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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第四章 いざ、クライン工房へ①

「……ふふ」



 夜。王城のバルコニーにて。

 コウタは一人、バルコニーの柵に膝を置き、物思いに耽っていた。

 口元には、笑みが浮かんでる。



「懐かしいなあ……」



 クライン村のことを思うと胸が痛むが、やはり懐かしさも大きい。

 コウタは、夜空を見上げた。

 そこには大きな月が円を描いていた。

 雲が一つもない、満天の空だ。



(いよいよ明日か)



 黒い双眸を、すっと細める。

 ――明日。

 兄と再会する。

 その際、コウタは一つだけ決めていたことがあった。



(兄さん。ボクは……)



 再び物思いに耽けようとした、その時だった。



『コウタ』



 声が掛けられる。

 誰かと聞かずとも分かる。メルティアの声だ。



『やはり落ち着かないのですか?』



 着装型鎧機兵パワード・ゴーレム越しに、メルティアが尋ねる。と、



「ううん。そうでもないかな?」



 コウタは、振り向いて笑った。



「どちらかというと、一周回って落ち着いているかな」


『そうですか』



 メルティアはそう呟くと、周囲に人がいないのを確認してから、着装型鎧機兵パワード・ゴーレムの装甲を開けた。続けて機体の中から顔を覗かせて、コウタに向かって手を伸ばす。

 コウタは、当然のように彼女の手を取った。

 そして、メルティアを着装型鎧機兵パワード・ゴーレムから導き出すと、これまた当然のように、彼女を強く抱きしめた。これは、メルティアを降ろす時の恒例になっていた。流石に二人っきり限定の恒例ではあるが。



「大丈夫? 怪我はない?」



 コウタが彼女を離して尋ねると、メルティアは少し赤い顔で「はい」と答えた。

 一セージルの半分もない高さから降りたところで、『大丈夫』もないのだが、このやり取りも恒例だ。



(……ああ)



 心臓が早鐘を打つ。



(やっぱりメルは可愛いなあ)



 そんなことを改めて思いつつ、コウタは笑った。



「でも、ホッとしました」



 メルティアは言う。



「いよいよ明日です。もっと緊張しているのかと思いました」


「はは」



 コウタは、苦笑を浮かべる。



「前日になると返ってね。なんて言うか、研ぎ澄まされた感じがするよ」



 言って、肩を竦めた。

 メルティアは「そうですか」と呟くと、少しだけ心配そうに眉根を寄せた。



「ですが、コウタ」



 一拍おいて尋ねる。



「明日は予定通り、お義兄さまに・・・・・・仕合を申し込む・・・・・・・のですか?」


「……うん。そのつもりだよ」



 コウタは頷く。

 これが、コウタが決めていたこと。

 兄に、今の自分を知ってもらうために戦いを挑む。

 ――言葉よりも、剣。

 騎士を目指す自分としては、これが一番相応しい対話だと思ったのだ。



「……意外とコウタは脳筋ですね」



 メルティアは、呆れたように呟く。



「ははっ、ボクもそう思う」



 コウタは、破顔した。

 メルティアは嘆息した。



「お義兄さまは《七星》最強です。勝算はあるのですか?」


「はっきり言って、ないよ」



 コウタは、言い切った。



「話通りなら、恐らく今の兄さんは、あのラゴウ=ホオヅキよりも強いはずだ。勝ち目なんてきっとないと思う。けど……」



 そこで目を細める。



「勝ち目がないことは、戦わない理由にはならないよ」



 そもそも、この戦いにおいて、勝敗は二の次だ。

 コウタのすべきことは、全力を尽くすこと。

 自分が得た力。

 培ってきた技量。

 そして戦う意志。

 そのすべてを、兄に伝えるための戦いだ。



「だけど、メル」コウタは、真剣な顔でメルティアを見つめた。「ごめん。多分、明日は君にも――」


「ふふ、大丈夫です」



 メルティアは、微笑んだ。



「コウタの好きにしてください。私はコウタを支えますから」


「……メル」



 コウタは、真っ直ぐ幼馴染を見つめた。

 幼い頃から傍にいてくれた少女。

 彼女には、ずっと支えられ続けてきた。

 コウタにとって、かけがえのない存在だ。



「……メル」



 コウタは、彼女の肩に両手を乗せた。

 月に照らされた彼女の顔は、とても綺麗だった。



(本当に綺麗だ)



 コウタは、彼女の瞳に魅入ってしまった。

 知らず知らずの内に、グッと指に力が入る。と、



「…………」



 不意に。

 メルティアは瞳を閉じた。そして少しあごを上げる。



(メ、メル……)



