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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第8部

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第三章 王城にて②

「ふふ。緊張せずともよい。ルカのご友人の方々よ」



 厳かな声が響く。

 豊かな顎髭に、温和な眼差しを持つ王は、笑った。

 謁見の間。

 そこには多くの騎士と、三人の騎士団長達。

 そして、玉座に座る王と、王妃の姿があった。

 すなわち、ルカの両親である。

 顔の半分を覆う豊かな顎髭のためか、ルカの話では五十を少し越えたばかりらしいが、王は老人のようにも見える。

 一方、王妃は若々しく、何より美しかった。

 年齢は三十代半ばとのことだが、二十代と言っても疑う者はいないだろう。

 白いドレスを纏うそのプロポーションは群を抜いており、ルカによく似た面持ちは当然ながら整っている。



(ルカってお母さん似なんだ)



 コウタは、そんなことを思った。

 この場には今、馬車に乗っていたメンバーがそのまま勢揃いしていた。

 当然、コウタ達のみならず、ミランシャや、アリシアやサーシャ達もだ。

 本来は王族であるルカも、今回は玉座ではなく、コウタ達と共にいる。

 完全武装のメルティアのゴーレム達に対しては、謁見の間に入る前に少し問答があったが、鎧もまた騎士の正装。武装もしていないので、どうにか許可をもらえた。

 そうして簡単な――コウタにとっては緊張して仕方がなかったが――挨拶を終え、エリーズ国で過ごしたルカとの日々を語ったところで、王は破顔した。



「楽しい談話ではあるが、余の我が儘でこれ以上付き合わせるのは申し訳ない」



 そう言って、双眸を細める。



「ルカよ」


「は、はい。お父――へ、陛下」



 ルカが、少し緊張した様子で答えた。



「お前のご友人の方々を部屋に案内してあげなさい」



 そう言って、優しく微笑んだ。

 その面持ちだけで、王がどれほど愛娘を愛しているかが分かる笑みだ。



「遠方よりのご友人の方々」



 王は続けて、コウタ達に目をやった。



「長旅でお疲れであろう。部屋を用意したので、今は旅の疲れを癒やされるがよい」



 そこでニコッと笑った。



「話の続きは、夕食の会合で聞かせてくれ」



 かなり緊張したが、それが謁見の終了の告げる台詞だった。

 コウタ達一行は、謁見の間を後にした。

 そして長い渡り廊下を無言で歩いていると、



「……ふうゥ」



 おもむろに、アリシアが息を吐き出した。

 そして細い肩を、ゴキンと鳴らした。



「謁見って、やっぱり疲れるわね」


「まあな」



 そう言って同意するのは、エドワードだ。

 彼も凝りを解すように肩を回していた。



「緊張は大分マシになったが、まだ慣れねえよな」


「あははっ」



 すると、ミランシャが笑った。



「こういうのは、何回やっても慣れない人は慣れないものよ」



 と、公爵令嬢にして、現役の騎士でもあるミランシャが告げる。

 彼女も謁見はどうにも苦手だった。



「あら」



 その時、リーゼが、アリシア達に視線を向けた。



「皆さんは、学生ですのに謁見の機会が多いのですか?」


「まあ、どちらかというと多い方ね」



 アリシアが頷く。

 次いで、隣を歩くサーシャとルカに目をやった。



「私とサーシャはルカの幼馴染でもあるしね。それに昔、ちょっとしたことをして、勲章とか貰ったことがあるの」


「へえ! マジか!」



 ジェイクが目を丸くする。コウタ達も驚いていた。



「……ナンノ、勲章ダ?」



 と、短い足で進む零号が尋ねた。

 それに対しては、サーシャが答えた。



「一言でいえば、固有種の魔獣を討伐したの。本来なら四人がかりでも勝てない相手だったんだけど、かなり幸運も恵まれて、どうにかね」


「……おお。固有種の魔獣退治をしたの」



 アイリが、パチパチと拍手を贈った。ゴレーム達も「……オミゴト」「……ウチトッタリ!」と興奮気味に騒いでいた。



「……そう言えば」



 その時。

 ポツリ、とユーリィが呟く。



「オトハさんが、うちに居座るようになったのも、その頃からだった」


「あ、そうね」アリシアが、ポンと手を打った。


「確かにあの事件の後だったな。タチバナ教官が俺達の学校の教官になり、師匠の家に住むことになったのは……」



 と、ロックも懐かしそうに目を細めて腕を組んだ。

 そこでコウタは、少し首を傾げた。



「一つ聞いていいかな?」



 コウタがそう尋ねると、アリシア達の視線が集まった。



「その、『師匠』って言うのは、トウ……クラインさんの、あだ名か何かなんだよね? ルカの『仮面さん』ってのも謎なんだけど」



 ここまでの会話で分かったこと。

 どうも、兄はあだ名で呼ばれているらしい。

 ルカは『仮面さん』。エドワードとロックは『師匠』と呼んでいる。

 すると、アリシアが、クスクスと笑い出した。



「アッシュさんを、『仮面さん』って呼ぶのはルカだけよ」


「私は『先生』かな? けど、その『師匠』というのは、元々は私の先生だからついたあだ名なの」


「あ、なるほど」コウタは納得した。



 友人の先生。だから、エドワード達も師匠と呼んでいる訳か。



「ちなみに、ルカの『仮面さん』の由来は、初めて出会った時に、アッシュさんが仮面を被っていたからだって」



 と、アリシアが説明を続ける。

 出会った当時を思い出したのか、ルカは両頬を抑えて「あ、あう」と呻いている。



「……? なんで仮面?」



 コウタは首を傾げた。何故、兄は仮面などを……?



「あえて言うのなら、そういう仕事だった」



 と、補足するのはユーリィだ。



「ああ、それと」



 コウタの義理の姪っ子は、さらに補足する。



「アッシュの『師匠』のあだ名は別に身内に限った話じゃない。多分、この国にいる人の九割ぐらいはアッシュを『師匠』と呼ぶ」


「―――へ?」



 コウタは、唖然とした。

 リーゼ達も目を丸くしている。



「え? なんでそんなことに?」


「色々あった。色々」



 ユーリィは、何故かサーシャの方を見つめていた。



『……中々面白そうな話ですが……』



 その時、初めてメルティアが口を開いた。

 大人数の上、半分が出会ったばかりの人間なので、かなり緊張した声だ。

 二セージルを越す鋼の巨人に、流石にまだ慣れないのか、アリシア達はギョッとした。

 そんな反応に怯えつつ、



『ル、ルカ』



 前方を指差して、愛弟子に尋ねる。



『もしかして、あの部屋が私達の部屋でしょうか?』



 全員の視線が廊下の先に集まる。

 そこには、数人のメイドが待機しており、深々と頭を下げていた。



「あ、はい」



 ルカが頷く。



「あそこの部屋が、お師匠さまやリーゼ先輩達の部屋になります。隣が今日泊まる予定のアリシアお姉ちゃん達の部屋。コウ先輩達の部屋は向かい側です」



 皆さんのもう荷物は運び込んでいますので。

 と、彼女は続けた。



『そ、そうですか。ありがとうございます。ルカ』



 メルティアが礼を述べる。

 すると、ルカはかぶりを振った。



「気にしないで、ください。それよりもお師匠さま」



 そこでルカは師の鋼の手を取った。



「本当に久しぶりに会えて嬉しいです。今日は、色々と話しましょう」



 そう言って、王女さまは微笑むのであった。

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