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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第六章 戦いの地へ④

「さてと」



 王都が辛うじて見える広い草原にて、アッシュが言う。



「ここなら多少無茶しても誰にも迷惑はかけねえ」



 近くにあるのはここまで乗ってきた二台の馬車と、アッシュとオトハの愛馬のみ。

 障害物もなく、通行人の姿もない。



「……はい」



 コウタも周囲を確認して頷く。

 確かに、ここならば全力で暴れても問題ないだろう。



「……では」



 メルティアにも劣らない大きな胸を両腕で支えつつ、オトハが言う。



「私が立会人でいいな」



 ――《七星》の一人。《天架麗人》オトハ=タチバナ。

 立会人として、これ以上の人物もいないだろう。

 コウタは「はい」と頷いた。

「悪りい。オト。頼むわ」と、アッシュも頭をかきながら告げた。


 空気が、徐々に張り詰めていく。

 もはや、ここは草原ではなく決闘場だ。

 リーゼやアイリ、ジェイク達、エリーズ組は互いに頷いて距離を取っていく。アリシアやエドワード達のアティス組もそれに倣った。



「ユーリィちゃん。行こうね」



 サーシャが優しい声でユーリィに告げる。

 アッシュの傍から離れようとしなかったユーリィも、サーシャと共に距離を取るが、



「……メルちゃん?」



 その時、アリシアが、ふと気付く。

 何故か、鋼の巨人だけはその場に残っていた。



「どうしたの? メルちゃん?」



 アリシアが近づき、声をかけようとした時、



「……メル」



 不意に、コウタが呟いた。

 そして穏やかな眼差しでメルティアを見つめる。

 本当は、こんな選択はしたくない。

 だけど――。



(ごめん。メル)



 コウタは、おもむろに手を差し伸べた。

 覚悟を込めて願う。



「ボクはこの戦いに、すべての力で臨みたい。我が儘だと思っている。だけど」


『みなまで言わないでください。コウタ』



 メルティアはそう応えた。

 着装型鎧機兵パワード・ゴーレムの中では穏やかに微笑んでいる。



『あなたが望むのなら、私はどこまでも付いていきます』



 それは、決意の言葉だった。

 この場におけることだけではない。

 これからの人生も含めた決意だ。

 だからこそ、彼女は勇気を振り絞った。

 多くの人が見つめる中、彼女を守る城壁を解放したのだ。

 ――プシュウ、と。

 着装型鎧機兵パワード・ゴーレム胸部装甲ハッチが上に開かれた。

 そしてメルティアは、「え?」と驚くサーシャ達をよそに平原に降り立つ。



「「「…………え?」」」



 アリシア達は、完全に呆気に取られていた。

 が、それも長くは続かない。



「きょ、巨人から、とんでもねえ美少女が出てきたぞ!?」



 大きな声を張り上げたのはエドワードだった。

 メルティアが、ビクッと肩を震わせた。

 大きな声は怖い。

 自分の容姿を言われることは、もっと怖い。

 もしここでコウタに泣きつけば、きっと彼は、ギュッとしてくれるだろう。

 だが、今はダメだ。今は覚悟を見せる時だった。



「……メル」



 コウタが心配そうに声をかけてきてくれた。

 そしてメルティアの手をギュッと握ってくれる。



「大丈夫?」


「は、はい」



 メルティアは、頷いた。

 手の温もりで少し冷静になると、周囲の情報も少し耳に入ってくる。

 どうやら、ミランシャが、何も知らないサーシャやエドワード達に、メルティアの事情を説明してくれているようだ。


「う、うそおっ!?」「ほ、本当の姿!? つうか、なんであんな甲冑つけてんすか!?」といった、アリシアとエドワードの声が耳に届く。



(こ、怖いからですよ)



 やはり、メルティアはビクッとした。



「いえ、メルちゃんはね」



 そんな中、ミランシャは、さらに説明を続けていた。



「極度の人見知りなのよ。対人恐怖症レベルでね。出かける時はあの鎧が必要なのよ」



 と、告げた時、



「……いや、ミランシャ。あれって鎧なんかじゃあねえだろ?」



 アッシュが会話に入ってきた。

 次いで、メルティアが脱いだ着装型鎧機兵パワード・ゴーレムに目をやり、



「鎧機兵なんだろ。あの鎧って。あと、あっちのチビ達も」


(―――え)



