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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第五章 頂きに挑む②

 クライン工房は、意外と小さな工房だった。

 田畑と農家が見える田園風景の中に、ポツンと建った二階建ての建屋。

 一階は大きく開かれた作業場ガレージだ。

 工房の隣には馬でも飼っているのか、小さな厩舎がある。

 今は午前十時すぎ。

 すでに、店は開いているのだろう。シャッターは上がっていた。



(ここに兄さんが……)



 流石にコウタが緊張していると、



「早く行こう」



 ここが実家であるユーリィが、トコトコと歩き出した。

 続いて、まるで自分の家かのように、慣れた様子で敷地内に入っていくサーシャとアリシア。そしてそれに続く、ルカとミランシャ。彼女達にも躊躇いがない。ロックとエドワードは、彼女達の後に続いた。

 コウタ達は少し躊躇いつつも、彼らの後を追った。

 そうして作業場の門戸をくぐり、



「……アッシュ。ただいま」



 ユーリィが声を上げるが、返事はない。

「……むう」と、ユーリィが少しむくれていると、



「あ、オトハさんだ」



 サーシャが指差す。

 そこは、作業机の前。パイプ椅子に一人の女性が座っていた。



「まあ!」



 リーゼが目を見開き、ポンと手を打った。



「確かに本物のオトハさまですわ!」


(……この人が)



 コウタは、まじまじと彼女を見つめた。

 年齢は二十代前半か。

 紫紺色の髪に、白い眼帯。サーシャ並みの抜群のスタイルには黒い革服を着ている。

 顔立ちも美しく、今は瞳を閉じていた。

 どうやら、椅子に座ったまま寝ているようだ。



(これまた、凄い美人だ)



