表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

254/531

第六章 戦いの地へ①

 ――鉱山街グランゾ。

 王都ラズンから、馬車で二日ほどの距離にある鉱山街だ。

 しかし、鉱山街と言ってもむさ苦しい場所ではない。

 意外なほど綺麗な街だった。

 街を構成するのは石造りの建物。ほとんどの道は石畳で舗装されている。

 街中を行きかう人々も鉱員だけではなく、女性や子供の姿もちらほらとある。

 食品店などもあり、普通の街と変わらない雰囲気だ。



「……ふむ」



 そんな街中を、馬車に揺られて進む彼女は、不機嫌そうに眺めていた。



「綺麗な街並みじゃが、どうして王都をスルーしてまずここなのじゃ」



 ぶすっと呟く。

 ――リノ=エヴァンシード。

《九妖星》の一角だ。



「折角、王都には義兄上がおられるというのに」


「……ウム」



 リノの隣に座る蒼いゴーレム――メルティアから強奪後、蒼くカラーリングしたサザンXが頷く。

 なお、サザンXの隣には、カテリーナ=ハリスが微苦笑を浮かべて座っている。



「……コウタノ、アニニハ、アッテミタカッタ」


「そうであろう? お主もそう思うであろう」



 ますますもって、リノは頬を膨らませた。



「……はは。そうむくれないでください。姫」



 そう言って笑うのは、リノの前に座る四人の男の一人。

 ボルド=グレッグだった。



「クラインさんにご挨拶すると、ここに来るのは困難になりますからね」


「まあ、俺など即座に殺し合いになるな」



 そう皮肉気な顔で嘯くのは、ボルドの隣に座るレオス=ボーダーだ。

 流石に狭い馬車内では煙草は控えている。



「……姫」



 その時、落ち着いた声が響いた。

 レオスに続いて、四人の内の三人目。

 ラゴウ=ホオヅキの声だ。



「お許しを」ラゴウが厳かに言う。「ですが、この国に来た以上、やはり一度は行くべきだと具申致します」



 続けて、愚直に頭を下げる。

 ちなみにラゴウの隣に座る四人目は、リノの懐刀というか、副官というか、ただの悲惨な犠牲者というべきか、ゲイルだった。

 彼は《九妖星》だらけの馬車内で、石像のように硬直していた。



「……分かっておる」



 不機嫌は直らないが、リノは言った。



「わらわとて支部長の一人じゃ。同僚の死を悼む気持ちぐらいはある。個人的には気に食わん相手でもな」


「感謝致します。姫」



 ラゴウは、再び頭を下げた。

 リノは「ふん。気にするな」と言って、馬車の窓に視線を向けた。

 そうこうしている内にも、馬車は街中を進んでいく。



「おっと。そう言えば」



 不意に、ボルドが呟く。続けて馬車内の御者台に繋がる配管に、「すみません。少し止めて頂けませんか」と告げた。

 馬車が速度を徐々に落として停車した。



「……? どうした? ボルド」



 レオスが訝しげな様子で尋ねると、



「いえ。手ぶらでは何ですし」



 言って、ボルドは立ち上がり、馬車のドアを開けた。



「花を……というのは、彼に似合いませんね。上等な酒でも手に入れてきますよ」


「ふむ。そうだな」



 ラゴウも立ち上がった。



「吾輩も行こう。あやつとは酒の趣味だけは合ったしな」


「……そうか」



 レオスは少し考えた後、立ち上がった。



「ここで待つのも暇だな。俺も参加しよう」



 そう告げて、レオスを含めて三人が馬車から降りた。



「では姫。カテリーナさん。ゲイルさん。この近くで少し待っていてください」



 ボルドが和やかに告げて、三人は歩いて行く。

 三人とも黒服なのだが、とても自然に街中に消えていった。

 カテリーナがドアを閉めると、しばらくして馬車が動き出した。

 近くで停車しても良い場所を探しているのだろう。