 大きく目を見開く。

 メルティアのお義兄さまは、ゴーレム達の素性さえも見抜いていた。

 親指で、クイッと零号達を差している。

 流石にメルティアも驚いた。



「え? が、鎧機兵!?」



 その時、驚愕の声を上げたのはサーシャだった。

 彼女は一番近くにいた二十八号の体に触れた。そのまま、二十八号を持ち上げようとしたようだが、「う、う~ん」と唸る。重すぎて無理だったようだ。



「うん。そうだよ。零号さん達はオルタナと一緒なの」



 と、ルカが微笑みながら補足する。



「……ウム!」零号の冠に止まるオルタナも翼を広げて叫んだ。「アニジャタチハ、アニジャタチダカラ、オレノ、アニジャタチナノダ!」



 それに応えるように、零号達は親指を立てている。

 アリシア達は、ただただ唖然としていた。

 唯一、アッシュだけは冷静に、



「個人的にはすっげえ興味があるんだが、まあ、それは後でもいいか」



 そう告げてから、メルティアに視線を向けてきた。



(は、はう……)



 改めて見ると、余りに似ていないと思っていた青年の容姿も、その瞳だけは、とてもコウタに似ている。



(コ、コウタのお兄さま。わ、私の、未来のお義兄さま……)



 メルティアは、これまでにないほどに緊張した。

 だが、今こそ勇気の見せ所だ。

 この日のために、船旅の中で幾度となく練習を繰り返してきたのだ。



(大丈夫……出来ます。きっと出来ます)



 メルティアは、大きく息を吸い込んだ。吐き出す。

 しかし、一回では落ち着かない。

 何度か繰り返してから、



「は、初めまひて!」



 少し嚙んでしまったが、どうにか告げる。

 続けて頭を下げる。緊張からネコ耳が盛んに動いていた。



「メ、メメ、メルティア=アシュレイでふ! コ、コウタの幼馴染み、です! そ、その、よ、よろしくお願いしましゅ!」


(……は、はうう)



 結局、最後まで嚙んでしまった。



「……メル」



 何やらコウタの方は、目頭を押さえてまで感動しているようだが、メルティア自身は火が出そうなぐらい赤面して死んでしまいそうだった。

 一方、アッシュは目を細めていた。

 そして微かに笑みを零し、



「……アッシュ=クラインだ」



 コウタによく似た、とても優しい声で名乗ってくる。



「そう呼んでくれ」


「は、はい!」



 メルティアは、こくんと頷いた。

 心臓は破裂しそうなぐらい鼓動を打っていた。

 思わず「分かりました! お義兄さま!」と叫んでしまいそうだった。

 すると、その時だった。



「アッシュ=クラインさん」



 コウタが、兄である青年の名を呼んだ。

 同時に、メルティアの手を握る力が強まった。



「ボクの愛機は彼女と二人で乗って真価を発揮します。彼女も同乗してもいいですか?」



 メルティアはコウタを見つめた。



(……コウタ)



 彼女も、ギュッと力を込める。

 アッシュは少し目を細めて。



「それは、別に構わねえが……」



 そこで、ふっと笑った。

 青年は少し腰を屈めると、小さな声でコウタとメルティアにだけ告げた。



「昔は、いつかこんな日が来るんだろうなって楽しみにしてたよ。もう、叶わねえんだなと思ってたんだが、まさかこんな形で実現するとはな」


(お、お義兄さまっ!)



 メルティアの顔が赤くなる。

 勘の良いメルティアは、気付いていた。

 今の義兄の台詞は、弟が恋人を連れてきたという意味なのだと。

 ただ、



「……え?」



 流石はコウタというべきか。

 素で言葉の意味が分かっていなかった。



(……コウタ)



 メルティアはジト目でコウタを見据えた。

 一方、アッシュは、優しく口元を綻ばせて。



「後で、ゆっくり二人の話を聞かせてくれ。だが、今はそれよりも」



 そこで表情を真剣なものに変える。



「そろそろいいな?」



 何が、そろそろなのか。

 流石に、こっちの意味にはコウタも気付く。



「……はい」



 コウタは頷いた。

 そうして二人は平原の奥に進み始める。

 メルティアはコウタと手を繋いだまま、後に続く。

 対するアッシュの後ろには、立会人であるオトハが続いていた。



「あっ、ちょっと待って、メルちゃん!」



 と、世話焼きなアリシアが、メルティアを止めようとするが、



「大丈夫よ。アリシアちゃん。ここは見送って」


「ええ。安心してください。アリシアさま」



 と、ミランシャとシャルロットに諫められていた。

 コウタ達は皆からある程度離れると二手に分かれた。アッシュは右に。コウタとメルティアは左側に移動する。それぞれの愛機を召喚するのに充分な距離を取った。

 オトハは、その中央の位置に立つ。

 少し離れることになったアリシア達も沈黙する。

 緊迫した空気が覆う。



「……では」



 オトハがすっと右腕を上げた。

 そして宣言する。



「これより、アッシュ=クラインと、コウタ=ヒラサカの立合いを開始する」



 ――兄と弟。

 生まれて初めての本気の兄弟喧嘩たたかいが、こうして始まったのである。

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