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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第七章 《煉獄》の鬼④

『そんじゃあ行くぜ!』



 ――ドンッ!

 大地を粉砕し、《煉獄》の鬼が飛翔する!

 瞬時に間合いを詰めた《朱天》はすでに拳を突き出してた。



(速い!)



 コウタは、表情を険しくした。

 同時に《ディノ=バロウス》は、処刑刀の腹で鉄拳を受け止めた。

 ――だが。



(ッ!?)



 防御は間に合ったというのに、衝撃はまるで打ち消せない。

 処刑刀はミシリとたわみ、《ディノ=バロウス》は吹き飛ばされた。



「――あう!」



 メルティアがギュッとコウタに掴まり、苦悶の声を上げた。

 コウタもまた「……ぐうッ!」と呻いた。



(くそっ!)



 コウタは、衝撃に押されて、両足で地面を削り続ける《ディノ=バロウス》の体勢を整えようとした。

 ――が、



『――逃がさねえ!』



 兄の鋭い声が届く。

 ――ズシンッ!

 地を踏みしめる《朱天》。そして掌底が繰り出された。

 間合いは遠い。

 だが、《ディノ=バロウス》は再び吹き飛ばされてしまった。

 恒力の塊――《穿風》を叩きつけられたのだ。



(お、重い!)



 軽装型とは言え、メルティアが造り上げた《ディノ=バロウス》の装甲は、極めて耐久力に優れる。だというのに、気休め程度にしかならない衝撃だ。



(た、立て直さないと!)



 コウタは焦る。が、次の瞬間、目を見開いた。

 目に前に、拳を構える《朱天》がいたからだ。



(しまった! 《雷歩》か!)



 息を吞む。

 鋼の拳は、弧を描いて襲い来る!



(間に合え!)



 ――ズドンッ!

 重い衝撃。けれど、どうにか間に合った。

 再び拳が直撃する処刑刀。今にも折れそうなぐらいたわむ。



(けどッ!)



 コウタは唇を噛みしめた。

 メルティアは、ただただコウタにしがみつく。

 やはり衝撃だけは抑えきれない。

 悪竜の騎士は、大きく横に吹き飛ばされた。



「メルッ! しっかり掴まって!」


「――はい!」



 コウタは幼馴染にそう告げつつ、愛機の竜尾を利用して空中で反転し、両足で地面に着地する。だが、バランスは取れても勢いは収まらない。

 ガガガッと両足が火線を引き、左手を地面に突き立てて、どうにか威力を抑えた。



(――なんて力だ)



 兄の愛機・《朱天》は、三万八千ジンの恒力値を誇る機体だ。

 対し、現時点の《ディノ=バロウス》は三万五千ジン前後。恒力値そのものは、そこまで大きな差はない。

 しかし、明らかに膂力には差があった。



(……これが兄さんの実力)



《朱天》の猛攻に、コウタはわずかに息が切れていた。

 それほどまでに神経をすり減らして凌いでいるのだ。

 汗が頬を伝い、ポトリと垂れる。



「……コウタ」



 その時、メルティアが不安そうに口を開いた。



「大丈夫ですか? 息が微かですが荒れています」


「……うん。流石にね」



 これほどの緊張を抱いたのは、ラゴウ=ホオヅキと戦った時以来か。



(紛れもなく、兄さんも)



 ――怪物だった。

 汗を片手で拭い、コウタは息を吐く。と、



『どうした?』



 竜尾を揺らして《朱天》が、近付いてくる。

 隙は一切ない。自然な足取りだ。



『少しバテて来たか?』



 そんなことを聞いてくる兄。

 少し懐かしい。村にいた頃、農作業中によくそう声をかけられていた。



『……相変わらず』



 その頃を思い出しながら。



『全然バテないんですね。昔から思ってたけど、本当に凄いや』



 コウタは笑った。



『まあ、俺も色々あって、今も鍛えてるからな』



 兄が言う。



(いや、兄さんがそれ以上鍛えてどうするのさ?)



 内心でそう思い、苦笑を浮かべるが。



『そうですか。けど』



 コウタは、真剣な声色で言葉を続けた。



『ボクも、このまま負けるつもりはありませんので』



 このままでは終われない。

 自分はまだ、兄に何も伝えていない。

《ディノ=バロウス》の双眸が赤く光る。

 そして、悪竜の騎士は地を滑走した。

 悟られないように構築した《天架》を使用したのだ。

 瞬時に《朱天》との間合いを詰める《ディノ=バロウス》。だが、対する《朱天》はカウンターのための拳を固めていた。

 すでに、先読みしていたのである。



(だけど!)



 コウタは双眸を細めた。



『――ふッ!』



 小さな呼気を吐き出す。

 直後、《ディノ=バロウス》は地面を強く蹴り付けた。

 ズガンッと地面が陥没した。《雷歩》を目の前で使用したのである。

 さらに粉砕された地面から土煙が吹き上がり、二機の影を覆い尽くした。



(これが唯一の勝機だ!)



 簡易の煙幕。こんな手は兄には二度と通じない。

 だからこそ――。



(ここで今、すべてを叩きつけるんだ!)


「――メル!」



 コウタは叫んだ。



「《三竜頭トライヘッド》モードに移行する!」



 メルティアは大きく目を見開くが、「はい! 分かりました!」と応えた。

 土煙の中で《ディノ=バロウス》の全身の炎が消えた。

 代わりに右腕の竜頭の双眸が赤く輝いた。

 次いで、どんどん右腕が真紅に染まっていく。

 第一の竜頭の解放だ。

 そうして――。



『アッシュ=クラインさん』



 土煙が徐々に晴れる中、コウタが、告げる。



『これが、今のボクの切り札です』



《ディノ=バロウス》は真紅の右腕を掲げた。

 唐突な現象に流石の兄も驚いたのか、《朱天》がほんの一瞬だけ硬直した。



(――今こそ!)



