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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第四章 いざ、クライン工房へ②

 翌朝。

 コウタは、朝早くから王城の廊下を歩いていた。

 三階の窓の外には、鳥が羽ばたいているのが見える。

 再会の日に相応しい晴天だった。

 今の時間帯は普段の起床時間よりも早い。同室のジェイクはまだ寝ている。

 コウタは、どうしても目が冴えて早めに起床したのだ。



「どこかで素振りでもしようかな」



 もはや日課となった早朝訓練。

 都合のいい場所はないかと、城内を進んでいたら、



「お。コウタじゃねえか」


「おはよう。早いな。コウタ」



 不意に、声を掛けられた。

 進んだ廊下の奥。そこには、エドワードとロックがいた。

 昨日と同じく、アティス王国の騎士学校の制服を着ている。



「おはよう。エド。ロック」



 コウタは破顔した。

 昨日出会ったばかりの新しい友人達。

 しかし、コウタ達は、半日程度でかなり仲が良くなっていた。

 一番の理由は、昨日の晩の男だけのお祭り騒ぎのおかげか。

 親睦を深めると理由で、コウタとジェイクの部屋にエドワード達が遊びに来たのだ。

 そして少年達が夜に集まれば、当然、話題は好きな子のことになる。



『オレっちは、シャルロットさん一筋だ!』



 そう堂々と宣言するジェイクに、エドワードとロックは拍手で応えた。

 ちなみにコウタは、明言こそしなかったが、隠しきれない好意から、何となくメルティアなのだと認識された。メルティアの本来の姿を知らないエドワード達は『お、おう』『そ、そうか。好みは人それぞれだしな』と顔を強張らせていたが。



(そして、ロックが好きなのはアリシアさんで)



 コウタは、エドワードに目をやった。



(エドが好きなのは、ユーリィさんなのか)



 彼女の名を聞くと、少しだけ複雑な気分になる。

 兄が溺愛しているという『愛娘』。

 兄が子煩悩なのかは、流石にコウタも知らないが、エドワードの恋路が困難なのは目に見えている。「娘が欲しければ俺を倒してみろ」ぐらいは言われてそうだ。



(まあ、ミランシャさんの話通りなら、ロックの方も大変だろうけど)



 誰にも気付かれないように内心だけで溜息をつく。

 ジェイクも含めた三人の友人達。何気に彼らの想い人全員が、揃って兄に好意を抱いているのはどういうことか。



(……兄さん)



 流石に少し頬が引きつってくる。と、



「ん? どうかしたか? コウタ?」



 エドワードが首を傾げた。



「い、いや、何でもないよ。それより二人とも早いね」


「まあな」



 エドワードは肩を竦めた。



「どうもベッドが豪華すぎて落ち着かねえんだよ」


「俺達は、結構小市民だからな」



 ロックも、苦笑を零した。



「はは、それはボクも同じ――あ、そうだ」



 ふと、思いつく。

 コウタは、エドワードとロックを見据えた。



「折角だし、一つ聞きたいんだけど、二人は、アッシュ=クラインさんが戦うようなところって見たことがあるの?」


「ん? 師匠か?」


「それは戦闘を見たことがあるかという意味か?」



 エドワードが目を瞬かせ、ロックがあごに手をやって尋ねてくる。

 コウタは「うん」と頷いた。

 すると、二人は顔を見合わせて――。



「いや、戦闘っつうか」


「俺達は初めて出会った時、戦ったな」


「え? そうなんだ?」



 コウタは目を丸くする。

 それに対し、二人は渋面を浮かべた。



「実は昔、街中でフラムといざこざがあってな。その場の勢いで、決闘もどきをしたことがあったんだ」



 と、説明するロックに、コウタはあごに手を当てた。



「フラムって、サーシャさんのことだよね?」


「おう」エドワードが頷く。「そんで、俺とロックが、フラム相手に鎧機兵で戦うことになったんだ」


「へ? 街中で鎧機兵?」



 コウタは、さっきよりも目を見開く。

 エドワードは「はは」と笑った。



「うちの国はそこら辺甘いんだよ。喧嘩となるとお祭りっぽくなるんだ。鎧機兵でも。まあ、そんで戦いそのものは俺らがあっさり勝ったんだが……」


「あれは、勝ったというのか? フラムが自滅したようにしか見えなかったんだが」



 と、ロックが腕を組んで唸る。



「まあ、勝ちは勝ちだろ。けど、そのせいでたまたま見物してた師匠が出てきてさ」



 当時を思い出したのか、エドワードが身震いした。

 ロックも顔色が蒼い。



「なし崩し的に戦闘になったんだが、それはもう酷いものだった」


「ああ。マジでな」



 ロックとエドワードが、深く嘆息した。



「……何があったの?」



 コウタが恐る恐る訊くと、



「まず俺は胸部装甲を粉砕された。掌底一発でな」



 ロックが神妙な声で言う。



「だが、俺はまだマシな方だ。エドに至っては――」


「お、俺は……」



 エドワードが喉を鳴らして呟く。



「空を飛んだ」


「え?」



 コウタがキョトンとする。

 エドワードは顔を強張らせながら、言葉を続ける。



「尻尾で足を掴まれてさ。そのままブンって。鳥がさ。隣を飛んでいるんだ。地面なんて遠くてよ。けど、それがドンドン近付いてきて……」



 話し続ける内に、エドワードの声は徐々に小さくなっていった。

 ロックがエドワードの肩を叩き、はあっと溜息をついた。



「しかもだ。当時、師匠が使った機体は胸部装甲を取り外していた師匠の愛機でな。出力も千ジンほどに抑えた機体。要は業務用にカスタマイズした機体だったんだ」


「……業務用に惨敗したんだぜ。俺ら」



 エドワードの声には、もはや覇気はなかった。



(うわあ)



 コウタの脳裏には、かつての兄の姿がよぎった。

 傭兵を、次々と殴り飛ばしていく兄の姿だ。



(兄さん、全然変わってない)



 思わず顔が強張ってくる。



「まあ、あの人はマジで化けモンってことだ」


「そういうことだな」



 どこか悟った顔で二人は言う。



「……はは。そう」



 コウタが引きつった顔のまま、笑う。

 それから三人は、少し談笑してから別れた。エドワード達は少し小腹が空いたので食堂に向かうそうだ。

 残されたコウタは、ふと外に目を見やる。

 兄の話を聞いても、緊張はさほどない。



「――よし」



 コウタは、パンと両頬を叩いた。

 気力は充分。いよいよだ。

 そして、少年は真剣な顔で決意を呟く。



「会いに行こう。兄さんに」

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