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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第七章 《煉獄》の鬼①

「……メル」



 コウタは、手を繋ぐメルティアに声をかけた。



「……怖い?」


「いえ。大丈夫です」



 メルティアは微笑む。



「コウタが傍にいますから」


「……うん」



 コウタは頷くと、視線を兄に向けた。

 すると、兄の前方で転移陣が輝いた。



「ッ! あれが……」



 コウタは、目を見開く。

 転移陣から現れたのは、一機の鎧機兵だった。

 漆黒を基調にした異形の鎧。甲殻類の背中を思わせる手甲。

 獅子のような白い鋼髪を持ち、額から二本、後頭部にさらにもう二本生やした、紅水晶のような四本角が特徴的な鎧機兵だ。

 鋭い牙が重なり合って閉ざされたアギトは、まるで鬼のような風貌である。



「兄さんの愛機。《朱天》か」



 闘神とも謳われる《七星》最強の機体。

 その名声に違わない、恐ろしいまでの威圧感を放っていた。

 兄が乗り込むと、鬼の両眼が輝いた。

 対峙しただけで射すくめられるような圧だ。

 コウタが微かに喉を鳴らす。と、



「……コウタ」



 メルティアがギュッと手を握りしめて告げた。



「……私達も」


「……うん。行くよ。メル」



 言って、コウタは腰の短剣に手を添えた。



「来い。《ディノス》」



 愛機の名を呼んだ。

 そしてコウタの前でも転移陣が輝く。

 出てくるのは、処刑刀を携える、黒と赤で彩られた竜装の鎧機兵。

 コウタの愛機・《ディノ=バロウス》だ。



(……《ディノス》)



 コウタは、これまで幾つもの試練を共にくぐり抜けてきた相棒に告げる。



(今日の戦いは、きっと今まで以上になる。頼むよ)



 相棒は何も答えない。

 けれど、想いは確かに伝わった気がする。



「行こう。メル」


「はい。コウタ」



 そうしてコウタ達は《ディノス》に乗り込んだ。



(行くよ。《ディノス》)



 コウタは、緊張した面持ちで愛機の操縦棍を握りしめた。

 そして、ズシンと。

 ゆっくりとした歩みで、兄の乗る《朱天》に近付いていく。

 兄は、何も言わず待っていてくれた。



『お待たせしました』



 剣の間合いに入ったところで、《ディノス》は足を止める。

 コウタは自分の相棒の名を兄に告げた。



『これがボクの愛機、《ディノ=バロウス》です』



 すると意外な回答が返ってくる。



『おう。知ってるさ』


『……え?』



 コウタは目を丸くする。

 コウタの背中に寄り添うメルティアも同様だ。



「もしかして、ルカから聞いていたのではないでしょうか?」


「うん。そうなのかな?」



 コウタは率直に兄に尋ねた。



『ルカから聞いてたんですか?』


『まあ、それと似たようなモンだな』



 と、兄はどこか皮肉げな様子で答えた。

 少し疑問に残ったが、あまり気にすることでもないだろう。



(今はそれよりも)



 コウタは面持ちを引き締める。と、



『さて、と』



 おもむろに兄が呟いた。

 同時に号砲が轟いた。

《朱天》が胸部装甲の前で両の拳を叩きつけのだ。



『《七星》が第三座、《朱天》――《双金葬守》アッシュ=クラインだ』



 兄が名乗る。

 コウタは警戒する眼差しを向けた。

 兄は言葉を続けた。



『色々とダメな俺だが、それでも今のお前の気持ちぐらいは分かっている。だが、今の俺は極星の名も背負っているんだ。言っとくが手加減はしねえぞ』


『分かっています』



 コウタは、頷いた。

 それに呼応して《ディノス》もまた力強く頷く。



『手加減は一切無用です。それでは、ここで挑む意味がない。もちろん、ボクと――メルも全力を尽くします』



 そう告げるなり、《ディノス》は処刑刀を横に薙いだ。



(……うん)