 コウタは、喉を鳴らした。

 可愛い。やはり、メルティアは途方もなく可愛い。

 一体、彼女の唇は、どれほど柔らかいのだろうか……。

 知りたい。知ってみたい。

 いや、いっそ、もうこのまま彼女を――……。

 と、コウタが内心で葛藤しつつ、徐々に顔を近付けていた時だった。



「―――え」



 ……じいっと。

 彼らの傍らで、静かに観察している少女の存在に気付いた。

 銀の冠を頭に乗せる小さなメイド・アイリだ。



「えっ、ア、アイリ!?」



 コウタは、ギョッとしてメルティアの肩を離し、後方に跳んだ。

 メルティアは「え?」と驚き、目を見開いた。



「ア、アイリ? いつからそこにいたのですか?」


「……あ、気にしないで」



 アイリは、冷静な表情で言う。



「……私は、ただ順番待ちをしているだけだから」


「じゅ、順番待ち?」



 コウタが呟くと、アイリはこくんと頷き。



「……キスの順番待ちだよ。まずメルティア。私。そしてリーゼだよね」



 最後の名を出した時、アイリは後ろに振り向いた。

 そこには、制服を着たリーゼの姿があった。

 コウタは目を剥いた。



「リ、リーゼまでいたの!?」


「い、いえ、わたくしは、ただ眠れなくて」



 指先を組んで下ろし、耳を真っ赤にして俯くリーゼ。



「はははっ」



 その時、別の声が響いた。

 ジェイクの声だ。いつの間にか、彼もバルコニーにいた。

 そして、アイリの頭をガシガシと撫でた。

 アイリは「……むう」と唸った。

 コウタ以外に撫でられるのは、未だ抵抗があるのだ。

 無言でジェイクの足に蹴りを入れる。ジェイクは苦笑を零した。



「……親しき仲にも礼儀ありだよ」


「ははっ、悪りい。アイリ嬢ちゃん」



 ジェイクは、ボリボリと頭をかいた。



「けど、お嬢にしても、アイリ嬢ちゃんにしても、コウタを心配してここに来たのは確かだが、キスの順番待ちなんて嘘だろ?」



 ジェイクは、にまあと笑った。



「メル嬢が、あまりにいい雰囲気になりすぎたから、気が気でなくて思わず二人に近付いちまったんだろ?」


「……う」「……むう」



 リーゼと、アイリが呻く。

 メルティアは「そうなのですか?」と少しむくれ、コウタは「い、いや、ジェイク。あれはスキンシップであって……」と、情けない言い訳をしていた。



「まあ、お前ららしいけどさ」



 ジェイクは苦笑しつつも、真剣な眼差しをコウタに向けた。



「けどよ、コウタ。マジで明日は気をつけろよ。多分、お前の兄貴は過去最強の相手だ。お前の言う通り、あの牛野郎以上かも知んねえ」



 ――《金妖星》ラゴウ=ホオヅキ。

 あの男の強さは、ジェイクも身を以て知っている。

 しかし、コウタの兄は、その男さえ凌ぐという話だ。



「……うん。分かっているよ。ジェイク」



 コウタも、真剣な顔で頷いた。



「アルフも兄さんは別格だって言ってたしね。けど、ボクは……」


「今さら、お前の覚悟を否定する気はねえよ」



 ジェイクは、ポンと親友の肩を叩いた。



「頑張れ。オレっちからはそんだけだ。けどまあ、あえて付け加えんなら……」



 そこで、「はあっ」と溜息をついた。



「出来るだけ弱点は探ってくれ。オレっちにとっては、恋敵になるからな」


「……そうなるのですね」



 リーゼが、口元を片手で押さえて微苦笑を見せる。



「まさか、たびたび話に聞いていた、シャルロットの愛する殿方が、コウタさまのお兄さまだったとは。本当に夢にも思いませんでしたわ」


「……うん。それは私も想定外だった」



 アイリも、うんうんと頷く。



「……そうですね。ですが、私としては、コウタに対するミランシャさんの過剰なスキンシップも気になるのですが」



 と、メルティアが小さな声で呟いた。

 リーゼとアイリは顔を見合わせて、苦笑いを見せた。



「ま、まあ、いずれにせよ、すべては明日だよ」



 コウタが、話を締める。

 ――そう。すべては明日だ。



「明日。ボクは兄さんと再会する」



 コウタは、慎重な声で、そう呟いた。

 メルティア達は、静かに頷く。


 ――いざ、クライン工房へ。

 改めて、決意を固めるコウタだった。

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