「……ぷはあっ」



 その時、ゲイルが息を吐き出し、ずるずると長椅子から落ちた。

 リノ以外の支部長が消えて、ようやく石化から解放されたようだ。



「情けないのう」



 リノが呆れるように呟く。



「この程度で緊張してどうする。カテリーナを見よ」



 リノが、優雅に座るカテリーナを、クイッとあごで差す。



「この余裕。流石はボルドの懐刀じゃな」


「恐れ入ります。姫」



 言って、頭を下げるカテリーナ。

 しかし、リノは知らない。

 冷静に見える面に対し、彼女の脳内は――。



(やった! 二回目! ボルドさまと二回目の旅行! やった! やった! 邪魔者は多いですが、何もずっと行動を共にする訳でもありません! だから、今度こそ! 今度こそは! ボルドさまと熱い夜を!)



 ずっと、大はしゃぎ状態であること。

 愛しい上司と一線を越える。

 そして、そのままゴールイン。

 これこそが、彼女の欲望にして野望であった。だからこそ、今回の旅行の機会を設けてくれたレオス=ボーダー支部長には、心から感謝していた。

 しかし、それを一切、表面には出さないのがカテリーナだ。



「これが私の仕事ですから」



 赤い眼鏡をクイッと上げて告げる。

 リノは腕を組み、「うぬ。良い心がけじゃ」と満足げに頷いた。

 一方、ゲイルは反論する気力もなく、項垂れていたが。



「……む」



 リノが目を細めた。

 馬車が、再び停車したことに気付いたのだ。



「ふむ。待つ間、わらわも少し降りるか」



 言って、ドアを開ける。続けて馬車を降りと、サザンXが後に付いてきた。



「ん? お主は中で待っていても良いぞ?」


「……オレ、ヒメノ、ゴエイ」



 と、胸を張って、サザンXが言う。



「……ヒメヲ、マモルト、コウタト、ヤクソクシタ」


「……ふふ。そうかの」



 リノは微笑む。

 その場所は少し広めの路地裏の横だった。大通りの角に当たる場所だ。

 この馬車ならボルド達も見つけやすいだろう。



「……ふむ」



 リノは大きな胸をたゆんっと揺らして、背伸びをした。

 続けて、軽くストレッチをしてから、



「……コウタは今、この国に到着したところぐらいかの?」



 リノは蒼い空を見上げた。

 そして、心底残念そうに呟く。



「ああは言ったが、やはり無念じゃのう。義兄上にはぜひ挨拶をしておきたかった。まったく。支部長というのも世知辛いものじゃ。それに――」



 そこで、リノは瞳を細めた。

 少女のものではない、妖しい光が瞳に宿る。



「最強の《七星》。《双金葬守》か」



 その噂は幾度も聞いている。

 ――闘神・《朱天》を駆る者。



(あのガレックを討ち取った男か)



 現在、《九妖星》は一名欠けている。

 何故なら、このグランゾの地にて《九妖星》が一角、《火妖星》ガレック=オージスが《双金葬守》――すなわち、コウタの兄に討ち取られたからだ。

 リノ達がこの地に来たのは、いわゆる墓参りのためだ。

 この地で散った同胞のために足を運んだのだ。

 だが、それは、やはりついでだった。

 そもそもガレックは女癖が悪い――娼館に通う程度ならともかく、一般人だろうが、敵だろうが、同僚だろうが、次々と女を食っていくことで有名な男だった。

 噂通りだと、自分が満足するまで抱き潰して遊ぶらしい。

 女癖においてはリノの父親も大概なのだが、まだ父は落とした女性を妻として迎えているので、まだマシ(?)な方だ。

 ともあれ、女性であるリノとカテリーナはこの墓参りにあまり乗り気ではない。



「やはり、気になるのは義兄上の方じゃな」



 リノは、心躍らせて妖艶に笑った。



「義兄上。その実力、果たして、どれほどのものなのか見てみたいのう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