 処刑刀を握る《ディノ=バロウス》の腕がギシリと鳴った。



(ボクのすべてを!)



 コウタは、その闘技の名を告げた。




『――《残影虚心・顎門あぎと》』




 ――ギイイイイイイイイィッッ!

 空間が軋むような異音。

 それは《朱天》の左腕を中心に、響いていた。

 驚くべき事に、兄は咄嗟に闘技で迎撃してきたのだ。

 それも、コウタの持つ闘技の中でも最大威力を誇る《残影虚心・顎門》と真っ向から拮抗している。



(だけど押し切る!)



 さらに、魔竜は咆哮を上げた。

 そして――。



『《残影虚心・顎門》』



 コウタは再び、闘技の名を告げた。

 半分は、リーゼの力でもある闘技の名を。



『二十四回の斬撃を瞬時に繰り出すボクの切り札です。だけど……』



 バキンッ……。

 不吉な音が響く。続いて落下音。

《ディノ=バロウス》が持つ処刑刀が、半ばから折れた音だ。



(完全に押し切れなかった……)



 地に落ちた刀身を見やり、コウタは目を細める。

 正直なところ、腕の一本は奪うつもりだった。

 だが、《朱天》の左腕は大きく損傷しているが、原型を留めていた。

 最強の闘技をぶつけてなお、その程度の損傷しか与えられなかったのだ。



『《木妖星》の装甲を半分近く食い破った技なのに、剣を折られた上に、完全には腕を落とせないなんて……』



 少しだけ本音がこぼれ落ちる。

 一方、《朱天》は自分の腕を見つめて沈黙している。と、その時だった。



「ここまでのようだな」



 不意に女性の声が響いた。

 コウタが視線を向けると、そこには二機に近付いてくるオトハの姿があった。

 彼女は二機を見比べて告げる。



「片方は剣を。片方は左腕を失った。仕合はここまでだな」


(ここまでか)



 確かに、その通りだ。

 状況的にはまだ五分かも知れない。

 けれど、すでにコウタは、今の自分の全力を兄に見せていた。



『……そうですね』



 コウタは頷く。



「……終わったのですね。コウタ」


「うん。終わったよ。メル」



 背中から問いかけるメルティアにも告げる。

 オトハも《ディノ=バロウス》を見上げて頷いた。

 そして彼女は終了の宣言をしようとした――その時だった。



『いや。待てオト』



 唐突に。

 兄が彼女を止めた。

 オトハが小首を傾げて「……? どうした? クライン?」と尋ねると、



『まだだ。まだ決着はついてねえ』



 兄はそう告げた。



『……え?』



 コウタは目を剥いた。



「何を言ってるんだ、クライン」



 オトハが眉をしかめる。

 そして《朱天》の傍に近付いた。



「もう充分だろう。この戦いの趣旨は、お前だって分かっているんだろう?」


『分かってるよ。けど、少し「欲」が出た』



 兄は訥々と告げる。

 オトハが「……『欲』?」と反芻し、眉をひそめる中、兄は言葉を続けた。



『見るのは、「今日までのこと」だけのつもりだった。けど、ここまで出来るとは思っていなかった。だから、見てみたくなったんだ』


「……コ、コウタ?」



 メルティアが、コウタの背中にしがみついて尋ねる。



「お、お義兄さまは一体何を仰って……?」


「い、いや、ボクにも……」



 困惑するコウタ。

 その直後のことだった。

 ――バカンッと。

《朱天》のアギトが大きく開いたのだ。



(―――――え)



 コウタとメルティアが目を見開く。

 続けて、《朱天》の四本の紅い角に鬼火が灯る。



(こ、恒力値が……)



 起動させていた《万天図》に示された恒力値に、ただただ息を吞む。

 四万五千、五万、六万五千――。

 凄まじい速さで数値が上昇。その値は瞬く間に七万四千ジンに至った。

 そして《朱天》の姿は、漆黒から真紅へと変わっていった。



「せ、赤熱発光……」



 メルティアが呆然と呟く。

 グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ――!!



「――きゃあ!」


「――クッ!」



 天を裂くような《朱天》の咆哮にコウタとメルティアは呑み込まれた。



(こ、これが兄さんの……)



 ――真紅の鬼。

 正真正銘の兄の全力だ。

 その威圧感は、先程までの比ではない。

 コウタとメルティアは、呆然と真紅の鬼を見つめていた。

 すると、兄は――。



『お前のこれまでのことは充分に見せてもらった。はっきり伝わったよ。本当に、今日までずっと頑張って来たんだな。誇らしく思うぞ。だが』



 その声は、とても穏やかで優しい。

 けれど。



『これから試すのはお前の未来だ。お前がどれほどの可能性を秘めているのか。俺にそれを見せてみろ。――そう。今ここで』



 兄の宣告は、あまりにも過酷なものだった。



『本気の俺を相手に、自分の限界を越えてみせろ』



 その言葉に、コウタは唖然とした。



(に、兄さん……)



 ゴクリ、と喉を鳴らす。

 沈黙の中、《朱天》が一歩踏み出した。すると草原に炎が上がった。

 陽炎と共に立つ真紅の鬼が言う。



『お前も本気で――死に物狂いで来い。本気の俺は少しおっかねえからな』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 工房の方では左腕が損傷してるはずなのにこっちでは右腕が損傷してるところ
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