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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第五章 頂きに挑む③

「アッシュ。ただいま」



 ユーリィが嬉しそうに言う。

 コウタは、ハッとした。



『……コウタ』



 着装型鎧機兵パワード・ゴーレム越しにメルティアが、心配げな様子で声をかけてくる。



『大丈夫ですか?』


「う、うん」



 コウタは頷く。

 見ると、メルティアのみならず、リーゼとアイリも、とても心配そうな眼差しをコウタに向けていた。



「……コウタさま」


「……本当に大丈夫? コウタ?」



 二人ともコウタの傍らに寄り添い、ギュッと手を握ってくれる。

 彼女達の手の温もりを感じながら、コウタは、再び兄に目をやった。

 兄は優しい眼差しで、義娘の頭を撫でていた。



(……ああ、本当に兄さんなんだ)



 事前に聞いてはいたが、髪の色には驚いた。

 かつては黒かった髪が、毛先のみわずかに名残を残して、今では雪のように白い。

 一体、何があったのか。

 しかし、それ以外は本当に兄だ。

 まるで容姿が変わっていなかった義姉と違い、大人になった兄の姿だった。

 兄は、義娘としばし会話をした後、おもむろに視線をこちらに向けた。

 再び、コウタは緊張した。

 一方、兄は落ち着いた様子で、客人達を順に見ていく。

 まずは、アティス組のメンバーを。比較的彼らの近くにいたシャルロットと目があったようだ。シャルロットは、深々と兄に頭を下げていた。



「……アシュ君」



 その時、一人の女性の声が響いた。

 コウタが視線を向けると、そこいたのはミランシャだった。彼女は腕を後ろ手に組んで兄を見つめていた。



「おう。お前も来てたんだよな」



 兄が親しげに笑う。と、



「うん。積もる話は一杯あるけど、一つだけ先にいいかな?」



 ミランシャはそう告げると、大きく深呼吸した。

 どうしてか、若干頬が赤い。

 そして、彼女はいきなり兄の首に抱きついた。



「おいおい」



 アッシュは少し驚いたようだが、慌てない。

 それはコウタから見ても、ただの再会のハグだった。兄に想いを寄せているユーリィやルカ達も特に騒がないし、リーゼなどは「あらあら」と優しげに見ている。

 しかし、しばらくすると、兄は何故か目を丸くした。

 ミランシャが、何かを告げたようだ。

 よほど恥ずかしい何かだったのか、彼女は真っ赤な顔でニパッと笑い、



「じゃ、じゃあ、お願いね!」



 それだけを言って、逃げるように、そそくさと距離を取る。



「……ミランシャさま」



 すると、彼女の傍にシャルロットが移動し、



「抜け駆けしましたね?」


「――うっ!」



 ミランシャが頬を引きつらせた。続けて少し視線を逸らして。



「ちょ、ちょっと決意表明をしただけよ! 頑張るから、次の時はアタシを選んでねって! 別に抜け駆けじゃないわ!」


「完全に抜け駆けではないですか」



 そんな風に、何気に仲の良い二人が言い争っていた。



「??? 一体、ミランシャさまとシャルロットは何を話しているのでしょうか?」


「さあな? しかし」ジェイクがサーシャ達には聞こえないように小声で尋ねる。「(あの人がコウタの兄貴で間違いねえんだよな?)」



 コウタは「うん」と頷いた。

 次いで、改めて兄の方を見やる。

 兄は、オトハと話しているようだった。



「(髪の色は違うけど、間違いなく兄さんだよ)」



 コウタも、この場にいる者達にしか聞こえない小声で返した。



『そ、そうですか』



 メルティアが緊張した声を零す。

 リーゼとアイリも、どこか緊張した様子だ。

 その時、兄の視線がこちらに向いた。視線が重なったのはメルティアだ。



『――は、はうっ!』



 メルティアがギョッとして、着装型鎧機兵パワード・ゴーレムの巨体が揺れる。

 兄は続けて、零号達に目をやった。

 すると、零号が一機だけ兄の元に向かった。



「え? 零号?」



 コウタがキョトンとする。

 零号は、兄の元に辿り着くと、おもむろに拳を突き上げてきた。



「……ヒサシイナ。友ヨ」


「……? おう?」



 兄もアッシュも拳を突き出し、鋼と生身の拳がゴツンとぶつかる。

 当然ながら、兄と零号は初対面だ。

 挨拶としては奇妙だが、零号はどこか満足そうな様子だった。

 そうして、メルティアの元に帰ってきた。



「……? アニジャ?」


「……ナンデ、ヒサシイ?」


