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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第1部

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第六章 その《星》の名は……。③

「まったく。こんな時に彼らはどこに行ったのでしょう」



 月明かりがわずかに差し込む暗い森の中。

 愛機・《ステラ》の操縦席にて、リーゼはそう嘆息した。



「分かりません。ですが時間もありませんし、文句は後にしましょう」



 と、リーゼの腰を掴んで後ろに座るメルティアが言う。

 今から十五分ほど前のこと。アイリ捜索を手伝ってもらうため、リーゼ達はコウタ達の元を訪ねたのだが、何故か彼らのコテージは空だったのだ。


 一体こんな夜中に、コウタ達はどこに行ったのか。

 当然二人は疑問に思ったが、今は時間が無い。

 メルティア達は、自分達だけでアイリの跡を追うことにしたのである。



「しかし、恒力値で位置を探るなんて考えましたわね。メルティア」



 と、リーゼが《万天図》に目をやりつつ、後ろの少女に告げる。

 メルティアの鎧は鎧機兵の一種。

 その機動には《星導石》を利用している。アイリがあの鎧を使用しているのなら、恒力値を探れば簡単に見つけ出せるはずだった。



『この時間帯に鎧機兵を動かすような人間もいないでしょうし、あの鎧の恒力値は六百ジン程度。特定は簡単なはずです』



 そう語ったメルティアの推測通り、アイリの――正確には鎧の居場所はあっさりと見つかった。どうやら最初に出会った湖辺りにいるようだ。

 かくして二人は《ステラ》に乗り、森の中を進んでいるのだ。



「見た所、鎧はさっきから動いていませんわ」



 リーゼは再び《万天図》にちらりと目をやった。



「目的は湖のようですわね。アイリはあの湖になんの用があるのかしら?」



 と、独白するリーゼに、



「それは聞いてみないと分かりません。とにかく今は急ぎましょう」



 メルティアが、焦りを孕んだ声で告げる。



「ええ。分かっていますわ。しっかり掴まって――えっ?」



 不意に唖然とした声を上げるリーゼ。

 メルティアは眉根を寄せた。



「どうかしましたか? リーゼ?」


「い、いえ、いきなり恒力値が他にも発生したのですわ。ええっと、六千四百ジンと五千八百ジンですか。多分……これは《ディノス》と《グランジャ》ですわね」



 リーゼの言葉にメルティアは目を見開いた。



「コウタとオルバンさんですか? 彼らはアイリと共にいるのですか?」


「恐らくそうですわ。けど、すぐ傍にもう一つ反応があって、そちらの方は――」



 そこでリーゼは一瞬言葉を失った。



「……は? えっ? な、何ですの!? これは!?」


「リーゼ? 一体何が……」



 全身まで硬直させるリーゼに、メルティアは困惑した。

 腰を掴む腕を介して、彼女の動揺がはっきり伝わって来る。



「こ、恒力値、三万六千六百……」


「……え?」



 かすれた声で呟くリーゼに、メルティアは瞳を瞬かせた。



「恒力値三万六千六百ジンの機体が、彼らの前に現れたのですの……」


「さ、三万六千……?」



 メルティアも唖然とした。

 が、すぐにハッとして正気に戻る。



「な、何なのですか! その馬鹿げた恒力値は!」



 と、声を荒らげた後、眉根を寄せて、



「リーゼ、何かの間違いなのでは……? 事実ならば《七星》クラスの機体です」


「……少なくともわたくしの見間違いではありませんわ。確かに恒力値は三万六千六百ジンを記しています」


