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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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エピローグ

 夜。

 王城のバルコニーにて。



「……ふう」



 コウタは一人、息をついていた。



「……今日も疲れたなあ」



 兄との再会を果たし、すでに三日が経っていた。

 だが、そのたった三日間で、コウタの人間関係は随分と変わった。

 ロックやエドワードは少し驚いたようだが、態度はほとんど変わらなかった。兄と面識があるというエイシス団長は「うむ。そうか……」と少し神妙な顔をしていたが。

 大きく変化したのは女性陣だ。

 まずサーシャとアリシア。

 彼女達は、実に分かりやすい変化を見せた。

 ミランシャ、ルカと同様に『姉』を強調するようになったのだ。



『コウタ君。困ったことがあったら、サーシャお姉ちゃんに言ってね?』



 と、サーシャが優しく微笑み、



『コウタ君。行きたい所ってある? アリシアお姉ちゃんが連れてってあげるわ』



 と、アリシアが慎ましい胸を強く叩く。

 彼女達も、兄に想いを寄せていることは知っている。

 きっと、ミランシャやルカに遅れをとったと感じているのだろう。

 また、オトハも自分のことは姉のように思っていいと告げてきたのだが、彼女だけは焦りがない。どこか余裕を持っていた。

 しかし、これで『姉』と呼んで欲しいと強調する女性がどれだけ多くなったか。

 ミランシャ、ルカ、サーシャ、アリシア、オトハ。

 さらに、積極的な彼女達に触発されたのか、今まではどこか控え目だったシャルロットまで言い出すぐらいだ。



「……ボクにはどれだけ『姉さん』がいるんだ?」



 バルコニーの柵に両腕を置き、顔を埋めてコウタは深々と溜息をついた。

 それだけ兄がモテるということだろう。

 それも、美少女や美女ばかりに。



(相変わらず、兄さんは凄いなあ)



 自分のことは棚に上げて、コウタは苦笑した。

 ただ、そんな彼女達の中で一人だけ。

 ユーリィだけは、少し違っていた。

 彼女だけは『姉』を主張しない。その代わりに、コウタがクライン工房に行くと、すぐさま兄も元に駆け寄り、抱っこを強要する。

 何だかんだで彼女を溺愛する兄は、ユーリィを抱っこするのだが、コウタが滞在中である限り、彼女は絶対に兄から離れようとしない。

 これには兄も、オトハを初めとする兄の傍の女性達も、困惑しているようだ。

 どうも、徹底的にコウタは警戒されているらしい。



(……はぁ)



 義理とはいえ、姪っ子にそこまで嫌われては少しヘコんでくる。

 メルティアやリーゼ、サーシャ達も仲を取り持ってくれようとしてくれているのだが、ユーリィは一向に警戒を解いてくれない。



(本当に困ったな)



 これでは兄と会話する機会もない。

 まだ自分は、兄に伝えなければならないことがあるというのに。



(……サクヤ姉さん)



 兄の婚約者である彼女のことを。

 恐らく兄は、義姉の生存を知らない。

 ミランシャからはそう聞いていた。

 だからこそ、義姉のことは自分が伝えるべきだと思った。

 早く伝えるべきだとは思っている。

 しかし、常にユーリィに警戒されて、切り出す機会もないのが現状だった。



(……どうすればいいのかな)



 コウタは顔を両腕に埋めたまま、再び溜息をついた。

 その時だった。

 ――コツ、コツ、と。

 背後から、足音が聞こえた。



(ああ、メルか)



 コウタは、反射的にそう思った。

 このホッとするような優しい気配は、きっと幼馴染のものだ。

 多分、コウタを心配して来てくれたに違いない。

 コツコツ、と足音は続く。

 ――と、

 タァン、と強く蹴り付ける音が聞こえた。



(え? いま跳んだ?)



 あのメルティアが?

 運動能力は高いけど、運動嫌いな彼女が?



(もしかしてリーゼなのかな?)



