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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第9部

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プロローグ

 静かな朝。

 コウタは、未だ微睡に包まれた。

 服装はいつもの制服に、腰の白布だけを外した状態。昨晩は、それはもう色々とありすぎて寝間着に着替える暇もなく、ソファーの上に倒れこんだのだ。

 そもそも、寝間着云々以前に、この部屋は、ルカが王城に用意してくれたコウタの――正確にはジェイクとの相部屋ではない。

 昨日の夜、精神統一がしたいとか、コウタ自身も意味不明と思う言い訳をして、急遽ルカに用意してもらった一人部屋だ。

 その後も『準備は万端じゃ! さあ、わらわをお主のモノにするがよい!』と、とんでもないことを言う彼女を宥めつつ、ようやく睡眠を得たのである。


 コウタは、珍しく熟睡していた。

 かなり疲れていたこともあるのだろう。


 けれど、それ以上にこの部屋は、とても落ち着くのだ。まるでメルティアが傍で眠っている時のような、安らかで優しい気持ちになれる。

 コウタは夢現のまま、その穏やかになれる存在を求めた。

 両手を動かす。すると、それはすぐ傍にいた。

 コウタはまるで枕のように、その存在を抱き寄せた。



「……ん」



 と、少女の声が聞こえる。

 同時に、柔らかすぎる二つの膨らみの感触が胸板に。

 ………………………。

 ………………。

 ……数瞬の沈黙。



(――っ!?)



 コウタは、カッと目を見開いた。

 慌てて、自分の腕の中に目をやる。



(う、うわっ!)



 そこいたのは、一人の少女だった。

 歳の頃は、恐らくだが、コウタとほぼ同い年。

 瞳を閉じた美麗な顔立ちに、緩やかに波打つ長い菫色の髪の上には、ネコ耳を彷彿させるような癖毛。首には蒼いチョーカー。昨晩と同じ少し大きめのワンピース型の蒼いドレスを纏っている。少しはだけた胸元には年齢不相応の大きな双丘。それがコウタの胸板で押し潰されているのだ。

 かああっ、とコウタの顔が赤くなる。



(な、なんでここにリノが!?)



 ――リノ=エヴァンシード。

 昨晩、唐突に再会した少女である。

 この部屋は、彼女のために用意してもらった部屋だった。



(た、確か、昨日はベッドで寝ていたはず……)



 それが今は何故か、コウタの腕の中だ。

 ――ああ、それにしても柔らかい。



(ボ、ボクは何を考えて!)



 コウタは、ハッとした。

 続けて、彼女を抱えた状態でソファーに座り直すと同時に、慌てて彼女の体を離す――と、彼女は完全に寝入っているようで、ソファーからずれ落ちそうになる。



「あ、危ない!」



 コウタは、リノの両脇を両手で拾い上げた。

 が、その勢いで、彼女を再び抱きかかえることになる。

 再び、リノの豊かな双丘が、コウタの胸板で押し潰された。

 コウタはギョッとするが、一度落としかけたので今度は離せない。

 彼女と重なるように座ったまま、動けなくなってしまった。



(ど、どうしよう……)



 ゴクリ、と喉を鳴らす。

 彼女の柔らかさ。

 甘い匂い。

 少し高い体温に、確かに伝わる鼓動。

 そのすべてを間近で感じて、コウタは頭がクラクラとし始めた。

 ただ、それ以上に――。



(ああ。本当に彼女なんだ)



 無意識に彼女の背中に手を回して、力強く抱きしめる。



「……ん」



 少し痛みを感じたが、彼女が小さく呻く。

 それさえも愛しかった。



(本当に、また会えてよかった)



 コウタは双眸を細めて、彼女の髪を撫でた。

 かの犯罪組織。《黒陽社》の支部長の一人である彼女。

 コウタにとっては、仇であるあの男の同胞となる少女だ。

 だが、それでもコウタはリノのことを心配していた。

 ほんのわずかな期間だけ邂逅した少女。

 笑顔を見せてくれた。

 戦いもした。

 天真爛漫であり、傲岸不遜でもある。

 危険な少女であることは、間違いないだろう。

 けれど、彼女を大切に想う気持ちに揺らぎはない。

 こうして腕の中に抱き、いっそうその想いは強くなっていた。



(リノに、闇の中は似合わない)



 改めて、そう思う。

 彼女を裏の世界から、表の世界へと連れ出す。

 それが、どれほど困難なのかは、少しは理解しているつもりだ。

 だが、二度と彼女の手を離すつもりはなかった。



(……リノ)



 コウタがもう一度、彼女の髪を撫でた――時だった。



「……コホン。流石にの」



 不意に声が響く。それはリノの声だった。

 どうやら、目を覚ましていたらしい。



「寝起きざまに、こんなにも愛しげで、優しい愛撫をされては、わらわでも恥ずかしく感じるのう……」



 そう告げる彼女の顔こそ見えないが、うなじなどの肌はかなり赤かった。

 言葉通り、本当に恥ずかしいのだろう。



「……え?」



 コウタは固まってしまう。

 その一瞬の隙にリノは少し体を離し、コウタの顔を見つめた。

 宝石を思わせる紫色の瞳に、コウタが映る。



「……コウタよ」


「な、何かな? リノ?」



 コウタは、やや顔を強張らせて尋ねる。

 リノは、コホンと喉を鳴らした。



「わらわが愛しいことは分かる。久しぶりの再会でもあるしの。じゃが、眠るわらわを、わざわざ自分の元にまで連れ込んで愛撫とは、いささか独占欲が強すぎぬか?」


「………………」



 コウタは、数秒ほど硬直した。

 そして、



「――違うよっ!?」



 絶叫を上げる。

 断じて、自分はリノをソファーに連れ込んでなどいない。



「ソファーに入り込んだのは、リノの方じゃないの!?」


「……ん? そういえば?」



 リノは小首を傾げた。

 その仕草一つ一つが、実に愛らしい。

 流石は、傾国の雛鳥といったところか。



「夜中にふと目が覚めたような? 月明かりに照らされたコウタの顔が愛しくて、つい頬にキスをして、確かそのまま……」


「そんなことしたの!?」



 コウタは、自分の頬を片手で押さえて顔を真っ赤にした。

 対し、リノは妖艶に笑う。



「隙だらけじゃったからの。精進が足りんぞ。コウタ」



 言って、コウタの首筋に腕を伸ばして抱き着いてくる。



「リ、リノ……」



 コウタは嘆息した。

 確かに寝入って接近を許したのはコウタだ。

 ただ、本来、寝入るコウタに近づくのは容易なことではない。

 それを出来るのは、コウタがよほど気を許している相手だけなのだ。



(それだけ、リノに気を許しているってことなのか)



 本当に、自分の気持ちを思い知らされる。

 一方、リノは早速マーキングするように、コウタに頬ずりしていた。



「リ、リノ。流石に恥ずかしいからやめてよ」


「何を言っておる。お主も寝ているわらわを愛撫しておったのであろう?」


「……う」



 それは確かな事実だった。

 コウタは、恥ずかしく感じつつも拒絶は出来なかった。

 そしてたっぷりマーキングを堪能した後、



「改めて、おはようなのじゃ! コウタよ!」



 満面の笑みで、リノが告げる。

 その笑顔の前に、コウタもまた破顔してしまった。



「うん。おはよう。リノ」



 そうして。

 今日も朝が始まるのであった。

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