「…………」



 メルティアは沈黙した。

 ますますもって状況が分からない。ただ焦燥だけが胸を灼く。



「リーゼ! 嫌な予感がします! 急いで下さい!」



 ともあれ、異常事態であることには違いない。今は急ぐのみだ。



「ええ、了解ですわ! 急ぎますわよ! メルティア!」



 同様に焦りを抱くリーゼもそう応じる。

 そして白銀の機体はさらに加速し、森の中を疾走した。



       ◆



『……《九妖星》、だと?』



 牛頭の鎧機兵を見据え、ジェイクが呻く。



『コウタ、お前さん知ってっか?』


『……うん。知っているよ』



 愛機・《ディノス》に処刑刀を身構えさせ、コウタが答える。



『確か《黒陽社》の最高幹部にして最強の戦士に与えられる称号だよ。噂だと《七星》にさえ匹敵する怪物達だって故郷で聞いたことがある』



 コウタの説明にジェイクは渋面を浮かべた。



『……要するにこいつは《七星》クラスの敵なのかよ』



 正直、最悪の展開だった。単純な恒力値を比較しても《ディノス》と《グランジャ》の二機を合わせてなお三倍の差があるのだ。



『ふん。今さら尻込みするのは情けないぞ。少年達』



 対するラゴウは実に余裕だった。

 その顔には、皮肉気な笑みを浮かべている。



『相手が強かろうが犯罪者から逃げる騎士などいないのだろう?』


『……立ち聞きとは趣味が悪いね』



 ラゴウの意趣返しに、コウタは不愉快そうに眉をしかめた。

 だが、アイリに告げたその言葉を偽りにする気はない。

 二本角と竜頭の手甲を持つ、赤と黒で彩られた鎧機兵・《ディノス》。そして左半身に外套を纏う褐色の重装型鎧機兵・《グランジャ》がゆっくりと間合いを測る。

 対する牛頭の鎧機兵――《金妖星》は斧槍を肩に担ぎ、悠然と佇んでいた。



『ふむ。趣味が悪いか。だが黒髪の少年。趣味に関してはヌシも中々のものだぞ』



 言って、《ディノス》の姿をまじまじと見やる《金妖星》。



『かの《悪竜》を彷彿させる機体。その美しくも禍々しい姿には感嘆さえ覚えたぞ。正直な話、しばし見惚れてしまったほどだ』



 ラゴウが所属する《黒陽社》はただの犯罪組織ではない。

 『欲望こそが人の真理』を教義に、かつて主たる《夜の女神》を己が欲望のために裏切った聖者――《黒陽》を信奉する宗教団体でもあるのだ。

 そんな彼らの神《黒陽》と《悪竜》には深い関わりがあった。

 神話の時代、女神を裏切った《黒陽》は《悪竜》に共感し、味方したのである。


 魔竜と堕ちた聖者。一頭と一人で世界に戦いを挑んだ者達。


 言わば《悪竜》とは、彼らの神の盟友なのである。

 その魔竜を模した機体となれば、ラゴウが興味を抱くのも当然だった。



『……別にお前に褒められたくはないよ』



 しかし、コウタにしてみれば不快なだけだった。



『この機体はボクの大切な人が、「最強」を望むボクのために造ってくれたモノだ。お前達のように《悪竜》や《黒陽》を信奉している訳じゃない』



 そう告げるコウタに、ラゴウは興味深そうに目を細めた。



『……ほう。少年は「最強」を望んでいるのか。確かに《悪竜》は《夜の女神》さえ凌ぐ最強の存在。その威容にあやかった訳か……』



 そこで、ふっと口角を崩す。



『しかし、あやかるだけでは意味がないぞ。その実力、《悪竜》の姿を借りるに相応しいものか吾輩が試してやろう』



 そう言って、ラゴウの乗る《金妖星》が一歩ずつ歩き始めた。

 コウタ達は緊張する。いよいよ戦闘開始だ。



『――コウタ!』


『うん!』



 最初に動いたのはコウタの方だった。

 竜装の機体が地を強く蹴って間合いを詰めると、袈裟切りに大剣を振り下ろす!

