第69話:良弘−偽りの記憶
無数の叫び声があたり一面を満たしていた。つんざめく悲鳴が何かを訴えていた。
声はやがて自分を呼ぶ声へと変じていく。
『・・・・目覚め、させなさい』
それとは別に自分の声が何かを訴えている。
目覚めさせる・・・そう能力を目覚めさせなければ。
そのための自分の能力への呼びかけは先ほどから何度も行っている
『き・・・目覚め、させなさい』
自分の耳に微かに違う言葉が届いた。
目覚めさせるべきは違うものだ・・・そうその声は告げている。
頭に警鐘がなる・・・自ら放棄した何かが目覚めようとしている
『記憶を、目覚め、させなさい』
(記憶・・・・?)
やっと明確に聞き取れた言葉に彼は驚愕した。
・・・・そうだ、目覚めさせなくてはいけいないのは記憶、だ。
あの時の、あの十五歳のときの悪夢を、自分が封じてしまった過去を。
(・・・・そうだったんですね・・・・)
自分が認めたことにより記憶は一気に彼の頭の中に噴出してきた。
偽りの過去・・・愚かな自分・・・良弘は力任せに自らを包む壁を叩いた。びくともしないそれを何度も何度も自らの憤りに任せて殴りつづける。
何度も殴りつづけることにより壁には無数の亀裂が走る。ミシッミシッという何かが軋む音があたりに響いていた。
良弘は自らの内にある蒼い炎の存在を認識すると、それを拳に乗せるようにして留めの一撃を加えた。
パリーン・・・・・・・・
ガラスの砕けるような高く澄んだ音があたりに響いた。
無残にも砕け散った壁が四方に霧散する。
外は荒れ狂う悪意の渦に包まれていた。
淀んだ気配は泥水のように彼の全身に纏わりつき、行く手を遮ろうとする。夢の中で見た触手が再び彼を拘束し様とした。
自らを掴もうとする触手を久々に扱う炎で焼き落としながら、彼は悪意の渦の中へと身を投じた。
どれほどの悪意があろうとも、それに負けることはできない。
自分の記憶と共に封じてあった炎を再び手にすることを、どんな敵をもこれで焼き払うことを自分は心に決めたのだ。
良弘は目を閉じると自らの内で多大に育っていく炎の力へと呼びかける。
(炎を開放します・・・すべてを薙ぎ払う力を得る為に)
暗く、激しい嵐の中で良弘の魂はこれまでになく蒼く輝き始めた。本当の力の解放が間近に迫っていた。
「・・・・・?」
宣戦布告を終えた浩一郎の視線を浴びながら、魂珠は急激に変化をし始めた。
柏原も彼の視線に気付き、自らの掌で大人しくしているはずの良弘の魂珠へと視線を移す。
「なんだ・・・・これは」
柏原にとってもそれは予測外の出来事だった。
青色の魂珠は色と光、そして容積がどんどんと増し始めていた。その突然の異変に柏原は動揺を隠すことが出来ない。
彼の動揺を察知したかのように、蒼い魂珠は光を強めた。
今までの数倍、いや数十倍にも匹敵する光が発せられ、世界を蒼く染め上げた。
「良弘っ!」
目の前の現実に正気を取り戻した焔が大きな声で名前を呼んだ。
その声に答えるように魂珠は光を増す。焔はそれを確認するともっと近くに・・・と浩一郎を押しのけて前に進み出る。
「良弘っ!」「良弘さんっ!!」
焔に習って浩一郎と真帆もその名前を呼んだ。
「良弘!良弘っ!!良弘っ!!!」
焔は何度も繰り返して大事な名前を呼び続けた。形勢逆転したように柏原は焔が近づくと一歩、また一歩と後じさり始めた。
光は猛烈な勢いで力を増した。照射される光には多くの熱が込められている。まるですべてを焼き尽くさんばかりに・・・・どんどん成長していく。
「真帆ちゃん、もう少し下がっていた方がいい」
いつの間にか真帆の横へと移動してきた浩一郎は静かにそう述べた。見るとその顔には大量の汗が吹き出ていた。
自分を見ると、熱にはやられていないものの、自らの炎が萎縮しているのが理解った。
良弘、若年性健忘症になる?の巻。記憶を完璧に封印するってことはそういうことですよね?
だんだん、良弘が目覚めてきています。さすが主人公筆頭です。やることがだんだん派手になってきています。あともうちょっとで完全復活。
そして物語は100話を越える勢いでどんどん長引いてきてます。