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釣書はこの恋の最後通牒
「きみにパワハラをするつもりはない。……もしきみが本気で嫌なら、俺は潔く見合いでもするつもりだ」
ある日、神妙な顔をした清水さんに部屋に呼び出された。そうして机の上の資料の山からすっと一枚抜き取って、あたしの目の前に差し出されたのは見合いの釣書。聞けば、結婚を迫る清水さんに見かねた教授が用意したものらしい。
「この釣書は百瀬くんに預ける。本気で俺のことが嫌になったら、これを俺に渡してくれ。
少しでも可能性があるなら、これはきみが持ってて欲しい」
今すぐにでも清水さんに、見合いの釣書を突き返すことは出来た。
けれど、あたしはしなかった。ゆっくりと机の上を滑らしながら、釣書を受け取る。
「わかり、ました」
「……!ありがとう、百瀬くん!!」
清水さんのテンションが明らかに高くなる。尻尾でもついていたならば、全力で振っているのだろう。若干の気恥ずかしさが否めず、あたしはそのまま清水さんの顔を見れないまま部屋を失礼した。
(やっぱり、絆されかけてるよね)
扉の向こうで、釣書を抱きかかえたまま、あたしは溜め息を吐いた。