 対する《金妖星》は斧槍の柄で、刀身を受け止めた。



『……ほう!』



 この竜装の機体の恒力値はわずか六千四百ジン程度。しかし、《金妖星》の五分の一以下の出力とは思えない重い一撃に、ラゴウは感嘆の声をもらした。

 その上、魔竜を象った鎧機兵は、まるで流れるような所作で横薙ぎ、刺突と連撃を繰り出して来る。どれも初手に劣らぬ相当な重さだ。



(ほほう。これは意外にも掘り出し物か)



 片手で斧槍を操りながら、愛機の中でラゴウはほくそ笑む。

 この敵機の操手はまだ十四、五歳のはず。そんな若さでここまで鎧機兵を操れる者はラゴウの知る中でも《七星》の最年少者である第七座ぐらいだ。



(ふふっ、伊達に《悪竜》の姿を借りた訳でもないということか)



 と、ラゴウが微かな笑みを浮かべている間も《ディノス》の猛攻は続く。


 ――ガキンッッ!


 と、黒い斬撃が走る!

 ビリビリ、と斧槍の柄が震えた。わずかずつだが威力も上がっている。



『――ぬん!』



 と、ラゴウが唸り、《金妖星》が斧槍を横薙ぎに振るった。

 轟音を立てる一撃だったが、《ディノス》は後方に跳躍して回避する。



『――ふっ!』



 そして斧槍をやり過ごした後、再び間合いを詰める《ディノス》。

 跳び込みざまに逆袈裟切りを繰り出したが、それはあっさりと防がれる。

 ガンッと大剣を払い、《ディノス》は後ろに跳んで間合いを取り直す。

 五倍の出力差は、技量だけで埋められるものではない。

 コウタはヒット&アウェイを徹底していた。



『ふん。戦術的には間違っていないが、それだけで吾輩を崩すことは出来んぞ』



 そう挑発するラゴウに、



『分かっているさ。そろそろ本番だよ!』



 コウタがそう叫び、《ディノス》は地面を蹴りつけた。

 同時に響く雷音。今度はただの跳躍ではない。《雷歩》による加速だった。



『ほほう! やはり闘技も使えるのか!』



 だが、ラゴウは一切焦らず、笑みを深める。

 そして突進のタイミングに合わせて斧槍を振るう――が、



『――ほう!』



 ラゴウは目を瞠った。

 直前で竜装の鎧機兵が地面を強く蹴りつけ、真横に軌道を変えたのだ。

 《ディノス》は瞬く間に斧槍の間合いから外れた――その直後、



『……むッ!』



 白い布のようなものが《金妖星》の右腕に絡みついた。

 今まで隙を探っていた《グランジャ》の白い外套だ。

 伸縮性のある特殊な鋼糸で編み込んだ外套は、鎖の如く《金妖星》を拘束した。

 褐色の重装型の鎧機兵が力比べをするように、地面に足を打ちつける。



『中々面白い技を使うではないか、緑の髪の少年。しかし、この《金妖星》を拘束できるとでも思っているのか?』


『へっ! それでも数秒ぐらいなら持たあ! コウタ! 今だ!』


『うん! 分かった!』



 そう応え、《ディノス》が大剣を肩に乗せて身構える。

 この一瞬の隙に、斬り込むつもり――。



『その構えはブラフだな。本命は外套の下に隠した砲撃か。違うかね少年達よ』


『『――なッ!』』



 戦術を読まれ、コウタ達は息を呑んだ。

 ジェイクの愛機・《グランジャ》の動きがピタリと止まる。

 狙いを定めようとしていた砲身型の左腕も同じくだ。



『砂漠でもない場所で鎧機兵が外套を纏うのは、大抵何かを隠しているものだ。戦術としては定番すぎたな少年達よ』



 ラゴウが皮肉気にそう告げるのと同時に、《金妖星》はグンと右腕を動かした。

 途端、引き寄せられるように《グランジャ》が軽々と宙に浮いた。

 その先には、左手に斧槍を持ち直した《金妖星》が待ち構えている。



『う、うおおお――ッ!?』


『ジェ、ジェイク!』



 少年達が慌てるがもう遅い。

 巨大な斧槍は《グランジャ》を容赦なく打ちつける。

 ただし、斧の刃ではなく斧の腹でだ。

