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第71話:良弘―守るべき者の為に

 突然、悪意の嵐が強くなった。

 怒りの叫び声が消え、啜り泣く声が自分のもとに届く。

(あれは、真帆の声・・・・?)

 確かに、その泣き声は幼い時の彼女が泣き声に似ていた。

(ちがう、これは)

 良弘はしっかりと声を聞くために目を閉じた。

 ともすれば途切れそうなほど細く弱い泣き声を彼は必死に聞いていた。

(これは・・・焔の声)

 自分の勘違いのせいで長い時間、閉じ込めてしまっていた少女。

 自分のせいで傷ついている彼女の声だ。


 そして、焔はまた良弘のために泣いている。


(守らなくては・・・)

 自分の罪を償うためにも・・・・そして何より、彼女が大事だから。

(彼女を、まもらなくては・・・)

 身体が蒼く燃え上がる。

 すべての封印の鎖が解けたことにより、先ほどまで紅く染まっていた瞳が彼本来の色である深蒼に変化する。

 髪の色も深闇の黒から宇宙の藍へ・・・そして蒼へと燃え上がる。

(彼女を、大切な人すべてを、守らなくては、ならない)

 光が、どんどん増してゆく。

 自分でも押さえられないほどに溢れ返る光。身体の奥に自分が施していた枷が外れ、蒼い炎が辺りを照らし焼き尽くす。

 蒼き劫火は一瞬にして空間にある悪意の嵐を薙ぎ払った。

(私が、守らなくてはならない)

 それは良弘の本当の目覚めだった。




 柏原はにやりと顔を歪め、凍り付いている3人に手を差し出した。

「いつまでもここに居た所でどうにもなりませんよ。屋敷へ、帰・・・・・」

 言葉は最後まで紡がれなかった。

 不自然に言葉が途切れたことを不思議に思った3人の視線が柏原に集中する。

 見ると、優勢に立っていたはずの柏原は顔を奇妙に引きつらせ、自分たちに伸ばしていたはずの手で自らの喉を掻き毟っていた。

「何故・・・な・・・だ」

 柏原が意味のある言葉を紡いだのはそれが最後だった。

 彼の身体はぐらりと揺らぎ、不自然に捩れながら大地に転がった。

 口からは絶え間なく奇声が発せられ、驚愕しながら白目を剥く様はこれがつい先ほどまで勝利の笑みを浮かべていたのとは同一人物だとわからないぐらい引きつっていた。

「ぐがあぁあぁぁぁぁぁっ!!」

 柏原の口から異臭を放つ液体が零れ落ちる。

 それと同時に地面を這いずる柏原の身体が蒼い光に包まれ始める。

「真帆ちゃん、今のうちに行こう」

 真帆が乗る電車の時間は刻一刻と近づいてきている。

 あまりのことに動揺している真帆の肩を抱いて、浩一郎は強い視線で彼女に促す。

 真帆は、柏原と焔・・・そして最後に目の前の青年へと視線を向けると、強く頷いた。

 そうだ、自分がすべきことはここから逃げることだ。今度こそ足手まといにならないように、判断を誤るわけにはいかない。

 真帆は最後にもう一度だけ焔に視線を向けた。彼女は一度だけ真帆の方を見ると深く首肯する。

 それが別れの挨拶だった。

「解かりました、行きます」

 言葉が終わらないうちに浩一郎は彼女を連れて一番人の少ない遊歩道に向かって駆け出した。

 焔は3人が走り去るのを視界の隅で確認しながら、見苦しく身悶えつづけている柏原の元へと近づいた。夕闇が近づく世界の中で彼を包む真っ青な光は煌煌と周囲を照らしつづける。

 彼女は柏原の身体を足で仰向けに転がすと、苦しみもがいているその胸元をがんっと踏みつけた

「・・・苦しいだろ・・・さっさと良弘を返せば、その苦しみから逃れられるぜ?」

 彼女の瞳と髪がその怒りを反映するかのように紅く燃え上がる。踏みつけている足の下から、柏原の皮膚が焼ける匂いがした。

「がああぁっ!がぐあぁっ!!」

 苦しみもがく声は更に大きくなる。焔の声も、もはや柏原には届いていないだろう。

 良弘の魂は、柏原の魂になど引き入れられる事無く食い破った。柏原の肉体は許容量を越える炎の能力に耐え切れず、内側から焼け爛れてゆく。

 これが分相応な能力を望んだ者の末路・・・あまりにも滑稽だった。

良弘、食べ返しちゃうぞ。の巻。「食べ返しちゃう」→「焼き尽くしちゃう」でもOKかも。

やっと無敵の青炎が引籠もりを止めてくれました。ある意味、主人公復活です。

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