安堵、そして
彼の部屋はいつもと変わらず、ゆったりとした雰囲気をまとっていたけど、それもどこか違うようで私は怖かった。
震える指でインターホンを押す。この部屋には彼しか住んでいないから、出てくるのはきっと彼だ。何事もなかったかのように寝ぼけた顔で出てきてくれるはずだ。
「お嬢さん?そこの部屋の人はもう少しで帰ってくると思うよ、最近仕事が忙しかったらしくて。」
「え?あ…ありがとうございます…。」
隣の部屋の人が立ち尽くす私に そう教えてくれた。そういえば、メールで忙しい時期に入るって言っていたんだ、じゃあ、何もなかったんだ。
私は自分の忘れっぽい性格を恨みつつも、安心していた。
とぼとぼと家に帰って 持ち帰っていた仕事を片付けていると、母親が慌てたように部屋に入ってきた。
「今のニュース見た?」
「え?何のこと?全然分からないんだけど…。」
「今日ニュース見てないの?ちょっと見てみなさいよ。」
仕事のファイルを一旦閉じて、インターネットのニュースを見てみると、家の近くで交通事故があったみたいだった。
あ、この名前って…。……。
私は家を飛び出していた。そんな事ない、だって、危ないことは絶対にしない人だもん、そんな事ない。
表示されていた臨時ニュースには、彼の名前が出ていた。
いつの間にか降り始めていた雨は、私が足を早める度に強くなっていった。
いつも通りの日々に満足していた私をあざ笑うように、わずかな希望を持って、違和感を無視していた私を責めるように。
「どいてください!お願いします、道を開けて…!」
“すぐ近くで交通事故があったみたいよ?”
“近くに住んでいるあの男の子が…”
“怪我が酷いみたいで…”
そんな嫌なことばかり聞こえてきてしまう。
ふと開けた視界には、見覚えのある彼の車。すぐ近くには泣き叫ぶ子供。目を背ける周りの大人。そして、真っ黒な地面に映える、紅。
視界が色々な色に染まって、私は気を失った。




