面白くもあるな」



 レオスは騎士の駒で、王を打った。



「まあ、いずれにせよ、悪いと思うがリノ嬢ちゃんの恋は成就せんだろう。あの小僧は俺が殺すからな」


「……いえ。ボーダー支部長」



 そこで、ラゴウは椅子から立ちがった。



「ボーダー支部長と、あの少年の因縁は吾輩も承知しておりますが、残念ながら、そうは行きませぬ」



 言って、ラゴウは不敵な笑みを見せた。



「あの少年を最初に見出したのは吾輩。ゆえにまずは吾輩から行かせて頂きます」


「……好きにしろ」



 レオスは騎士の駒を手で遊びながら、嘆息した。



「ボルドの奴も早速好きに動いているからな。止めはせん。お前に殺されるようなら、あの小僧の器もそこまでということだ」


「……では」



 ラゴウは最古の《九妖星》に一礼した。

 次いで、コツコツと靴音を鳴らして、ドアに向かう。

 ――が、ドアのノブを掴んだところで振り返り、



「お先に失礼いたします。ボーダー支部長」



 どこか楽しげに、そう告げた。

 レオスは、プラプラと手を振った。

 ラゴウはそのまま退室した。

 部屋に残されたのは、レオス一人だけだ。

 しばしの沈黙。窓からの大通りの喧騒だけが耳に届く。

 そして――。



「さて。小僧」



 レオスは、騎士の駒を王の前に置いた。



「《妖星》の試練、見事乗り越えてみせろ。俺を失望させるなよ」

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