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第91話:それぞれの思い

 渡された書類を確認するとそこには通帳はもちろん、自分が志願していた大学入学のための書類が揃っていた。その保護者の欄にはすべて荒井の名前が書かれている。

「大学のほうは焔さまが適当に選んだようです」

 入学案内の書類には『K大教育学部』の名前を筆頭に有名大学の『教育学部』の名前が連なっていた。

 どうやって知ったのか学部も何もかも、良弘が望んでいた所であった。

「焔は・・・あなたに逢いにいったんですか」

 自分と同様に彼女も目の前の老人が自分の母親方の祖父であることは知っていたのだろう。

 もちろん彼が持っている能力も彼女は知らされていたはずだ。それなのに魂だけの存在である彼女が『魂喰』である彼に近づくとは思わなかった。

「良弘様が帰ってきた後の処理を頼む、と頭を下げられました。あのお転婆娘が頭を下げるなど珍しいことですので、頑張りましたよ」

 朗らかに語る荒井に良弘は「そうですか」と気が抜けたように答えた。

 案外、彼女のほうが『敵』と『味方』を見分ける能力は高いようだ。

 それに彼女は昔から荒井のことを知っているようだ。そうでなければ彼が『あのお転婆』と彼女を評することは無いだろう。

 一方、植村は現れた良弘に面食らっていた。

 第一印象は『全然似ていない』の一言だった。真帆や香帆の特徴である紅い瞳は持っていないし、眉目秀麗ではあるが真帆や香帆とは顔立ちが完璧に異なっている。

 先に兄だという説明が無ければ・・・そして浩一郎を伴っていなければ、植村は彼を識別できなかっただろう。

 良弘は妹たちとの抱擁を終えると、真帆の掌に浩一郎・香帆・そして自分の分のコインロッカーの鍵を落とした。

 そらから先ほどから自分を観察している植村の方へと体の向きを変えた。

 近場のロッカーに懐きながら窺っていた植村は『なんだ、なんだ』とあたふたしながらも、近づいてくる良弘を観察し続けている。

 なるほど、浩一郎が『俺の目を信じるなら』と自信を持っていうぐらいに好青年おもしろいせいねんだ。

「あなたが植村さんですか?」

「あ・・・はい、そうです」

 声をかけられた植村は良弘の声にぴんっと背筋を伸ばして固まってしまった。まるで寝ぼけていた所を急に先生に指名された生徒のようだ。

「真帆の双子の兄で良弘といいます。はじめまして」

 植村の態度に視線を和ませながら、良弘は彼に握手を求めた。

「植村晴彦です。真帆姫と同じ高校に通っていました」

 植村はぎこちないながらも、握手に応じた。

 ショックのあまり気付かなかったが、良弘は背丈が目を見張るほど高い。

 一応180cmを越える自分が見上げなければいけないのだ、有に190cmは越えているだろう。

「それで真帆の相手の方は・・・?」

 当然の質問に植村は彼が答えようとした瞬間、浩一郎の頭を誰かがヘッドロックした。

 良弘が驚いて助けようとするとその犯人は見目麗しい顔ににっこりと笑顔を浮かべて彼を制した。

「どうも、始めまして。真帆と結婚させてもらう望月勝です。よろしく」

 身悶える浩一郎にヘッドロックを掛けたままで彼は良弘に挨拶をした。

 その声を聞いた浩一郎はぴたりと抵抗を止め、恐る恐る彼を見上げる。

「ところで、真帆に聞いたんだけど走ってくる車に体当たりをしたんだって?どういうことか教えてくれるかな。松前浩一郎くん?」

 突然の暴挙に出た勝に困惑していた真帆と植村は、彼の態度を受けて完全に無視を決めた。

 どうやら二人は知り合いのようだし、何より、怒りを秘めている彼にちょっかいかけた後の恐ろしさなど二人はよく身に染みていた。

「あ、荷物出しましょうか」

「そうしようか」

 完璧に助けてくれない二人に浩一郎は見切りをつけ、傍にいた良弘に視線を移す。

 しかしそこには勝同様どこか怒った様子の良弘が満面の笑顔でこちらを見ていた。

「それは私も聞きたいですね」

 逃げる道の無い現状に浩一郎は柏原と対峙している時以上の恐怖を感じたのだった。

浩一郎、絶体絶命の巻。勝が待っていたのは浩一郎が大怪我を負ったと聞いたからです。

最初書いた時にはそのまま彼らは出発したのですが、知り合いが浩一郎が現れないことを訊かないことは不自然だろう・・・聞いたら、絶対残るだろうということで彼らはロッカー前に集合することになってしまいました。

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