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第六章 少年達は語り合う①

 小鳥が飛び交う翌日の朝。

 アルフレッドは、アシュレイ家の庭園の一角。中心に屋根だけの建屋の中に石造りのテーブルが置かれた大きな広場にて日課の修練を積んでいた。

 国や場所が変わってもこの習慣だけは変わらない。騎士としてコンディションは日々万全にしなけばならない。それがアルフレッドの考えだった。


 ――ヒュン!


 機械仕掛けの槍が、大気を鋭く弾く。

 二連、三連と目にも止まらない刺突が続いた。

 そうして修練を積むこと十分。



「……ふう」



 と小さく息を吐き、アルフレッドは槍をホルダーに収めると視線を後ろに向けた。

 そこには二人の少年と、小さな鎧騎士――ゴーレムが一機いた。

 彼らは軽く会釈をすると、



「鍛錬のお邪魔をしましたか?」



 少年の一人――コウタがそう尋ねてくる。

 アルフレッドは「いえ」と言ってかぶりを振り、



「構いませんよ……と言うよりも」



 そこで、赤い髪の少年は苦笑を浮かべて、



「そろそろ格式ばった敬語はいいかな? 君らって僕と同い年ぐらいだろ?」



 そう告げる。コウタともう一人の少年――ジェイクは顔を見合わせ、



「そう言ってくれるとありがてえな。どうもオレっちは敬語が苦手でさ」


「まあ、ボクもあまり得意ではないかな。そもそも平凡な村出身だし」



 と言って、二人は視線をアルフレッドに向け直した。



「改めて自己紹介を。ボクの名前はコウタ=ヒラサカ。よろしく」


「オレっちの名前はジェイク=オルバンだ。よろしくな」



 砕けた口調で自己紹介する少年達にアルフレッドは破顔した。



「うん。よろしく。僕の名前はアルフレッド=ハウルだ。少し長いからアルフと呼んでくれると有難いな」



 アルフレッドの要望に、コウタとジェイクは再び顔を見合わせ、



「うん。じゃあ、ボク達も名前でいいよ。よろしくアルフ」



 言って、二人はアルフレッドに近付き、順に握手を交わす。

 少し和やかな空気が庭園に広がった。

 するとその時、コウタの傍にいたゴーレムがアルフレッドの赤いサーコートの裾を掴んでグイグイと引っ張り、



「……オレ、三十六ゴウ。ミシリオケ」



 自己紹介らしきことを告げた。



「……いや、話には聞いていたけど、君って本当に鎧機兵なのか?」



 思わずアルフレッドは頬を引きつらせて独白する。

 昨日の会談の後、リーゼとラックスからこのアシュレイ家特製の小さな鎧機兵については教えてもらったが、流石に信じ難い。


 ――自律型の鎧機兵。

 こんなとんでもない技術は、皇国においても聞いたことがなかった。



「ははっ、彼らを初めて見た人はみんなそう尋ねるよ」



 すると、コウタが苦笑いを浮かべた。



「けど、本当に鎧機兵だよ。その気になれば頭とか外せるけど見てみる?」


「い、いや、それはいいよ。見ると夢に出てきそうだ」



 アルフレッドは顔を強張らせて辞退した。

 が、すぐに表情を改めて――。



「けど、いいのかい?」少し挑発するような声で告げる。「君らはラストン嬢とメルティアさまの護衛なんだろう? こんな所にいたらまずいだろう」



 自分を差し置いてまで護衛をしているのにこんな所でサボるな。

 暗にそう告げるアルフレッドに対し、ジェイクはわずかに肩を竦め、コウタは少しだけ目を細めて答えた。



「大丈夫。アイリとメルには今、リーゼとシャルロットさんが付いている。それに今はラックスさんも来ている最中だしね。それでも、もし緊急になった時は」



 そこでポンとゴーレムの頭を軽く叩き、



「彼がすぐに教えてくれる。警備は万全だよ」


「……ウム。マカセロ」



 両手を上げてそう応えるゴーレムを一瞥しつつ、アルフレッドは眉をひそめた。



「教えるってどうやって?」



 素朴な疑問を口にする。と、それに対してはジェイクが答えた。



「こいつらって他の機体とリンクできんだよ。メル嬢達に危険があれば向こうのゴーレムからこいつへとダイレクトに連絡が来るってことさ」



 アルフレッドは目を丸くした。

 それから数秒後、考え込むようにあごに手を当てて、



「……それは凄いな」



 感嘆――いや、内心ではかなり驚愕する。これもまた恐るべき技術だ。そんな伝達方法も初めて聞く。下手をすれば世界が変わるレベルの技術だ。

 そんなアルフレッドの驚愕に気付き、コウタは少し口元を崩した。



「まあ、距離的にはアシュレイ家の敷地内ぐらいまでが限界だけど、おかげで少し余裕が出来た。だから、ボク達は――」



 どこか既視感を覚える黒い眼差しを真直ぐ向けて、少年は言葉を続ける。



「今の内に、君と話す機会を作りかったんだ」


(ああ、そう言うことか)



 アルフレッドは赤い瞳をわずかに細めた。

 なるほど。彼らからにしてみれば、アルフレッドはこの敷地内で唯一力量を知らない人物だ。この警備陣の『穴』になるかもしれない。彼らはわざわざ時間を作ってアルフレッドの力量をその目で確認しに来たという訳か。

 心情は分かる。しかし、力量を疑われるのは正直不本意だ。それは自分のみならず、皇国騎士団そのものの実力を疑われるのに等しいからだ。

 なればこそ――。



「……そうだね。コウタ」



 アルフレッドは矜持を宿した鋭い顔つきを見せた。

 そして対峙する二人の少年を順に見据え、淡々と語り出す。



「僕達はお互いのことをまるで知らない。確かに対話は必要だろう。けど、それよりも手っ取り早い方法があるよ」


「手っ取り早い方法だって?」



 アルフレッドが少し剣呑な雰囲気になったことを察したジェイクが真剣な顔つきで両腕を組み、言葉を反芻する。アルフレッドは「うん、そうだよ」と首肯した。

 その傍らでコウタは何も語らずアルフレッドを見据えていた。

 張りつくような数瞬の沈黙。そして――。



「僕達は騎士だ。なら対話よりもずっと早い」



 そう前置きをしてから、アルフレッドは二人の少年に提案するのであった。



「どうかな? いっそここで一度、僕と手合わせしてみないか?」

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