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第54話:傍に居ること

 目が覚めると見知らぬ部屋だった。

 品のいい調度品に囲まれた天蓋つきの柔らかいベッド・・・常に清潔にされているだろうそれに焔は一人で寝かされていた。

(ここは・・・・?)

 ぼんやりとする頭で広々とした部屋を見回してみても何処にも人影はない。もっとしっかり確認するために彼女はゆっくりと身を起こした。

 身体が石の様に重い。ひどく眩暈がする。

 その忌々しさに焔は小さく舌打ちする。

 こんなことで音を上げたくはないけれど、極限の緊張は確実に身体全体を疲労させていた。

「まったく・・・いったい、どうして・・・」

 倒れる前の記憶では、浩一郎は普通の表情に戻っていた。いったいどうしてそのような僥倖に恵まれたのだろう。

「浩一郎・・・無事なんだよ、な?」

「心配した?」

 突然、掛けられた声に焔は驚きの余り口をぱくぱくさせ、突然現れた彼を指差した。どうやら彼は天蓋の柱で見えない位置で焔の様子を窺っていたようだった。

「どどどどど・ど・どうしてっ!?」

「どうしてって、ここ俺の私邸だし・・・」

 面白い具合にどもっている焔に浩一郎は事も無げにここがどこであるのか答えた。

「大変だったんだぜ。お前は何の説明もせずに意識失っちまうし、俺はどうしてあんな人目につかない場所で二人っきりになっているのか記憶ないし・・・・変身が取れてる焔を保健室にも教室にも連れてくことなんてできないから、迎えに来てた俺の車まで抱えていったんだ」

 卒業式も終わり、すでに学校の傍まで迎えに来ていた車まで焔を抱きかかえて運び込んだ。

 自分の主が連れてきた赤い髪を持つ小さな『少年ほむら』に香原は驚きはしたが、下手に質問をしてくることはなかった。

 浩一郎は彼に焔のことを頼むと、教室まで取って返して自分と良弘の荷物を持ち、卒業式の余韻に浸っている級友たちにお座成りの挨拶をしてさっさと教室から退散した。

「こんな状態じゃ桧原あのいえにも戻せないから、近場にあった俺の私邸に運んだんだ」

 のほほんと状況を説明する浩一郎に焔はわなわなと肩を震わせた。

「なにが、大変だった、だっ!」

 爆竹を破裂させたように耳をつんざめく甲高い声で焔は浩一郎を怒鳴りつけた。

「大変だったのはこっちのほうだっ!お前は操られてたんだぞっ!!運がよくて意識不明、悪かったら死んでた可能性だってあるんだぞっ!」

 心配したのも、大変だったのも、辛くて、泣きたかったのも自分のほうだ。

 焔がどれほど絶望の淵に落とされながら、あの『浩一郎』と対峙していたのか知らず、よくものうのうと言葉が継げるものだ。

「でも、無事だった」

 自分が危険な状態にあったことは身体に残る類を見ないほどの疲労感により少なからず解かっていた。

 だが自分の命に危険が降りかかっていたことを用意に認めることはできない。そんなものを認めれば、焔は更にかたくなに自分が傍にいることを拒否してしまうだろうから。

「俺は、絶望したんだ」

 顔をくしゃくしゃにして涙を必死にこらえながら焔は嗚咽交じりの声をあげる。

 浩一郎は彼女の形のいい頬に手を添えて、目元の涙を拭ってやった。

「危険なんだ・・・本当に・・・・危険だから・・・」

 泣きながら必死で続ける言葉をどう止めようかと、浩一郎は必死に考える。

 いっそ抱きしめて唇を塞いでやれば、続きを聞かなくてもいいだろうか・・・・と。拒絶する言葉も態度もあまり喰らいたくはない。

 しかし、浩一郎の考えとは違い、焔は縋るように自分の頬を優しく包む彼の腕を握った。

「危険だから・・・・俺の傍にいろっ!二度とこんなことが起こらないように俺が守ってやる」

 随分とおとこらしい宣言に浩一郎は目を丸くした。自分が今、耳にした言葉が彼女の口から出たとは到底信じがたかった。自分の都合のいい夢を見ているのだろうか。

「傍に居ても、いいの?」

喘ぐように疑問を返すと、彼女はこくんと頷いて浩一郎の身体を引き寄せてその厚く広い胸に顔を埋めた。止まらなくなった涙を彼に見せないようにしっかりと焔は浩一郎の身体に抱きつく。

「傍にいないと、守れない・・・」

 真帆の発したあの言葉が今更ながらに重く感じた。先ほどまでの絶望と今の安堵・・・これだけ傍にいれば、自分のオーラで守ることも出来るという事実。

『私のように間違えてはだめよ』

(ああ、間違えない・・・・守るために、傍にいるっ!!)

 ぎゅうぎゅうと浩一郎の胴体を抱きしめながら焔は傍に居る意味を実感していた。

焔・浩一郎、らぶらぶパワー全開の巻・・・・って書くとすごく薄ら寒いです。でも白石が書くらぶらぶってこれが限界ですから・・・。良弘が復活したらいちゃつくこともできないですし、今だけの幸せを感受している二人でした。

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