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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第7部

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第八章 《悪竜顕人》②

 絶叫が、森の中に木霊した。

 同時に雷音が轟く。《ディノス》が《雷歩》を使って飛翔した音だ。

 一瞬で間合いを詰めた《ディノス》は処刑刀を振り下ろした!



(――早速か!)



 名乗る暇さえも与えない拙速な先攻に、レオスは舌打ちする。

 咄嗟に突撃槍で受け止めるが、



(重いな)



 処刑刀の斬撃は思いの外、重かった。

 ちらりと《万天図》で調べた敵機の恒力値は六千ジンを少々超えた程度。三万七千ジンの高出力を誇る《木妖星》の敵ではない。

 だが、それでも《木妖星》が持つ突撃槍は軋みを上げた。

 一撃が重い。それが連続して繰り出されてくる。

 出だしからの猛攻だ。

 だが、そんな黒い嵐を目の前にしてレオスは困惑してた。



『――お前がッ!』



 一撃を放つ度に、叩きつけられる憎悪。

 先程まで穏やかだった少年は一変して、烈火のごとく怒り狂っていた。

 その愛機の姿も相まって、本当に伝説の《悪竜》のようだった。



『お前が殺した! 皆をッ! 父さんをッ!』



 少年は叫び続ける。

 レオスは再び舌打ちした。



『――ぬゥん!』



 そして《木妖星》に地面を踏み抜かせた。

 振動は大地の表面を伝い、悪竜の騎士を呑み込んだ。



『――クッ!』



 普段のコウタなら、楽々と回避できる攻撃。

 しかし今は、まともに土砂を受けてしまった。

 その隙に《木妖星》は後方に跳躍。ズズンと巨体を揺らして着地した。



『……ふむ』レオスが呟く。『いきなり随分と激しいな』



 次いで、荒ぶる獣のように身構える悪竜の騎士を見やる。



『台詞から察するに、俺はお前の仇だったのか?』


『……そうだッ!』



 コウタは鬼の形相で吐き捨てた。



『八年前! お前は仲間を引き連れてボクの村を襲った! 忘れるものか! その機体を! 父さんを殺したその鎧機兵をッ!』


『……ふむ』レオスはあごに手をやった。『八年前か』



 レオスは悪竜の騎士から目は外さす、自分の記憶に探った。



『俺がまだ第5支部の支部長をしていた頃だな。あの頃は一月に数カ所の村や街を潰していたからな。すまん。もう少しヒントをくれ』



 と、願い出るが、それは悪竜の騎士の逆鱗に触れるだけだった。



『黙れッ!』



 決して動かないはずのアギトが、今にも牙を剥きそうだった。



『おいおい。少しは落ち着いてくれ。でなければ、俺も思い出せん』



 聞く耳を持ってくれない少年に、レオスは渋面を浮かべた。

 ――と、その時だった。

 少年が答えにも等しい重大なヒントをくれたのは。



『お前が父さんを殺したんだ! クライン・・・・村の皆を殺したんだッ!』



 一拍の間。



『な、に……?』



 レオスは、呆然と呟いた。


 ――クライン・・・・村。


 それは、レオスが何度か報告書を通じて目にした名前だった。

 だが、それは、全く違う人物のことを調べるためのものであって……。



『少し待て。少年。お前、あの村の生き残りなのか?』


『そうだッ! ボクはお前が滅ぼしたクライン村の生き残りだ!』



 ギシリ、と処刑刀の柄を握りしめる悪竜の騎士。

 レオスは、さらに困惑を深めた。



『では、お前はアッシュ=クライン・・・・・・・・・の同郷なのか?』



 ――まさか、あの男とあの女以外にまだ生き残りがいたとは……。

 困惑を隠せないまま、レオスが問う。と、



『……誰だよ。その人は』



 少年の返答は、思いがけないものだった。



『そんな人は知らない。クライン村の生き残りは、ボクとトウヤ兄さん。そして兄さんの婚約者だったサクヤ姉さんの三人だけだ』


『……なに?』



 レオスは目を剥いた。



『あの女の婚約者だと? お前の兄が? 待て。では、まさかお前は――』



 唖然として呟く。

 ここまで情報を手に入れば、推測するのは簡単だった。

 要するに、この少年の正体とは――。



『ふ、ふふ……ふははははははははははっははははッ!』



 そして、レオスは声を張り上げて笑った。



『やってくれる! あの女め! これを想定していた訳か!』


『――何がおかしいんだよ!』



 一方、悪竜の騎士の憤怒は収まらない。

 処刑刀を大きく薙ぎ、今にも飛びかかりそうだった。



『いやなに。仕込んでいたのか。それとも俺の大嫌いな運命任せだったのか。どちらにしても、お前の義姉は強かな食わせ者だということだ』


『何を言っているんだよ! お前は!』



 冷静に聞けば、レオスの台詞には貴重な義姉の情報が含まれていた。

 しかし、それを聞き落としてしまうほど、今のコウタは憎悪に捕われていた。



『もうお前と話をすることなんてない』



 コウタは、ギリと歯を軋ませた。



『ここで今、殺してやる』


『……ふん。それは無理な話だな』



 だが、コウタの殺気を受けても、レオスは平然としていた。



『確かにその歳にしては大したものだ。だが、所詮はまだ小僧だな。五年後ならば分からんが、今の段階では俺には届かんぞ』



 レオスは、ふっと笑った。



『それにしても、まさかあの男の弟とはな。いいだろう。いずれ来るお前の兄との戦いの前座程度には楽しめるかもな』


『――だからお前は一体何を言っているんだよ!』



 コウタは、操縦棍を握りしめて、《ディノス》を飛翔させた。

 狙うは《木妖星》の首。刃を振り下ろすが、それは異形の突撃槍で防がれる。



『――届かんよ』



 レオスは、再び宣告する。



『お前の斬撃は中々のものだ。だが、まだまだ力に頼っている雑な太刀筋だ。怒りに我を忘れているせいだとしても、そんな荒々しさだけではな』



 言って、突撃槍を横薙ぎに振るう。

 咄嗟に処刑刀で防ぐが、《ディノス》は大きく吹き飛ばされた。



『それでは、とても《妖星》は墜とせんよ』



 ズシン、と。

 巨体を誇る《木妖星》が一歩踏み出した。



『お前の憎悪など、俺の前では木の葉も揺らせぬ程度のそよ風のようなものだ。いや、その表現も違うか』



 レオスは、ニヤリと笑って告げる。



『俺にとって、憎悪とはむしろ天に伸びるための恵みの雨だな。それらを浴び続け、俺は強くなったのだ。ゆえに、お前の憎悪もまた、ここで吞み干してやろう』

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