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第90話:守れなかった結末

 長老のトップの地位に上りつめ、いつの時点で当主の捜索の打ち切りを宣言するべきかと考えていた荒井の元に突然届いた訃報。

 それは柏原たちのグループが当主を見つけたという報告と力を無くした当主を彼が『魂珠』にしていしまったという事実だった。そして何より未曾有みぞうの炎が彼らの住んでいた家を焼き尽くし、その場を離れていた柏原以外の桧原の人間及び前当主夫妻の遺体が灰になったという信じ難い連絡だった。

「守りきれんかった・・・ただ二人の幸せを願い送り出したのに」

 信じ難い衝撃を受けた荒井に出来たのは、まだ今ほどの権力を有していなかった柏原から二人の『魂珠』を取り上げることのみだった。

 しかしそれに取り戻すことに気を取られすぎ、彼が良弘達を守ろうとする対応はすべて後手後手にと回ってしまった。

 結局、良弘は傷を負わされ虜囚となり、香帆は次期当主候補として桧原の監視下に置かれ、真帆は二人を人質に取られて未来を見なくてはならなくなってしまった。

 更にはその時の混乱に乗じて柏原が力を増大させてしまった。彼はがん細胞のように周りにいる桧原の者を侵食くらい能力的に見ても荒井に匹敵するほどの炎の力を持ってしまった。

 それが今回の事態を巻き起こしてしまったことを、彼は非常に反省していた。

「だから、あなた方には今度こそきちんと逃げ切って欲しいんじゃよ。『桧原』という地の呪縛を断ち切って、な」

「おじい様・・・」

 真帆は心から純粋に彼のことをそう呼んだ。

 今、この老人がしようとしている事は紛れもなく『桧原』を裏切る行為だ。

 それなのに、彼は迷いもせずに自分たちに手を差し伸べてくれた。

 おそらくこの3年の間に良弘が殺されなかったのは、この老人が阻止してくれたのだろう。

 そうでなければ人質は香帆だけで十分とみなし、柏原のように見せしめとして消すぐらいのことを彼らはやったはずだ。

 荒井は真帆の呼びかけに嬉しそうに目を細めて笑う。こうしてみると好々爺の様相をしていた。

「そうじゃ、これが一番大切なものだった」

 荒井は懐にしまいこんでいた一枚の書類を勝と真帆に差し出した。それは婚姻届だった。その妻の保護者の欄には彼の名前が書き込まれている。

「内縁関係なら兎も角、結婚をしていれば連れて行くのに面目もたつじゃろ」

 勝はそれを畏まって受け取ると深々と目の前の老人に頭を下げたのだった。




 良弘達が松前家の車でようやく駅に着いたのは真帆達が到着してから1時間も経った後だった。

 浩一郎達の姿を見て、最初は卒倒しそうになっていた香原は何とか意識を止めると用意していた大量の濡れタオルを主人である浩一郎に渡し、自らの職務に着くべく彼らを広い車内へと導いた。綺麗に清掃されている中に汚れた状態で入るのは気が引けたが、彼は気にせず、ドアを閉めると緩やかに車を発車させた。

 とりあえず二人は自分たちの服を脱ぐと香原が用意してくれた温かい濡れタオルで身体の汚れを落とす。それから用意していた服に着替えた。

 それが終わるのと同時ぐらいに車は静かに止まり、ドアが開いた。

「到着いたしました」

 その言葉に二人は車外へと出た。香原は浩一郎が降りるのを待ち構えたように、主にコインロッカーの鍵を渡した。

「ありがとう、それじゃ、行ってくる」

「気をつけて、行ってらっしゃいませ」

 香原は深々と礼をすると何事も無かったようにそこから去っていった。

 二人は去っていく香原に軽く手を振ると、自分たちの荷物が置いてあるコインロッカーへと急いだ。

「真帆ちゃん達はちゃんと先に行けたかな」

 器用に人を避けながら笑う浩一郎に

「そうでないと困りますよ」

と、良弘は生真面目に返した。

 自分で嵌めていた枷が外れたせいか、良弘の毒舌は以前にもましているようだ。

 走っている二人はそれなりに注目を集めていた。

 もともと人並みはずれた身長のせいで目立つ良弘だが、今日はそれに附随して顔立ちのよさまで際立ってしまっている。それというのも容姿を隠すための伊達眼鏡が良弘と焔が発した熱のせいで解けてしまったからだ。

 浩一郎も人並み以上の優れた容姿を持っている。そんな二人が全力疾走していて目立たないはずは無い。

 彼らは二人を見つめる女性たちの熱い視線を無視して、駅の隅のほうにある階段を駆け下り、通路の先を左へと折れた。

「良弘さんっ!」

「お兄ちゃんっ!」

 息を弾ませながら駆けつけた良弘に真帆と香帆が勢いよく抱きつく。

「えっ?・・・えええっ!真帆?どうして・・・それに香帆まで・・・」

 良弘にしては珍しく驚きの隠せない姿に妹たちはにっこり「待っていたの」と答えた。

 なんて無謀な・・・と文句を言おうとした視線の先に、荒井の姿を見つけた良弘はほぅっと息を吐いた。

「見えられていたんですか、お祖父じいさま」

 良弘の口から出た言葉に、浩一郎は目を丸くした。

 ・・・突然現れた人のよさそうな老人が祖父?彼らは保護者全てを失っていたのではなかったのだろうか。

「必要な書類をお持ちしたんですよ。真帆さまには先に渡してあります。これは当主殿の分です」

 荒井はそういうと自分の手元に残っていた書類をすべて良弘へと差し出した。

90話だよ!全員集合〜!!の巻、この元ネタ、若い人にわかるでしょうか。

やっと全員合流できました。終りも見えてきました。本当に書き直しの多い部分なので大変ですが、残り僅かに向けて驀進します。

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