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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第7部

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第七章 それぞれの対峙②

「さて。どこに行こうか、メル」



 同時刻。

 コウタは、フードを深く被ったメルティアと一緒に街中を歩いていた。



「どこかメルの行きたいところはない?」



 と、幼馴染に声を掛ける。

 フードの奥にある金色の瞳がコウタを見つめた。



「コウタの行きたい場所でいいです」



 言って、ギュッと彼の手を握る。

 彼女の手の柔らかさに、コウタはドキッとするが、



「う、うん。じゃあ少し散策しようか」



 そう返して、ぎこちない様子で歩き続ける。

 その間もずっと手を繋いだままだ。



「い、いい天気だね」


「そ、そうですね」



 会話もぎこちない。二人はずっと緊張していた。

 だからこそだろうか。

 二人は店舗に入ることもなく、大通りを進んでいた。ただ、無意識の間に故郷であるパドロ――コウタにとっては長らく住む街に似た場所を探していた。

 そして――。



「……へえ」



 コウタはふと足を止めた。

 一つの看板が目に入ったからだ。

 ――《森のホテル・フォレスト》。

 水網都市・皇都ディノスにしては珍しい冠だ。

 確かにここら周辺にはかなり木々が多い。ホテルの看板には、森の中を指し示す矢印も記載されている。



「森の中のホテルか。パドロっぽいね。ちょっと行ってみようか」


「――え?」



 何気なく呟いたコウタの台詞に、メルティアはギョッとした。



「ホ、ホテルに行くのですか?」



 そうして彼女はフードの下で顔を真っ赤にして、もじもじとし始めた。



「ま、まさか、そこまで望まれるとは思っていませんでしたが、昔から旅は人を解放させると言います。コ、コウタが望むのなら、今ここでも……」


「……え?」



 メルティアの台詞にコウタは目を瞬かせた。

 ――が、すぐに彼女の言わんとしていることに気付いた。



「ち、違うよ! メル!」



 コウタは慌てて言い訳をする。



「そう言う意味じゃないよ!」


「そ、そうなのですか?」



 どこかホッとした様子で呟くメルティア。次いでとても小さな声で「私もすでに覚悟はしているのですが、流石にいきなりは驚きました」



「い、いや。その、ただ、パドロっぽいなっと思っただけだよ」



 とりあえず誤解は解けてコウタは安堵する。

 それから煉瓦造りの街道が続く森の奥へと目をやり、



「と、ともかく森のホテルには興味もあるし、行ってみようか」


「は、はい」



 メルティアはこくんと頷いた。

 かくして二人はホテルへと続く街道を進んだ。

 皇都の街並みから一変。森の中の風景が続く。耳を澄ませば鳥の声も聞こえてくる。

 故郷に似た風景に、人通りも全くなくなったため、メルティアの緊張がかなり緩和されているのを、掌を通じてコウタは感じ取った。

 まだ朝も早い。この時間にホテルに向かう人間もいないのだろう。

 心地よい森の静寂の中、二人は歩き続けた。



「本当にパドロっぽいね」


「はい。そうですね」



 二人は手を繋いだまま笑う。

 ――が、その時だった。

 街道の向こう側から二人の男性が出てきたのだ。

 一人は全身黒一色のスーツ。もう一人も黒いスーツなのだが、『四の月』に入って若干暑さを感じるこの時期に灰色のコートを纏っている。

 こっちに向けってくるということは、恐らくホテルの客なのだろう。

 メルティアは人の姿に少し緊張したが、コウタは特に気にしなかった。

 そのため、ごく自然に彼らはすれ違った。


 ――はずなのだが。



「……待て。少年」



 不意にコートの男が足を止めて、コウタを呼び止めた。

 コウタもその場で足を止めて振り向いた。

 そして、改めて男の顔を見る。

 年齢は四十代半ばほどか。

 灰色の髪に頬まで覆う顎髭。精悍な顔つきが印象的な男性だ。



「ボクに何か御用でしょうか?」


「いや、まさかとは思うが……」顎髭の男は眉をひそめた。「お前、アルフレッド=ハウルなのか?」


「……え?」



 いきなり友人の名を出されてコウタは驚いた。隣にいるメルティアも同じだ。

 が、すぐに男はかぶりを振って。



「いや、すまん。違うな。君は赤髪ではない。俺の勘違いだった」



 そう告げてから男は苦笑を見せた。



「俺もそれなりの心得があってな。君の歩く姿が、あまりにも年齢離れしているために誤解した。呼び止めてすまなかった」


「い、いえ。構いません」



 少々動揺したが、コウタはそう言って笑った。

 そして彼らは再び背中を向けた。

 もう互いに興味はない。そのはずだった。



支部長・・・。あの少年がどうかされましたか?」



 黒服の男がそう呟くまでは。



「お前では気付けんか。まあ、俺も勘違いするほどだったからな」



 顎髭の男は自嘲気味にそう答えていたが、



「――――え」



 今度は、コウタの方が足を止めて振り向いた。

 つられるように、男達も立ち止まって振り向く。

 一拍の間。

 そしてコウタは呆然と、その名を呟いた。



「……《妖星》」


「――な、なに!?」



 動揺した声を上げたのは黒服の男だった。

 続けて、最大限の警戒を込めて顎髭の男の前に進み出る。

 警戒したのはコウタも同じだった。

 失言だったと動揺する前に、すぐさまメルティアを自分の背後に隠す。


 一気に緊迫する空気。

 黒服の男は懐に隠した短剣に手をやり、メルティアは怯えた様子でコウタの肩に手を触れた。ただ、顎髭の男とコウタだけは感情のない表情で互いを見やり、



「……その身のこなしで《妖星》を知る少年か」



 顎髭の男――レオス=ボーダーは目を細めて告げる。



「捨て置けんな。度々ですまんが、少し付き合ってもらおうか。少年よ」

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