 メルティアと思ったのは勘違いで、リーゼだったのかもしない。

 そもそも、着装型鎧機兵パワード・ゴーレムの気配はなかった気がする。

 まあ、いずれにせよ、振り向けば分かるか。

 コウタは顔を上げようとした、その時だった。



「どうかしたのかの? 随分とヘコんでおるようじゃが」



 とても懐かしくて。

 どこか、ホッとする声が耳朶を打った。

 コウタは、ハッとして顔を上げた。そして声がした方に顔を向ける。

 月光が降り注ぐバルコニー。

 そこには今、一人の少女がいた。

 手を後ろで組み、柵の上に優雅に立つ彼女が。

 淡い菫色の長い髪を、夜風になびかせる彼女が、そこにいた。



「リ、リノ……?」



 コウタは、呆然と彼女の名を呼んだ。

 すると、彼女――リノは、



「うむ! 久しいの! コウタよ!」



 満面の笑みを見せる。

 が、わずかに視線を逸らすと、少しモジモジとして、



「ええい、もうダメじゃ! もう限界じゃ!」



 そう叫ぶと、「えい」と軽く跳躍して、コウタへと身を投げ出した。

 着地など何も考えていない。そのまま落ちればフロアに腰を強打する。

 そんなダイビングだ。



「リ、リノ!」



 コウタは咄嗟に身構えた。

 ――たとえ、どれほど闇が深くても。

 コウタが、彼女を拒絶することはない。

 そして、彼女が傷つくことを見過ごしたりはしない。

 ――ドン、と。

 全身で、彼女を受け止める。

 いつかのように。

 彼女の小さな身体を、両腕でしっかりと支える。



「リ、リノ?」



 コウタは、腕の中の少女を見つめた。

 長いまつげに、桜色の唇。

 一度見れば、決して忘れられないほどの美貌。

 間違いない。リノ当人だった。



「ど、どうして、君がここに?」


「うむ! 色々あっての! それよりもじゃ!」



 リノは両腕をコウタの首に回した。

 ぎゅうっと愛しい少年を抱きしめる。

 胸板に伝わるメルティアも劣らない豊かで柔らかな双丘。さらに、鼻孔を刺激する甘い香りに、コウタの顔が赤くなった。



「リ、リノ!?」



 コウタは動揺した。

 しかし、抱き上げた彼女を降ろそうとはしない。

 確かに唐突すぎる再会だった。

 しかも、ここはアティスの王城。どうしてこんな場所で出会うのか。

 疑問は幾つも出てくる。

 けれど、



(……リノ。良かった。元気そうで)



 彼女の身を案じ続けて、ようやく再会できたのだ。

 自覚こそないが、彼女をもう離したくないと心のどこかで思っていた。

 気付かない内に、リノを抱きしめる腕にも力が籠もる。

 だが、そんな本人でも掴みかねている心情など、リノが知る由もない。



「ああ、本物のコウタなのじゃな!」



 今はただ、存分に甘えていた。

 すりすりと、子猫のようにコウタに頬ずりする。

 しかも、その際、何度もコウタの頬に口付けまでしてくる。



「リ、リノ!? ちょっと!?」



 まるで自分の匂いをつけるための、マーキングのようだ。

 ここまで過激なスキンシップは、メルティアやリーゼ相手でもされたことはない。

 コウタの顔が、さらに赤くなった。



「ふふ、ようやくじゃ!」



 そうして少しは満足したのか、リノは、コウタからわずかに身体を離した。

 ただ、その代わりに、



「ずっと、ずっと逢いたかったぞ! わらわのご主人さまよ!」



 ――ありったけの愛を込めて。

 彼女は、そう告げるのであった。




第8部〈了〉

読者のみなさま。

第8部まで読んでいただき、誠にありがとうございます!

もし『少し面白そうかな』『応援してもいいかな』と思って頂けたのなら、

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とても励みになります!

今後とも本作にお付き合いしていただけるよう頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします!

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