 ビキビキッ、と装甲に亀裂を入れ、《グランジャ》は森の方まで弾き飛ばされ、木に叩きつけられた。ズズンと轟音を立てて地に伏せる褐色の鎧機兵。

 ジェイクの愛機は完全に脱力して沈黙した。


 コウタの顔から一気に血の気が引く。

 この機体の反応はまずい――。



『ジェイク!』



 友人の身を案じ、思わず名を叫ぶと、



『……ぐ、オ、オレっちのことはいい……に、逃げろ、コウタ……勝ち目はねえ。アイリを連れて逃げ、るんだ……』



 ピクリとも動かない機体から、そんな声が上がった。

 どうやら機体は半ば大破したが、ジェイク自身は無事らしい。

 ホッと安堵するコウタ。


 ――しかし。



『ふふっ、吾輩には《星読み》がある。逃げても無駄なのは分かるだろう?』



 ズシン、と地を踏みしめ、《金妖星》が近付いてくる。

 コウタは、ギリと歯を軋ませた。

 ジェイクはもう戦えない。気絶してしまったのか、声も聞こえなくなった。

 グッと操縦棍を握りしめる。



(……こいつ相手に一人で挑むのか)



 考えただけで喉が鳴る。途方もない困難だ。

 かと言って、みすみすアイリを差し出すつもりもない。



(……ボクがやるしかないんだ)



 コウタの意志を感じ取り、《ディノス》は黒い大剣を身構えた。



『ほう。この状況でも戦意は衰えないか。だが、時間も押している。もう少し付き合ってやりたい所だが、そろそろ本気で行かせてもらうぞ』



 ラゴウはそう告げ、ふっと笑った。

 その直後、雷音が響く。《金妖星》が初めて自ら加速したのだ。

 息を呑むコウタの前で斧槍が振り下ろされる!

 咄嗟に、《雷歩》で横に回避する《ディノス》だった――が、


 ――ズズゥン……。


 凄まじい威力に大地が鳴動する。

 斧槍の刃は地面に巨大な亀裂を生みだしていた。

 直撃すれば、重装型の鎧機兵でも容易く両断される威力だ。



『――くッ!』



 やはり膂力が違いすぎる。文字通りの桁違いだ。

 コウタは冷たい汗を流した――その時だった。



『コウタ!』『コウタさま!』



 聞き慣れた少女達の声が耳に届く。

 コウタはギョッとした。

 続けて、森の中から長剣と盾を構えた白銀色の鎧機兵が飛び出してくる。

 リーゼの愛機・《ステラ》の姿だ。



『リ、リーゼさん!? それにその声、メルも!?』



 コウタは青ざめる。何故ここに彼女達が……。

 しかし、それを尋ねる前に《ステラ》は《雷歩》を使い、加速した。

 半ば大破している《グランジャ》の姿を見れば、戦闘中なのは明らかだ。

 リーゼは敵に状況を把握されるより早く一撃を加えるつもりだった。

 まさに問答無用で《金妖星》の頭部に長剣を振り下ろす――が、



『ふむ。伏兵がいたのか』



 しかし、ラゴウは慌てず柄で刀身を簡単に受け止め、



『だが、黒髪の少年より腕は落ちるようだな。面白味もなさそうだ。折角出てきてくれた所すまないが早々と退場願おうか』



 そう呟くと、尾の先端の大蛇がゆらりと動いた。

 そして長剣を押さえられた《ステラ》の前に移動し、大きくアギトを開く。

 コウタは背筋に悪寒が走った。



『まずい! リーゼ! 跳ぶんだ!』


『――クッ!』



 怒号にも等しいコウタの指示に、反射的に盾を構え、後方に跳ぶ《ステラ》。

 その直後、凄まじい衝撃が白銀色の機体を揺らした。

 大蛇のアギトから放たれた恒力の塊。《穿風》の一種だ。



『きゃあああ!』『くあああっ!』



 白銀色の機体の中から響く少女達の悲鳴。

 不可視の激流は防御した盾ごと《ステラ》を呑み込み、時間を巻き戻すように機体を森の奥へと吹き飛ばした。



『メル! リーゼ!』



 コウタは愕然とした表情を浮かべ、急ぎ彼女達の安否を確認しようとするが、



『おっと少年。心配するのは結構だが、隙は見せるべきではないぞ』 



 ――ゴウッ!


