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第86話:車中の祈り

 公園から離れるタクシーの中で真帆は懸命に祈っていた。

 発車する車の中から見た衝撃的な場面・・・追ってくる3台の黒い車、迷いもせずそれに体当たりをした浩一郎、跳ね上がる体が宙に滑らかな曲線を描き、地面へ肉体を叩き付けた。舞い散る紅いはな・・・浩一郎の服から滲み出た同質の液体は路面に鮮やかな色の血溜まりを作っていった。

「浩一郎さん・・・良弘さん・・・焔・・・」

 自分の勝手な振る舞いのせいで傷ついてしまった人々の顔が次々に脳裏に浮かんだ。

 恋人と同じぐらいに大切な、大切な人たち。それなのに、自分には彼らを置き去りにすることしかできない。

「真帆姫・・・」

 植村は彼女の名前を呼んでみたものの、掛ける言葉が見つからず口を噤んでしまう。

 暫しの沈黙が車中を支配した。無線から零れる僅かな音と、勢いよく走る車のエンジン音だけが静寂の中でやけに耳につく。

「・・・・・・んっ・・・」

 真帆の腕の中で意識を失っていた香帆が微かに身じろぎ、緩慢な動きで目元をこする。

「香帆?」

 姉の呼びかけに彼女はゆっくりとその大きな目を開いた。

「・・・お姉ちゃん・・・?」

 心配で顔をゆがめながら自分の身体を強い力で抱きしめてくる真帆に香帆は目を見張った。

 香帆には今、どのような状況にあるのか少しも判っていなかった。

 ここは・・・・・・タクシーの中だろうか。目の端に映る運転席の横にはまあまあの金額が表示され、未だにカウントアップされている。

 香帆は回らない頭を駆使して、目線で車内を確認した。

 助手席には誰もいない。

 そして自分を抱きしめている姉の横には・・・香帆の知らない人が自分たちの横に座っている。

 彼女はその事を怖がるように自分を抱きしめてくれる姉の身体にしがみ付いた。

「この人、誰?」

 見知らぬ他人に怯える妹の肩を真帆は確りと抱きなおした。昔は人見知りをしない子だったのに、あの家にいた3年間で幼い妹は警戒心が強くしてしまった。

 真帆は妹を安心させるために笑顔を作ると隣に座る植村を香帆に紹介する。

「私の友人の植村さん、植村晴彦さんよ」

 常に見ない穏やかなその笑みに香帆は肩の力を抜いた。

 桧原あのいえの人間が居る所で姉はこんな表情を見せない。つまり、この少年は見方ということだろう。

「あいつらから・・・・・・逃げること、できたの?」

 柏原に魂を取られそうになった後遺症からか、香帆は上手く身体に力が入らず支えてくれている姉の腕に身体を任せている。言葉もいつもの彼女とは違いどこか辿々しかった。

「ええ、もう大丈夫よ・・・もうすぐ待ち合わせの駅につくわ」

 そこには真帆じぶんの恋人である望月もちづきまさるが待っている。彼の妹は先に引越し先である彼の伯母の家に行っているそうだから、待っているのは彼一人のはずだ。

「ついたら、荷物を持って旅立いきましょう」

 言い聞かせるような真帆の言葉に香帆も頷こうとした。

 だが、そこに大切な人たちが足りてないことに気付き、その動きを止めた。

「お兄ちゃんは?松前のお兄ちゃんも・・・」

 別の車で来ているのだろうか?そう思ったが自分を抱いている真帆の表情が一瞬にして凍りついたのを見て彼女は悟った。


 ・・・・・・自分たちだけ、先に逃がされたのだと。


 そして彼らは自分を残すためにあの気持ち悪いかしわらと戦っているのだろう。

「大丈夫よ、良弘さんには浩一郎さんが、浩一郎さんには良弘さんがちゃんとついていてくれる」

 真帆は妹に掠れそうに鳴る声を堪えて妹に言い聞かせた。いやその内容は自分へ言い聞かせているのに近かった。

 かほはあの場面を知らない。

 良弘の魂が柏原の口の中で砕かれた瞬間を、浩一郎の体が赤く染まり地に落ちる光景を・・・彼女はトラウマになりそうなあの戦慄の瞬間の思いを味わっていない。

 そんな彼女に悟られないように彼女は微笑んで見せようとするのだが、顔が引きつってしまい先ほどのように笑えなかった。

真帆、必死に祈るの巻・・・サブタイトルとなんら変わりの無い名前になってしまったっ!!

今回から最終章に入っています。後は旅立つまでの話ですが、ここが一番付け足す部分が多いので、どれぐらいの長さになるのか未だに予測できません。

とりあえず、目標は15話で終わらせて、100話完結を狙いたいです。

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