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第66話:魂の存在意義

 真帆の問いの答えを確認するように4対の瞳が柏原に向けられた。

 子供たちの様子に彼は首を竦めるだけの仕草で答える。

「いいえ、あれは荒井様に取られましたよ・・・本当は私が食したかったのですが」

 実に残念そうに柏原は言葉を切ると、自分の手の内にある蒼い魂珠を自分の口元に寄せた。

「代わりに前当主あのかたの息子の魂を私が貰いますよ。これで平等になるはずです・・・いや、この魂の方が出来がいいから・・・私のほうが少しお得になるかな?」

「き・・・さまっ!」

 焔の中の感情がいつ暴発してもおかしくないほど怒りに膨れ上がっていた。ぎりりっと歯が軋むほど悔しさをかみ締める。

 らずっと笑いつづけている柏原に向かい、焔は一歩、また一歩とにじり寄っていく。

 スピードでは負けていることは先ほどの格闘で理解わかった。

 だが本気での能力の強さでは彼など焔の足元にも及ばないはずだ。ならば近距離で一気に力を解放してやれば、殺害することは可能だ。

「止まってください、焔さま。何かを仕掛けた瞬間、この魂珠たまを砕きますよ」

 仕掛けようとしていた焔の足がぴたりと止まった。しかし彼女はすぐに苦々しげに顔を上げて、目の前の人物を牽制した。

「壊さなくても、喰う気だろ」

 どこか辛そうに顔をゆがめる焔の姿に柏原は歪んだ快楽を感じた。

 これほどまでに楽しい時間を過ごしたことなど、生まれてから一度も無かった。

 自分の一言一言に彼らは反応し、困惑し、傷ついていく。

 もっと悲しみに歪んだ顔が見たい。

 この目の前の美しい人間が傷つき崩れていく様を、ずっとずっと眺めていたい。

「それは、もちろん食べさせていただきますよ。でも『壊す』のと『食す』では全く意味が違うでしょう?

 壊せば、この魂は風に消え転生すらえきなくなる。だが食された魂は私の魂の中で生き続け、やがて死とともに空へ帰ることができる。もちろん、転生だって可能です」

 柏原の言葉は魂のみの存在である焔に取り十分な枷となった。

 良弘の魂が亡くなる・・・転生すら叶わない。二度とその魂に触れることも、優しく慰められることも出来なくなってしまう。それは彼女が何よりも恐れていることだった。

「それって、良弘としての転生じゃないだろ」

 固まってしまった焔の後ろから浩一郎が静かに反論した。

 食べられ融合されてしまった後にその魂が原型を留めている筈は無い。彼のいう生き残るというのは、食した生物が自分の中で生き続けているという欺瞞的な発言だ。

「さて、それはどうでしょうか・・・」

 柏原は曖昧な言葉で浩一郎の追及をかわすと、まだ微動だにできない焔をその視線で捉える。言葉という鎖で雁字搦めにされた焔に最後の鉄槌を下すために。

「おいしそうですね・・・・本当に極上の獲物だ」

 それが良弘の魂に対しての言葉なのか、目の前の焔の魂に対しての言葉なのか判断は付かない。

 焔は柏原が喋っている間もずぅっと珠を凝視していた。

 蒼い、蒼い珠・・・良弘の魂が柏原の薄く開いた口に近づいていくのも、ただ呆然と見ていた。禍禍しい笑みが、柏原の言葉の罠にかかった焔に注がれている。

「や・・だ・・・・」

「やめてぇっ!」

 泣きそうになりながら上げた焔の声に真帆の悲鳴が重なる。

 目の前で起ころうとしている悲劇に真帆の身体は震えていた。止めも無い大量の涙が、頬を濡らしていた。

「お願い、止めて!良弘さんを殺さないで・・・・私、家に帰るから・・・良弘さんを返して」

 伸ばされた手、少女は縋るように冷酷な男に懇願する。

 自分たち姉妹から立ち向かう勇気を剥ぎ取り、拭い去れない恐怖を与えた男に上擦る声で頼み込んだ。耐え切れないほどの恐怖に怯えた顔は、唇を紫色に変色させていた。

「真帆様が桧原に帰るなど当然のことでしょう。まだまだして頂かなければならないことは山積していますからね」

 柏原は良弘の魂珠に唇をつけた状態で、冷たく言い放ったのだった。

魂喰いの独演会・・・の巻。ほとんど現在彼を中心に話が回っています。

百戦錬磨の人外生物に対して桧原三姉妹は太刀打ちできないようです。

唯一の対抗馬である浩一郎も攻めあぐねているようです。

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