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UFO同好会

UFO同好会のクラスマッチ

作者: 讒現


健太郎君は大地にキスをするのが趣味というわけではない。むしろ諸手をあげて全力で逃走を図りたいくらいに大嫌いだ。しかし現在健太郎君は灼熱の校庭に、うつぶせに倒れていた。

「健太郎、おい健太郎。しっかりしろ」

同じクラスの椛山が背中を叩いている感じがする。健太郎君は顔を上げる。

「なんだ、横山じゃないのか」

背中を叩いていたのが手から膝に変わる。激痛に彼はうめく。

「ちょ、ヘルニヤになったらどうしてくれんだよ」

「俺じゃない俺じゃない。後ろ見てみ」

健太郎君は身を起こそうとする。そこに再び膝がめり込む。健太郎君はカフっと言って力尽きる。

「私があんたなんかを立たせるわけないじゃない。ホラ立て。そして跪け」

後ろで横山の声がする。

「しかし俺には……守らねばならない約束があるんだっ! たとえ世界が滅ぼうとも」

「そんなに大仰なもんでもないっしょ」

と横山が一蹴した。

後ろでは熱き男供の闘争が未だ続いている。炎天下の校庭を男子高校生が飛びまわっている。先ほど意識がブラックアウトした健太郎君は、こうして小突かれながら休息している。というわけだ。

彼の種目はカバディである。ルールを簡単に説明すると、人間陣取りのようなものである。まず二つの陣に分かれる。そしてカバディカバディとずっと言いながら敵を自陣に引きずり込む。途中で息が切れてしまったら仕切りなおし。ウエイトと肺活量の両方を消費する、実際は極めて消耗の激しいスポーツである。

「どうだ健太郎、少しはましになったか」

とクラスの体育委員がやってきて言った。

「そうだな。あと7分ぐらい欲しい」

と彼は言った。

「そうか。人数ぎりぎりだから、早く戻ってきてくれよ」

と彼が言った瞬間、校庭にいた生徒が一人、いきなり卒倒した。カバディイイイイ、と叫び、膝を突き、腕を突き、崩れ落ちる。崩れ落ちた瞬間に敵がやってきて、カバディカバディと唱えながら敵陣に彼を担いでいく。それに対抗して味方もカバディカバディと唱えながら敵に立ちはだかる。大乱闘の始まりだ。二人の団子が4人になり、六人になって八人になる。それぞれのカバディという言葉が混ざり合って、ただの咆哮にしか聞こえなくなる。

審判がホイッスルをふく。

「ジャンプボール」

空気が固まる。

「バスケかよ」

と健太郎君はつぶやく。

もみくちゃになっていた団子が解けて、中から真っ白になった男子生徒が健太郎くんの方へ担がれてくる。

「何か言い残すことはあるか?」

と健太郎君が聞く。

「後は……頼んだ」

と真っ白な彼が言う。彼は体育服から小さなお守りを取り出すと健太郎君に託そうとする。

「いや、今それやったらお前死亡フラグ確定だから」

と健太郎君が言う。

「そうか」

と真っ白な彼は小さく笑う。代わりに腕時計を取り出すと、健太郎君に預けた。腕時計はタイマーになっていた。おそらく試合が終わるまでを数えているのだ。

「これを俺だと思ってくれ……俺はずっと、クラスとともにある」

と真っ白な彼は言って眠りにつく。その場に居合わせた全員が敬礼をして、タイミングよく正午のサイレンが鳴った。

彼が保健室に運ばれて校庭から消えるのを見届けた後の健太郎君の目には静かな炎が灯っている。

「椛山」

「あん?」

「横山を頼む。あれは極度のツンデレでドSだが、根はいいやつふぉ」

言い切れずに横山の回し蹴りが健太郎君の鼻を掠める。

「ざけんなよ。いいか、絶対に生きて帰って来い。私がお前を殺すから。百二回ぐらい」

と横山が言う。

「だそうだ。頑張れ」

と椛山がどうでもよさそうに言う。

「行ってきます!」

と叫んで健太郎君は校庭に踊りこむ。手元の腕時計を見ると、タイマーはあと二分となっている。

すぐ健太郎君は敵に見初められる。向こうからゴジラみたいなラグビー部の奴がカバディカバディと言いながら彼に寄ってくる。天文館でこんなふうにアプローチされたら間違いなく通報モノだろう。健太郎君は極めて冷静にそう思った。

衝突する直前に健太郎君は左に避ける。そのまま足払い、突っ伏すゴジラ。マウントポジションに乗っかると健太郎君はゴジラの頭をロックする。

「いいか。キュっとされたくなかったら抵抗するのをやめてカバディと唱えるんだ。」

健太郎君はゴジラを脅す。ゴジラは全身の力を抜いてカバディとぶつぶつ言い出す。

しかしそう簡単ではない。健太郎君が悠々とゴジラを敵陣に引きずっていくのをみた別のゴジラが健太郎君に猪突猛進してくる。こりゃゴジラじゃなくて猪だな、と思ったそのとき、背中にものすごい衝撃を感じてたまらず突っ伏した。後ろから別の別のゴジラに襲われたのだ。カバディといわずに、隠密に接近するとは卑怯なり、と思ったが胸が押されて息ができない。以上に気づいた見方もカバディカバディといいながら健太郎君の救助に向かう。健太郎君を底辺とした男供のサル山が出来上がろうとしていた。

朦朧とする意識の中、健太郎君は腕時計のタイマーが0になるのを見た。そういえば、カバディって時間制じゃなくて人数制だったっけ、と思ったがもう遅い。

腕時計に仕掛けられていた爆竹がサル山の中心で爆発した。


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