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第56話:前に進むために

 浩一郎の計画は確かに理に叶っていて、立派なものに見える。

 しかし大事な一つが・・・一番大切な一つが忘れられている。

 焔はその事実に、少し身体を震わせた。

「香帆ちゃんを連れ出すのは、すまないが焔がやってくれ・・・・それから良弘の荷物もできるならうちに持ってきて欲しい。俺の家の者が決行日の朝、手分けしてロッカーに入れてくれるはずだから」

 此処に至り、浩一郎が立てたすべての計画の全貌が明らかにされた。

 しかしその計画は焔の予測どおりに、一番重要で大切な『存在よしひろ』が取り戻す要素が全く含まれていなかい。

 彼女は下唇を噛むと、責めるように浩一郎へと視線を向けた。

「良弘は、どうするつもりだ?」

 唸るような声で問いただしてきた彼女に、浩一郎は心底傷ついた顔をした。額に指を当て、ふぅっと息を吐くと心外そうな態度で焔に向き直る。

「あのなぁ・・・俺が、『良弘あいつ』のこと忘れると思うのかよ。

 俺が今話しているのは『真帆ちゃんを駆け落ちさせる計画』。良弘の救出は二人を東京駅にいる真帆ちゃんの恋人の元に送り届けてからやるんだ。

 まだ敵は尻尾もつかませてくれないが、正体を暴くための仕掛けはすでに松前の名前を使っていくつかしかけてある。無事に出立したら俺の命令でそのすべてを作動することになっている。そして、やつらが少しでも動きを見せたら、そこから俺たちで一気に叩き潰せばいい」

 真帆を送り出す計画と違い、こちらのほうはまだ不確定な項目が多い作戦だ。行うにあたり、一人一人の受け持つ危険は先の作戦よりも増大する。余程の覚悟をもって取り掛からなければならない。

「俺、たち?」

「そう、俺と焔」

 呆然と呟く焔に、浩一郎は自信たっぷりに笑ってみせた。

 すべてを迅速に行うことは必須条件だ。つまりいろんな意味で不必要な駒だって出てくる。今のところ、その最たるものが真帆と香帆であたる。

 だからこそ浩一郎は彼女たちを先に旅立たせ、少数精鋭で敵に臨む作戦を選択した。

「真帆ちゃんも納得してくれている。救出は焔の能力ちからと俺の財力ちからに任せて自分は『逃げる』ことに集中してくれるそうだ」

 そうしてくれれば、焔が真帆や香帆を守る分の力が分散されなくて済む。真帆もそう考えたのか申し出の意味をしっかりと理解してくれた。


 自分がこの東京に居つづける限り、焔たちが行動しにくいという事実を・・・


 だからこそ、彼女はごねもせず、浩一郎の二つ目の計画にも乗ってきた。その上で、『良弘さんと焔のことをよろしくお願いします』と頭まで下げたのだ。

「浩一郎も、一緒に行けばいいのに」

 ぽそりと呟かれた焔の言葉に浩一郎は思い切り眉根を寄せた。

 また彼女はそうやって自分だけが傷つこうとする。目の前にある必要なてを拒絶しようとする。それが浩一郎には何よりも悲しかった。

「それで、焔はまた一人で戦う?そんなこと、俺がさせると思う?」

 血を吐くように告げられる言葉に、焔はしゅんっと肩を落として「ごめん」と謝った。目線だけが少し上にある浩一郎の様子を子犬のようにうかがっている。

 すぐに反省した焔の頭を、浩一郎は「よく理解できました」とばかりに撫でてくれる。今はその手の大きさだけでも信用しようかと思う。

「とにかく、手をこまねいていてもやれることなんて少ししかない。たまには成功だけを信じて、前に突き進もう」

 浩一郎はすべての話を締め括るようにそう宣言した。

 良弘は二人にとってかけがえの無い大切なもの。だからこそ、絶対に取り戻さなければならない。とにかく前進するのみ・・・躊躇ちゅうちょしている時間なんてないのだ。

「わかった、お前の計画にかけてみるよ」

 二人は顔を見あわせると、互いの強い意志を確認しあった。

 迷いの無い視線が二人の間を交差した。

「後、もう少ししたら真帆ちゃんも来る予定だ。一緒に待つだろう?」

「もちろん、だ」

 ここ数日見せなかった明るい笑顔がまだ見ぬ二人の未来を包んでいた。

焔、計画をおしえられるの巻。前に書いた時は計画の立案者だった真帆がただの協力者になってしまいました。

これにて焔と浩一郎のコンビ復活です。

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