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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第7部

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第三章 動く者達①

 ――ボッ、と。

 暗闇の中で火が灯る。

 そして息を大きく吸い、紫煙を吐き出す。

 紫煙は廃屋の天井へと昇る。

 それを一瞥してから、男は自分が持つ煙草に目をやった。

 葉巻とは違う細い棒状の煙草。市井によく出回る安物の品だ。



「やはり俺にはこっちの方が合うな」



 男は皮肉げに笑う。

 ――紛い物の自分には安物がよく似合う。

 そんな自嘲じみたことを考えていると、



「……支部長」



 不意に声を掛けられた。

 男は声がした方に目をやった。

 そこには一人の男がいた。全身黒ずくめの男だ。

 黒服は何やら封筒を手に、廃屋の一室。入り口付近で佇んでいた。



「ご休憩中、失礼いたします」


「気にするな。何の用だ?」



 黒服は「はっ」と応えると、封筒を片手に室内に入る。



「実は気になる人物を見つけまして」


「……ほう」



 煙草をくわえた男が興味深そうに呟く。

 次いで黒服から封筒を受け取り、中身を取り出す。

 それは一枚の写真だった。



「……これはまた、美しい女だな。いや待て。この容姿の特徴は……」


「……はい。恐らくは」



 黒服が頷く。男は苦笑を零した。



「リノ嬢ちゃんの報告で知ってはいたが、この目で見ることになるとはな」


「はい。私も我が目を疑いました」



 ふん、と男が鼻を鳴らす。



「この女を見ればボルドの奴はどんな顔をするのやら。いや、むしろ《双金葬守》の方が面白い反応を見せてくれるだろうな」


「……そうですね。ですが、面白い反応と仰られても、そもそも支部長は《双金葬守》とまだ面識がないのでは?」



 黒服がそう尋ねると、男は肩を竦めた。



「ああ、その通りだ。どうにも奴とは縁がなくてな。行き違うことさえない。一度は遭ってみたいと常々思っているのだが……」



 言って、男は煙草を床に捨てた。靴底で火を消す。



「なにせ、今代の《七星》最強の男だ。果たしてどれほどの実力なのか。ジルベールの全盛期を知る身としては興味が尽きぬよ」


「そうですか……」



 すると、黒服は憧憬にも似た眼差しを向けた。



「流石は支部長。その胆力恐れ入ります。私など《双金葬守》に遭遇するなど考えるのも恐ろしい。ましてや、あの怪物の憎悪に晒されるなど……」



 かつて一度だけ遭遇した『鬼』の姿を思い出す。



「……本当に恐ろしい」



 黒服は静かに喉を鳴らした。

 ――が、それに対し、男の方は困ったような表情を見せた。



「いや、それだけは正直、俺も困惑しているのだ」



 そう告げて、おもむろに両腕を組んだ。



「あの男に恨まれる理由は分かる。だが、俺としては似たような経験が多すぎていまいち実感が持てんのだ。特にあの日は途中で別の任務に移ったようだからな。当時の報告書を読んでもピンと来んのだ」



 まったく年は取りたくないものだな、と皮肉混じりに呟く。

 それに対し、黒服は何も答えられなかった。

 ただ、改めて上司の姿を見やる。

 灰色の髪に頬まで覆う顎髭。鍛え上げた肉体に、精悍な顔立ちはどう見積もっても四十代半ばほどだ。だがしかし、それは上司の実年齢ではない。

 彼の実年齢を聞けば、誰もが愕然とすることだろう。



「しかし、まあ……」



 男は再び写真に目を落とした。



「こうして、この広大な皇都で出会うのも何かの縁だろう。そうだな。せめてこの女の方ぐらいには挨拶でもしておこうか」


「ッ! 支部長ッ!」



 黒服は目を瞠った。



「あの女は《双金葬守》と同じです! もしエヴァンシード支部長のご報告通り、失ったはずの正気を本当に取り戻しているとしたら……」


「当然、あの男同様に俺を恨んでいるだろうな」



 男は自嘲気味に笑う。



「だが、リノ嬢ちゃんの報告ではこの女は理性的な人物のようだ。何のために皇都に来ているのかは知らんが利害が一致するのなら利用できるかもしれん」


「……大丈夫でしょうか?」黒服が不安げに進言する。「仮に共謀できたとしても、ここぞという場面で裏切られる可能性も……」


「その時はその時だな。むしろ今回の任務を遂行するには、ジルベールでさえ予測できんような不確定要素が欲しいのさ」


「……了解いたしました。では、早速接触いたします」


「ああ、頼んだぞ」



 男は満足げに頷く。

 黒服は深々と一礼すると部屋から出て行った。

 男はしばし手持ち無沙汰のように顎髭をさすっていたが、



「さて、と」



 不意に、双眸を細める。

 そしてどこか遠くを見据えて呟くのだった。



「ジルベールよ。長年に渡る俺とお前の因縁。終止符を打つ時が来たようだな」

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