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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第三章 王城にて③

 その日の夜。

 白いつなぎ姿――普段着のルカは、メルティア達の部屋に訪れていた。

 現在、部屋にいるのは、丸テーブルを囲って座るメルティアとリーゼ。コポコポ、と紅茶を注ぐシャルロットに、その手伝いをするアイリ。

 そして床に直接座る三機のゴーレム達と、零号の冠にとまるオルタナだ。

 ミランシャも同室なのだが、今は姿がない。

 隣のアリシア達の部屋に、遊びに行っていた。

 ルカは、メルティアの向かい側の席に座っていた。



「どうぞ。お嬢さま方」



 紅茶をアイリの分も含めて全員分、用意したシャルロットは、メルティア達にそう告げると、リーゼの後ろに控えた。



「ありがとうございます。シャルロットさん」メルティアが感謝を述べる。「ではアイリ。こっちへ」


「……うん。分かった」



 アイリは頷くと、メルティアの隣に座った。

 リーゼが、視線をシャルロットに向けた。



「シャルロット。あなたも座って宜しいのですよ」


「いえ。お気遣いだけで充分です。お嬢さま」



 と、生真面目なシャルロットが、頭を垂れて答える。

 リーゼは苦笑を零した。



「相変わらずですわね。あなたは。まあ、いいでしょう」



 リーゼは、視線をメルティアに向けた。



「では、メルティア。本題に入りましょうか」


「はい。そうですね。リーゼ」



 メルティアは厳かに頷いた。

 続けて、ルカに目をやる。

 数瞬の沈黙。



「お、お師匠さま?」



 金色の眼差しに射抜かれ、ルカが緊張した面持ちをする。



「あ、あの、どうか、したのですか?」



 困惑した声でそう尋ねる。と、



「……ルカ」



 一瞬だけ瞳を閉じてから、メルティアが唇を動かした。



「これからとても重要な話をします。恐らく、あなたも無関係ではない話です」


「……え?」



 師の緊迫した様子に、ルカは息を吞んだ。



「そ、それは一体……?」


「……まず一つ確認を」



 メルティアは、言葉を続ける。



「あなたは、クラインさんが本気で好きなのですね」


「……はい」



 困惑していても、その問いかけにだけは即答するルカ。



「大好きです。ううん」



 ルカは、自分の胸元に片手を当てた。



「私は、仮面さんを――アッシュさんを、愛しています」



 一片の迷いもなく、そう宣言した。



「……お見事。ルカ」



 アイリが拍手を贈る。ゴーレム達も拍手を贈った。



「……ウム! ミゴトダ! ルカ!」



 オルタナも、翼を広げて賞賛する。



「これはまた、随分とはっきり言い切りましたわね」



 リーゼは少し苦笑をしつつ、シャルロットに目をやった。

 想い人が同じシャルロットとしては、どう思っているのか気になった。



(あら)



 すると、シャルロットは、微笑んでいた。



「(随分と余裕ですわね。シャルロット)」



 リーゼは、小声で従者に話しかけた。



「(そうですね)」



 シャルロットも小声で返す。



「(私はすでに覚悟していますから。それに、ミランシャさまは私の味方ですし、幸いにも今夜は、オトハさま以外の方は揃っています。今夜中にルカさまも含めて、全員を説得するつもりです)」


