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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第4部

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幕間二 始まりの鐘

「……ぬふふ」



 時刻は深夜。場所は王都内の高台にある共同墓地。

 周囲を木々に覆われた死者の眠る静謐な場所で、男は一人笑っていた。

 手に(スッテキ)を持つ黒い貴族服の男。エリーズ国の騎士団。そして黒犬兵団が懸命になって追跡する人物。《死面卿》当人である。

 だが、その眼差しは強く閉ざされている。

 彼は今、ここではない別の場所を見つめているのだ。

 と、その時、空を覆う木々の間から一羽の鳥が舞い降りた。

 銀色に輝く異様な鳥だ。鳥は翼を羽ばたかせつつ《死面卿》の肩に止まる。途端、どろりと身体が崩れ、黒い貴族服に取り込まれていった。

 《死面卿》は片手で自分の肩に触れる。

 そして、



「………ぬふふふ」



 口元の笑みをさらに深めた。



「何とも騒がしい小僧どもであったな」



 かの乙女を探してパドロ中に飛ばしていた『使い魔』であったが、中々の成果を上げた。乙女の所在は勿論のこと、あの怪物のような少年の居場所も知れたのだ。

 しかも黒犬どもの主の居場所まで確認できたのは、かなりの僥倖だった。



「流石に軽視はできぬからな」



 《死面卿》はふっと口角を崩す。黒犬の戦闘力は知れたものだが、あの赤い髪の少年だけは違う。決して警戒を怠ってもいい相手ではない。

 黒髪の少年同様、出来ることならば遭遇は避けたかった。



「……ふむ」



 《死面卿》は顎鬚を撫でながら思案する。



「しかし、二人揃って同じ敷地内にいるのは厄介だな」



 かの乙女のいる場所には怪物が二人もいる。

 その双璧を打ち破り、乙女を攫うには一体どうすればよいか……。



「――――……」



 墓所の静寂に身を委ね、《死面卿》は考え続けた。

 沈黙は続く。

 そして数分後、遂に妙案に至り、《死面卿》はニタリと笑みを零した。



「……ぬふ。では、これで行くか」



 自分の策に満足し首肯した。

 次いで早速行動に移そうと、振り向いた――その時だった。



「――ぬ!」



 いきなり黒い巨人が上空から襲い掛かって来たのだ。

 獣のごとき鋭い爪が風を切る!

 《死面卿》は人間離れした脚力で地を蹴り、黒い巨人の爪を回避した。

 代わりに鋼の爪で墓石が粉砕され、地面が削られ土砂が飛ぶ。

 その土砂は一足で五セージルも跳んだ《死面卿》の肩にわずかにかかった。《死面卿》は不快そうに身体の土を払った。



「まったく。本当に無粋な連中だ」



《死面卿》は襲撃してきた黒い巨人――黒犬の鎧機兵を一瞥する。

 と、次の瞬間、凄まじい衝撃が《死面卿》を襲った。

 ――ミシッ、ベキバキッ、ゴキッ!

 まるで壁でも突っ込んできたような横なぐりの巨大な掌底に、《死面卿》の身体は為す術もなく跳ね飛ばされる。

 次いで地面を何度もバウンドし、霊園を越えて森の奥に姿を消した。



『――――』



 その光景を黒犬達は警戒した様子で見据えていた。

 そこには、二機の鎧機兵が構えていた。一機が奇襲をかけて囮となり、背後から忍び寄ったもう一機が渾身の不意打ちを喰らわせたのだ。

 作戦は成功した。生身で鎧機兵の一撃を受けてはただでは済まない。



『……討ちとったか?』



 鎧機兵の一機がそう呟く――が、



「……無駄なことをする」



 おもむろに森の奥から声が響いた。

 鎧機兵達は緊迫した様子で森の闇を見据えた。

 すると、コツコツと杖をつき、全く無傷(・・・・)の《死面卿》が現れ出た。



『……負傷すらしていないのか』



 並みの人間ならば重傷は免れない一撃。

 だというのに《死面卿》には一切傷はなく、衣服が破れている様子さえない。やはりこの男は想像以上の化け物だった。

 しかし、二機の鎧機兵に退くつもりなどなかった。

 爪を立てて近付いてくる《死面卿》相手に身構える――が、



「解せぬな」



 ふと《死面卿》は眉をひそめた。



「何故二機なのだ? そのような数で何故我に挑む」



 それは独白に近い呟きだった。

 だからではないが、対峙する二機も何も答えない。

 夜の静寂の中、《死面卿》はゆっくりと歩を進める。と、



「……ああ、なるほど。そうか」



 不意に納得する。

 改めてここが皇国ではない異国の地であることを思い出す。



「……ぬふ。要するに、功に焦った訳か」



 この国に来て、彼らの主人の立場は悪くなるばかりだ。

 勝手の知らない都。思うようにいかない捜索。

 すでにエリーズ国の騎士団に多大な借りを作っているに違いない。

 だが、運よく標的を見つけることが出来た。もし、ここで標的を仕留めることが出来ればその功は黒犬――強いてはその主人のものになる。

 だからこそ、たった二機でありながら奇襲を仕掛けてきたのだろう。



「何とも涙ぐましい忠誠心だな。黒犬」



 肩を竦めて《死面卿》はくつくつと笑う。

 黒犬達はやはり何も答えない。

 思いのほか忠犬である彼らに《死面卿》は笑みを深める。

 しかし、彼らがこうやって捨て身で挑んできた以上、すでに本来の任務である捜索の報告は済ませていると考えるべきだった。

 恐らくは伝達用の梟、もしくは他の仲間を走らせたか。

 いずれにせよ増援がやって来るのは確実だ。あまりこの場所に長居も出来ない。ここは早々に始末するのが良策か。



「光栄に思え。お主らの忠義に免じて相手をしてやる」



 そして獅子の相の男は不気味に笑って宣言する。



「高らかに鳴り響くがよい、黒き鋼の巨人どもよ。お主らを引き裂いて捻り潰す音を、かの麗しき乙女を迎えにいく祝福の鐘の音にしようではないか」

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