「……気ニスルナ。弟タチヨ」



 と、ゴーレム達が会話している中、兄の視線はジェイクに移った。

 ジェイクにとっては、恋敵である相手だ。

 しかし、ジェイクは安易に敵意だけを抱くような少年ではない。

 二カッと清々しい笑みを見せて。



「ジェイク=オルバンっす。よろしくお願いします」



 頭を下げた。兄は笑う。



「アッシュ=クラインだ。そう呼んでくれ・・・・・・・



 一瞬、コウタ達は沈黙した。

 それはジェイクだけに告げられた台詞ではないと察したからだ。



「……うん。よし」



 そして三人の少女の中で、先陣を切ったのはアイリだった。

 自分にとっても、特別になることは確定している青年の元に向かう。

 兄は視線を落として、アイリと目を合わせた。

 昔と変わらないその黒い眼差しはとても優しい。



「……初めまして。お義兄さん・・・・・



 あえて微妙にニュアンスが違う台詞を言いつつ。

 アイリは、頭を下げた。



「……アイリ=ラストンだよ……です。よろしくお願いします」



 ただ、彼女であっても流石に緊張した様子は窺えたが。



「ああ。よろしくな。アイリ嬢ちゃん」



 一方、兄は、ふわりとアイリの頭を撫でた。

 彼女の長い髪が揺れる。



(……え?)



 一拍の間。アイリは顔を赤くして、慌ててその場から離れた。

 急ぎ、メルティアの元まで戻ってくると、着装型鎧機兵パワード・ゴーレムの影に隠れた。

 そして呟く。



「……す、凄い。お見事。自然すぎて当然のように受け入れてたよ」



 アイリは、基本的にコウタ以外の異性に頭を撫でられることを嫌っている。

 コウタの次に親しいジェイクが相手であっても苦手だ。

 それが、すんなりと受け入れてしまった。



『……は、はい。想像以上ですね。流石です』



 その実状を知るメルティアも、喉を唸らせた。



「そうですわね――」



 リーゼも何かを呟こうとしてが、そこで止まる。

 兄と視線が重なったからだ。



(わ、わわっ! お、お義兄さまがわたくしをっ!)



 内心では激しく動揺するが、どうにか呼吸を整えて、



「……初めまして」



 腰に巻いた白布ケープを、スカートの裾のようにたくし上げた。

 そして義妹としての想いを込めて、頭を垂れる。



「リーゼ=レイハートと申します」



 声はわずかに震えていた。

 しかし、内心の動揺具合を鑑みれば、むしろ、その程度の震えで抑えてみせたのは、流石はリーゼと言ったところか。



「アッシュ=クラインだ」



 兄は、どこか感慨深げにリーゼを見つめて名乗った。

 一瞬だけ、シャルロットの方にも目をやる。

 恐らくリーゼのことは、シャルロットから聞いていたのかも知れない。

 そして、いよいよだ。

 緊張しすぎて石像化してしまっているメルティアは、やむをえず置いて。

 とても、ゆっくりと。

 白髪の青年は、コウタに目をやった。



「…………」



 一方、コウタは無言だった。

 語ることが思いつかない。

 ――いや、ここで語ることは、一つだけと決めていた。

 すると、兄が歩き出した。

 とても自然な足取りである。

 けれど、その一歩にどれだけの重みがあるのか。

 それは、事情を知るメルティア達にも分からないことだ。

 その重みが分かるのは、コウタだけだった。



(……トウヤ兄さん)



 コウタは、ただ静かに兄の到着を待った。

 たった数歩。

 それだけの距離が、とても長く感じられた。

 そうして、彼らは、正面から立った。



「………」



 二人は、同じ黒い眼差しで互いを見やる。

 ただ、それだけの時間が続いた。



「……アッシュさん? コウタ君?」



 奇妙な沈黙に、アリシア達も眉をひそめ始めていた。

 恐らく、オトハ以外は事情を一切知らないはずの彼女達だが、明らかに二人の様子がおかしいことには気付き始めた。



「……アッシュ? どうしたの?」



 ユーリィが呟く。

 少し不安そうな表情だ。

 彼女は、兄の元へ向かおうとしたが――。





アッシュ=クライン・・・・・・・・・さん」

 




 その時、コウタが口を開く。

 ここまで、本当に長い道程だった。

 あの炎の日を生き延びて。

 多くの出会いを得て、多くの戦いを越えて、ようやくここに辿り着けた。



(ボクは……)



 そして、コウタは八年に及ぶ想いを込めて、こう告げるのだった。



「どうか、これからボクと仕合って頂けませんか?」

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