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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第七章 《煉獄》の鬼③

「――行くよ! メル!」


「――はい!」



 コウタの呼びかけに、メルティアが応える。

 直後、《ディノ=バロウス》の全身から、業火が噴き出した。

 熱を帯びない炎は、鎧装と角以外を覆った。

 ――《悪竜《ディノ=バロウス》》モードだ。

 鎧を纏う炎の魔人のような姿。

 初見では誰もが驚く姿なのだが、《朱天》に動揺の気配はない。

 ただ、静かな声で。



『準備は出来たか?』


『はい』



 コウタは答えた。

 元より、兄が動揺するとは思っていない。

 ただ、今は全力を尽くすだけだ。



『それでは――行きます!』



 コウタは宣言する。

 同時に《ディノ=バロウス》が処刑刀を薙いだ。

 撃ち出すのは不可視の刃。

 放出系闘技の《飛刃》。

 しかし、その先制攻撃は、《朱天》の手刀であっさりと粉砕された。



(やっぱり、この程度は読まれるか)



 コウタは目を細めた。



『――ふッ!』



 唇から吐き出される呼気。

 そして、《ディノ=バロウス》が滑走する。

 ――《黄道法》の構築系闘技・《天架》。

 恒力で不可視のレールを構築し、その上を滑走する闘技だ。

 最高難度とも言える技。

 奇しくも、立会人を引き受けてくれた女性の得意技らしい。

 瞬時に間合いを詰めた《ディノ=バロウス》は処刑刀を振り下ろす――が、

 ――ギィン!

 小さく舌打ちし、《朱天》は右の手甲で斬撃を受け止めた。

 コウタはそのまま刃を押し込もうとするが、《朱天》の剛力は凄まじい。

 処刑刀は軽々と弾かれ、《ディノ=バロウス》は大きく仰け反った。



(――まだまだ!)



 が、そこで攻撃の手は休めない。

 全身の炎を撒き散らしながら、姿勢を復帰させて反転し、その勢いを乗せて横薙ぎの一撃を繰り出した!

 ――だが、それも。



(――くッ!)



 手甲で防がれる。

《朱天》の防御を崩すことは出来なかった。

 もっと手数を増やさねば、斬り込むことが出来ない。



「……メル! しっかり掴まってって!」


「――はい!」



 メルティアが、背中にぎゅうとしがみついてくる。

 彼女の柔らかな温もりに、力を貰いつつ、《ディノ=バロウス》は猛攻に出た。

 全身を稼働させて次々と斬撃を繰り出していく――。

 一太刀ごとに、ありったけの想いを込めて。



(――兄さん)



 そして、さしもの《煉獄》の鬼も両腕だけでは凌げなくなってきたのだろう。

 後方に大きく跳躍した。



(よし!)



 コウタは《ディノ=バロウス》を前進させた。

 ここが勝機と追撃を試みる――が、

 ――ブオンッ!

 その場で反転した《朱天》の黒い竜尾が襲い掛かってくる!



(反撃ッ! いや、だったら!)



 むしろ好機だ。

 コウタは、処刑刀に恒力を纏わせた。

 使う闘技は最大の切断力を誇る《断罪刀》。

 これを以て、竜尾を両断してみせる!

 ――しかし。

 ――ドンッ!

 突如、《朱天》は崩れた姿勢で《穿風》を放ち、処刑刀を打ち払った。



『――クッ』



 コウタは呻く。メルティアも「きゃあ!」と悲鳴を上げた。

 体勢を崩す悪竜の騎士。処刑刀の切っ先は、目測から大きく外され、地面に触れると、手応えもなく切り裂いた。



(ッ!? 《断罪刀》を読まれたッ!?)



 まさか、初見で闘技の特徴を見抜いたというのか。

 コウタは『――クッ!』と呻き、《ディノ=バロウス》は間合いを取り直した。

 すると、《朱天》はまじまじと、両断された地面に目をやり、



『やっぱ、そういう闘技か』



 やはり見抜かれていたようだ。

 恐るべき判断能力だ。

 兄の戦闘経験値の高さを見せつけられる思いだった。



『初めて見る闘技だな。なんて言うんだ?』



 兄が尋ねてくる。

 コウタは少し躊躇いつつも、



『……《断罪刀》。ボクはそう名付けました』説明を続ける。『微細な恒力の刃を刀身上に走らせて、切断力を上げる構築系の闘技です』


『……名付けた?』



 兄は少し驚いたような声を上げた。



『それって自分で創った闘技ってことか?』


『……はい。一応』



 コウタは、少し気恥ずかしい気分でそう答えた。

 結構コウタは独自の闘技を考案する。

 理由は楽しいからだ。

 ジェイクとか、クラスメートの男子達と色々な技を考えるのも楽しい。

 ただ、自分でネーミングまで考えた闘技を兄に告げるのは、気恥ずかしかった。



「……私も思ってましたが、《断罪刀》の命名は気合いが入っていますね」


「い、言わないでよ。メル」



 幼馴染は、的確にコウタの心情を見抜いていた。

 しかし、兄は揶揄するようなこともなく。

 ――ゴオンッ!

 まるで祝砲のように。

《煉獄》の鬼は、再び胸部の前で、再び両の拳を叩きつけた。

 コウタは表情を引き締め直し、《ディノ=バロウス》は大きく間合いをとった。



『本当に大したもんだよ。だがな』



 兄は、優しげにも聞こえる声で告げてくる。

 だが、その直後に。



『こっから先は、本気で行くぜ』



《朱天》の威圧感が、天井知らずに増した。



『……はい』



 コウタは静かに頷く。

 ――そう。

 ここからが本番だった。

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