 自分でも納得のいく脱力だ。

 背中を支えてくれているメルティアのおかげか。

 自分は今、驚くほどに自然体でいる。



『改めて名乗ります』コウタは告げた。『エリーズ国騎士学校二回生、コウタ=ヒラサカです。愛機の名は《ディノ=バロウス》。そして……』



 そこで一度言葉を止める。

 脳裏にはこれまでの日々が蘇っていた。



『……あの日から』



 ――そう。あの炎の日から。

 コウタの口から、想いが溢れ出てくる。



『あの炎の日から、ボクも色々な人に出会い、色々なモノを背負いました。その中にはボクに二つ名を贈った人間もいました』



 あの男のことも思い出す。

 初めて出会った高い壁。自分を遙かに超える男。



「……ほう。二つ名か」



 と、これはオトハの声だ。

 コウタは視線を女性に向ける。

 肘に手を当てて腕を組む彼女は、軽く驚いている様子だった。



『……そうなのか』



 兄の方も、少し驚いていた。

 だが、それも当然なのかも知れない。

 十代で二つ名を持つのは、かなり稀だ。名乗っていても自称が多いと聞く。



(ボクもアルフ以外じゃ知らないし)



 そう思っていると、



『一体どんな二つ名なんだ? 誰から贈られたんだ?』



 兄が尋ねてきた。



「……コウタ」


「……うん」



 コウタは少しだけ困った表情を見せた。



『贈られた名は《悪竜顕人》。意味は《悪竜》を現世に顕現させた者。重々しくて気恥ずかしいんですけどね。そして、ボクにその名を贈ったのは――』



 自分が知る最強の男。

 緊張と警戒を共に、あの男の名を告げる。



『ボクが初めて戦った《九妖星》。《金妖星》ラゴウ=ホオヅキです』



 数瞬の沈黙。

 オトハは、大きく目を剥いた。

 そして兄は、



『……そうか』



 ポツリ、と呟いた。



『……あのクソジジイとは、すでに遭っているって、シャルから聞いていたが、まさか他の《妖星》とも遭遇してたのか?』



 それはもう、しょっちゅう遭遇している。

 全員で九人いるらしい《妖星》の内、すでに三人と面識がある。

 すれ違いレベルなら《地妖星》も含めて四人である。

 いつか全員と遭いそうで嫌だった。



『ボクとしては、あまり遭いたくないんですけど』



 これは素直な想いだ。

 あんな怪物達には遭いたくない。

 ただ、仇であるあの男と、彼女・・だけは例外だが。



(リノは今、どこにいるのかな?)



 そう思っていると、



「……コウタ」



 不意に、メルティアがギュッとコウタの腹筋をつねってきた。

 コウタが何を考えているのか、気付いたのだろう。



「……またあのニセネコ女のことを考えていましたね」


「え、あ、いや、その……」



 鋭すぎる幼馴染に、コウタが口ごもっていると、



『ははっ、そいつは同意見だ』



 アッシュが笑った。

 一瞬、コウタはキョトンとしたが、《九妖星》との遭遇率を語ったようだ。

 どうも、兄も似たような遭遇率らしい。



「流石はコウタのお兄さまですね」


「いや、まあ、ボクもそう思うけど」



 コウタも笑う。

 兄に、とても、よく似た笑顔で。



『けど、ボクはこの名を受け取りました。この名は最強を目指すボクの覚悟です』



 コウタは、告げた。



『ボクの名は《悪竜顕人》コウタ=ヒラサカ。たとえ、あなたであっても、容易くあしらえるなんて思わないでください』



 伊達や酔狂で、この二つ名を名乗っている訳ではない。

 この名には誇りと共に、覚悟を込めていた。



『……おう。そうだな』



 兄は、真剣な声色で応えてくれた。

 そして――。



『そんじゃあ、始めようとすっか。《悪竜顕人》』


『……はい』



 コウタは頷く。

 あの男さえ超える高い壁。

 それに挑む時が、遂に訪れたのである。

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