 轟音を立て繰り出された石突きの刺突に、愛機の肩を打ちつけられた。

 機体全体が揺らぐような衝撃を受けた《ディノス》は押しやられ、ガリガリッと両足で地面を削った後、片膝をついた。



『――くそッ!』


『ほう。咄嗟に急所を外したか』



 ラゴウは感心したように目を細め、そう呟く。

 コウタは、眼前で悠然と佇む《金妖星》を睨みつけた。

 歯を剥き出し、ギシリと軋ませる。


 このままだと奪われる。

 アイリを。

 友人達を。

 そしてメルティアを。

 あの『炎の日』のように奪われる。



(――嫌だ! 二度と奪われてたまるか!)



 コウタは、静かに唇を噛みしめる。

 二度と奪わせない。

 そのための力が、この《ディノス》だった。



「……《ディノス》」



 コウタは愛機に語りかける。



「お前は最強の鎧機兵だ。何者にも屈しない最強の《悪竜》なんだ」



 メルティアがそう願い、コウタのために造ってくれた機体だ。

 ――そう。《ディノス》は最強の鎧機兵なのだ。



「だから」



 ググッと操縦棍を握りしめ、コウタは叫ぶ!



「だから、その最強たる証をここに見せてみろ! 《ディノ=バロウス》!!」



 主人の命に竜装の鎧機兵は迅速に応えた。

 突如、大剣を投げ捨てると、ズズンと両手を地につけ、獣のように構えた。

 その直後、竜頭を象った手甲の両眼が赤く輝き始める。

 そして頭部の双眸も赤々と光り始めた。



『……ほう。まだ何かする気なのか』



 その様子に、ラゴウは興味が引かれた。

 まるで見世物でも見物する面持ちでいるラゴウだったが、わずか数秒後、



『お、おおおッ! なんと! これはもしや!』



 徐々に変貌していく眼前の光景に、大きく目を見開いた。

 続けて自機の《万天図》にも目をやり確認する。



『おお……この圧倒的な恒力値。それに加え、禍々しき発光現象。間違いない。あの第三座が使う《真紅の鬼》と同じ原理か……』



 と、思わず感嘆の声を上げるラゴウ。

 目の前で起きている現象と同じものを、ラゴウは噂で知っていた。

 まさか、あれと同じ現象をこんな場所で拝めようとは――。



『ふ、ふははは! これは流石に驚いたぞ少年! よもやあの《七星》の第三座以外にもこんな狂気じみた真似をする者がいようとはな!』



 ラゴウが実に楽しげに哄笑を上げる。

 眼前の敵機。竜装の鎧機兵・《ディノ=バロウス》は今、全身から淡い真紅色の輝きを放っていた。漆黒だった鎧まで赤く染まっている。

 両腕の竜頭に仕込まれた二つのC級《星導石》を起動させ、合計三つの《星導石》を共鳴させることで膨大な恒力を発生させる。


 ――これが、《悪竜(ディノバロウス)》モード。


 メルティアが欠陥ありと呼んだ機能だった。

 その最大の欠陥は発生する恒力の量だ。

 設計当初では、恒力値は多くても三万ジン程度のはずだった。

 しかし、メルティアが考案し造り出した共鳴(トリニティ)システムは、彼女の予測を遥かに超える効果を発揮した。信じがたい量の恒力を生み出すことになったのだ。

 結果、使用すると機体の方が恒力値に耐え切れなくなり、全身が赤熱化してしまうようになった。すなわち、赤く染まった《ディノ=バロウス》とは全身が赤熱発光している極めて危険な状態なのである。


 だが、どんな危険な状態であろうと、今のコウタには関係なかった。

 自分から大切な人を奪う者は、絶対に許さない。

 それだけは断じて許容できない。



『……行くぞ。《ディノ=バロウス》』



 と、宣言するコウタに、


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!


 咆哮で応じる《ディノ=バロウス》。

 恒力値・七万二千ジン。

 自身の身体さえ灼く煉獄の力を解放し――。

 荒ぶる魔竜が牙を剥いた。

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