「(……? それはどういう意味ですの?)」



 リーゼが眉根を寄せた。

 すると、シャルロットは苦笑を見せた。



「(七人の同志。キャシーさんのアドバイスを実行する時が来たということです)」


「(……え?)」



 リーゼは、ギョッとした。



「分かりました。ルカ」



 そんな主従をよそに、メルティアは言葉を続けた。



「では話しましょう。まずは前提としてコウタの故郷のことを」



 そして、メルティアは語った。

 あえてコウタの村の名前だけは伏せて、八年前の事件を。

 皆殺しにされたコウタの村の住人。

 どこかで生き残っているかもしれないコウタの実兄と義姉。

 コウタが、ずっと兄と姉のことを探していたことを。

 それを、淡々と語った。

 話を終えた時、ルカは声もなく目を擦っていた。

 水色の瞳からは、絶え間なく涙が零れ落ちていた。



「そ、そんな、ことが……」



 声を途切れさせて呟く。

 その間も、両目を擦り続ける。



「……はい。そして」



 メルティアは、そんな弟子を真っ直ぐ見つめた。



「最近になって、お義兄さまの今の居場所が分かったのです」


「……え?」



 ルカが、目を見開いて顔を上げた。



「それがこの国、アティスなのです」


「こ、この国に! この国に、コウ先輩のお兄さんが、いるのですか!」



 ルカは、呆然とした。



「そうです。ルカ、あなたは……」



 メルティアは、少しだけ躊躇うように尋ねた。



「コウタによく似た人を。容姿ではなく雰囲気が。そんな人を知っていませんか?」


「…………え?」



 師の問いかけに、ルカは困惑した。

 似ている人物。いきなり言われても思い当たらない――。



『いやいやお嬢ちゃん。流石に変人ってのはひどくねえか?』


(―――え?)



 それは、不意なことだった。

 彼女にとって、最も愛しい人の声が脳裏によぎる。



『おいで、お嬢ちゃん』



 あの日、優しく微笑んでくれた彼。

 確かに彼女自身、似ているなと思っていた。



『もう心配はいらねえ。俺が傍にいる』



 怯える自分を、彼は強く抱きしめてくれた。

 あの夜にこそ、自分の心は、彼に奪われたのだと自覚している。

 しかし、それを何故、いま思い出すのか――。



「う、うそ……」



 ルカは、ポツリと呟いた。



「ま、まさか、仮面さん? アッシュさんが、コウ先輩の……?」



 その呟きを、メルティア達は静かに聞いていた。

 ルカは、呆然と師を見つめた。

 師は何も語らない。

 師だけではない。リーゼも、アイリも、シャルロットも。

 ゴーレム達でさえ言葉を発さない。

 それは、無言の肯定だった。



「ほ、本当にそう、なのですか?」



 ルカは、シャルロットの方に目をやった。

 自分以外では唯一、彼とコウタの両方を知る人物を。



「……はい」



 シャルロットは、頷いた。



「クライン君と、コウタ君は実の兄弟です」



 クライン君の方にもすでに確認を取りました。

 と、シャルロットは言葉を続けた。

 ルカは、ただ唖然とした。

 すると、リーゼが語り出した。



「確かにお二人はご兄弟です。ですが、クラインさま――お義兄さまは、コウタさまの来訪はおろか、生存さえご存じないはず」



 一拍おいて、シャルロットに目をやる。



「だからこそ、今日、シャルロットには、先にクライン工房へと向かってもらったのです。コウタさまのことを事前にお義兄さまにお伝えするために。明日の八年ぶりとなるお二人の再会に備えて」


「……クライン君は」



 シャルロットが、神妙な顔で口を開く。



「やはり、とても驚いていました。当然です。八年前に亡くなったはずの弟が、生きていたのですから」


「け、けど……」



 ルカは、涙で少し腫れた瞳を見開いて呟く。



「お、お二人の名前が全然、違います」


「……コウタの村の名前は、クライン村というそうです」



 その問いかけに答えたのは、メルティアだった。



「お義兄さまの今のお名前は、失った故郷から取ったものだそうです。本当の名前は別にあります」


「え?」ルカは目を見開いた。「か、仮面さんの本当の名前……?」



 そして、メルティアを凝視した。



「そ、それは一体……」


「それは、私が教えるべきではないと思います」



 メルティアは申し訳なさそうに、かぶりを振った。

 それを他者に教えてもいいのは、クライン村の出身者だけだろう。



「そ、そうですか……」



 ルカは、しゅんとした。



「ともあれ、ルカ」



 リーゼが、メルティアの言葉を継いだ。



「すべては明日なのです。明日、彼らは再会します」



 全員が、シンとする。

 長い沈黙が続いた。

 そしてそれを破ったのは、メルティアだった。



「ルカ」



 彼女は柔らかな眼差しで弟子に告げた。



「どうか、あなたも見守って上げてください。コウタと、あなたの愛する人の八年ぶりとなる再会を」


「……はい。分かりました。お師匠さま」



 ルカは、真剣な顔で頷く。


 そうして、夜は更ける。

 再会までの時を少しずつ刻んで――。

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