第8話:扉の前の事情聴取
「この家って、いつもこんな感じなのかい?」
どのパーティに出ても女性から評判のいいといわれる笑顔を浮かべた浩一郎に問われ、彼女は紅い顔で小さく頷いた。
「先日から入って、詳しい事は知らないですけど・・・いつもあんな感じです」
上手く籠絡できそうな感触を得た浩一郎は、さらに優しい眼差しを作り彼女の顔を覗き込んだ。
爽やかさの中に、不思議な気品を感じる容貌に彼女はさらに顔を紅くする。
「良弘に対してだけ?」
浩一郎の的を射た質問に、彼女は小さく頷き、おどおどとした口調で答え始めた。
「そうみたいです。とってもお美しく、優秀な方なのにどうしてなのかと思うくらいに良弘様には厳しいんです。
逆に真帆様に対しては蝶よ花よとの扱いで・・・今だって体調の悪い良弘様を放って置いて、真帆様への迎えの車をだしていたんです」
対応に時間が掛かったのは真帆の帰宅時間のためだったのだ。
浩一郎はメイドの口から語られた事に目を細めた。口元は人懐っこい笑みを浮かべたまま、瞳に怒りをたぎらせる。
彼女の方は恥ずかしげに顔を伏せていたので、彼の変化に気付かない。
「真帆ちゃんは、良弘がこの状態だって知ってるのかな?」
彼女は視線を下に向けたまま、静かに頭を振った。
「知らないと思います。知ったら、きっと、お務めを放棄されると・・・思うから」
うら若きメイドはやっと浩一郎が欲しいと思っていた情報のかけらを口にした。
「お務めって?」
浩一郎の抗うことの出来ない魅力に惑わされた彼女は小さく頷いてみせた。目元は先程よりも濃く朱が灯り、浮かされたように瞳が揺れていた。
「真帆様は・・・未来を」
後ともう少しで説明を始めそうになっていた彼女の顔が、夢からさめたように瞬時に凍り付く。
浩一郎が異変を察知し顔をあげるのと同時ぐらいに通用門が再度開いた。
−−−−−−出てきたのは先程とは違うメイドだった。
壮年の女性で、先程の女性よりも更に暖かみを無くした無表情さが際立っている。感情や意志をまったく映さない瞳が、静かに静かにこちらをみていた。人型のロボットがいるとしたら、きっとこんな感じだろう。
彼女は視線を動かすと、まず浩一郎に誑かされていたメイドに視線をあてる。
「早く、持ち場に戻りなさい」
静かに繰り出される言葉に若いメイドはひとたまりもなく急いで通用口の中へと駆け込んでゆく。
「もうすぐ、真帆さまが帰られます。裏口からお回り下さい」
どうやら真帆の目につかないように良弘をはやく正門の前から遠ざけたいようだ。
かなり待たされた上に告げられた言葉に彼は目の前のメイドよりも冷酷な視線で彼女を見据えた。
浩一郎の変貌に相手は少し怯んだようだったが、出来るだけ無視するように踵を返した。
「手も、貸してくれないんですか?こいつ、かなり重いんですよ」
さっさと歩き出したメイドに声を掛ける、彼女は少し振り向くと浩一郎の後ろを指さす。
途端に浩一郎の身体から、良弘の重みが消えた。振り返るといつの間にか現れた、自分よりも随分と屈強な男が良弘の脇を抱えるようにしていた。
「それで、よろしいですか?」
「・・・」
浩一郎はこれ以上、ここで騒ぎを起こすのは得策ではないと考え、さっさと歩き始めたメイドの後を追っていった。
浩一郎、垂らしの一面を見せる。の巻でした。
やっと屋敷の中に入れて貰えるようです。
今回はキリがいいのでちょっと短めでUPします。