 素直にコウタは思う。

 何となくだが、どこか義姉サクヤに似ている気もした。



「……これまた、凄い美人さんだよ」



 と、リーゼの隣に立つアイリが、コウタが思ったことをそのまま呟いた。

 コウタは少し苦笑した。



「……オオ、ビジン」


「……ネムレル、モリノビジョ」


「……オチツケ。ココハ、モリデハ、ナイ」



 と、零号達のテンションも上がっているようだ。



「なんか、オトハさんの寝顔って初めて見るかも」



 その時、アリシアが少し驚いた顔で目を瞬かせた。

 サーシャも小首を傾げて。



「うん。疲れてるのかな?」



 話によると、見た目からは想像しにくいが彼女は傭兵らしい。

 人前で眠るのは、確かに珍しいことなのかもしれない。

 サーシャとアリシア。ユーリィは顔を見合わせた。

 ともあれ、客人が来ているのに寝たままなのは失礼だ。

 彼女達はこくんと頷くと、代表なのか、ユーリィがオトハに近付き、



「……オトハさん」



 肩を揺さぶって見る。

 が、オトハは中々起きない。

 代わりに大きな胸だけが、たゆんっと揺れた。ユーリィはムッとする。

 しかし、本当に一向に起きない。

 小さな声で、寝言らしきものを呟き続けている。



「ま、待って。初めては前がいい。お願い、ぎゅっと……」



 どこか不安げな、それでいて甘えているような声を出す。



「……オトハさん?」



 ユーリィは眉根を寄せた。

 爆睡するオトハも珍しいが、これは一体――。

 と、その時だった。



「……どいて。ユーリィちゃん」


「え?」



 ユーリィが驚いて振り向くと、そこにはミランシャがいた。

 少し不機嫌そうな彼女は、バシンッとオトハの頭を強く叩いた。



「――ふわっ!?」



 流石にオトハが目を覚ます。

 頭を両手で押させて、困惑する彼女。

 そこで、ミランシャの姿に気付いたようだ。

 ミランシャは呆れるように呟いて。



「目が覚めた? オトハちゃん」


「ハ、ハウルか?」



 パチパチ、と目を瞬かせるオトハ。

 二人は共に《七星》だ。

 当然、面識のある彼女達は、何故か小声で話し合っていた。

 その様子を遠くで見る少女がいた。



「お、起きられましたわ」



 オトハに憧れるリーゼだ。



「あ、あの方が、オトハさまなのですね」



 喉を軽く鳴らす。と、



「緊張なさらないでください。お嬢さま」



 シャルロットが微笑んだ。



「昨日、私も会話をしましたが、オトハさまは良識的な方です」


「そ、そうですわね」



 リーゼが、シャルロットを見つめてそう呟く。

 その時、オトハは、ミランシャ相手に、「……え? はあっ!?」と、パイプ椅子を倒して叫んだ。何事かとコウタ達が注目すると、



「お、お前、何を言っているんだ!?」



 そう叫んで、ミランシャに詰め寄ろうとするオトハ。

 何やら、二人は言い争っているようだったが……。



「あっ、危ないわよ」



 不意にオトハが膝を崩した。

 咄嗟に、ミランシャがオトハの片腕を掴んで支える。



「……? 何か、もめ事でしょうか?」



 リーゼが眉根を寄せる。

 すると、何故か、シャルロットは遠い目をした。



「いえ。現在、ミランシャさまは、オトハさまに尋問されているのです」


「尋問?」


「はい。まあ、あの態度、消耗具合では私達の推測は大当たりのようですね」


「???」



 リーゼがますます眉根を寄せた。

 と、その時。



「オ、オトハさん? どうかしたんですか?」



 疑問に思っていたのは、リーゼ達だけではなかった。

 サーシャ達もそうだった。

 問いかけの声はサーシャのものだった。

 すると、オトハは目に見えて動揺した。



「う、うむ。いや、何もない」



 と、言葉を濁す。

 サーシャだけでなく、アリシア、ルカも首を傾げた。

 オトハはとりあえず大きく息を吐き出すと、



「すまない。少し疲れて眠っていた。それよりも客人か?」


「あ、はい」と、サーシャが頷く。「彼らがエリーズ国の人達です」



 言って、コウタ達に片手を向けた。



「……そうか」



 オトハがコウタ達の方を見やる。

 髪と同じ、紫紺色の瞳。

 彼女は、まずメルティアを。次に零号達。視線が重なってドキッとするリーゼに、続けてアイリを見る。その後、二カッと笑うジェイクに目をやってから――。

 ゆっくりと瞳を細めた。

 その視線の先には、コウタがいた。

 短い沈黙。



「君が……」



 オトハは、唇を動かした。



「コウタ=ヒラサカなのだな」



 名前を呼ばれて、コウタはわずかに緊張するが……。



「……はい。初めまして。オトハ=タチバナさん」



 すぐに深々と頭を下げた。

 再び短い沈黙。



「……? オトハさん?」



 その時、ユーリィが、小首を傾げた。

 二人の様子がおかしいことに気付いたのだ。

 だから、率直に尋ねた。



「コウタ君と知り合いなの?」


「いや、初めて会う。だが、彼は――」



 ――と、オトハが少し困ったような顔をした時だった。

 ギシッとわずかに音が鳴った。

 工房の奥。二階に続く階段からの音だ。

 ギシギシ、と階段が軋む音は続く。



(―――あ)



 ドクン、とコウタの心臓が大きく跳ね上がった。

 直感が告げる。

 きっと、この音の主は――。

 コウタのみならず、全員が階段の方に注目した。

 そして、一人の青年が現れる。



「よく来たな。いらっしゃい」



 告げられる歓迎の言葉。

 けれど、コウタは返す言葉もない。

 大きく変わり果てた髪の色。

 しかし、それ以外は想像通りだった。

 そこには、紛れもなく。



(……兄、さん)



 ――トウヤ=ヒラサカ。

 今は『アッシュ=クライン』と名乗る、兄の姿があったのだ。

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