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第52話:新たなる異変

 焔の表情が少し歪んだのを見て、『浩一郎』はゆっくりと顔を上げた。

「判っておるぞ・・・そなたが『桧原良弘』ではないことを」

 どこか酩酊したような表情・・・しかしその視線はどこか怜悧で焔を深く傷つけようとしている。

「判って居るぞ・・・その魂の色を」

 焔の沈黙を肯定と取ったのか声は畳み掛けるように更に問い詰めてくる。

 あくまでも『焔』自身の口から『自分』が『良弘』ではないと認めさせようとする。

 焔はただ黙って相手の出方を見守った。

 今は浩一郎の身体と心が人質になっている状況だ。下手に相手を刺激し、そのどちらかを傷つけられでもしたら目も当てられない。

 どうすれば浩一郎の呪縛を解く事ができるのか、必死に考える。

 だがいくら思考を巡らそうと、彼の魂を傷つけずに開放させる方法など見つからない。

「その身体の持ち主でもないのに、肉体を支配し、凄まじい炎を扱う、お前は誰だ?」

 下から見上げてくる浩一郎の瞳はひどく淀んでいる。いつもの明るい、どことなく人を食ったような瞳とは全く違う。

『間違えてはだめよ・・・』

 こんな時に真帆の言葉が頭をよぎった。

 その言葉に胸の奥がちりちりと痛くなる。こうなることを恐れて彼を自分たちの傍から遠ざけたのに、更に酷い危険に彼を晒してしまっている。

『間違えては・・・』

(わかってるっ!)

 頭の中で繰り返される真帆の言葉に癇癪を起こしつつ、焔は悔しさに拳を握った。

 かつて真帆もこんな酷い絶望を味わったのだろうか。 

焔は一旦、目を閉じ小さく深呼吸をした。そしてゆっくり目を開くと、目の前の淀んだ瞳を鋭い眼光で睨みつけた。

「貴方こそ、誰です・・・?浩一郎ではありませんね」

 ようやく口を開いた焔に目の前の人物は口を歪めるだけの笑みを作る。

「あれに・聴いてきたが・・・本当に面白い状態だ。3つ巴か?・・・・くくく・・・楽しい時に我は開放されたものだ・・・それにこの身体は面白い立場の人物のようだ」

 自分よりも高い位置にある『良弘ほむら』の顎を掴み、『浩一郎なぞのおとこ』は自分の方へと顔を向けさせた。

「『良弘きみたち』の大事な人の身体は暫く使わせてもらうよ・・・これは君が正体を明かさない罰だ」

 焔は顎に添えられた手を即座に叩き落とした。痛感もないのか、浩一郎は顔色一つ変えずにまだにやにやし続けている。

「桧原家の人間ですか・・・それなら、何故私にこんな事をするのですか?能力のない子供など必要ないと見限ったのはそちらでしょう」

 強い口調で批難をした焔に彼は少し首を傾げたが、暫く後、「ああ」と短く声をあげた。

「それは桧原良弘に対しての評価だろう・・・それにそれは我が下した判断ではない。

 まあ、あっちの男は『良弘あれ』の魂珠を手に入れ、判断を間違えていたことを認識したようだ」

 『あっちの男』・・・『あれ』・・・・そして、目の前の男。

 自分たちに何かをしようとしている人物が多すぎる。

 せめて目の前の邪悪な者だけでもどうにかしなくてはならない。

 少なくとも『あっちの男』と呼ばれた人物が良弘の魂を浚い、『あれ』と呼ばれる人物は、こんなにも邪悪なものを自分たちに仕掛けてきた。


 そして目の前の男はそれすらも利用して何かを得ようとしているようだった。


「私が・・・『良弘わたし』である以上、私の話でしょう」

 声が震えないのが不思議なくらいだった。怒りと絶望がない交ぜになって、表面上の平静さだけを保っている。

「ほぉ・・・中々上手い言い回しじゃな・・・」

 浩一郎の肉体を有するそれは焔との間合いを詰める。焔はそれを厭い一歩後ずさる。

「それでは、そろそろ・・・・」

 『浩一郎おとこ』が何かを言おうとした所で、不意に言葉が途切れた。

浩一郎、操り人形になるの巻。焔、大ショックを受けています。

マリオネット・浩一郎の口調はあまり定めていません。ちなみに『あれ』はもう一人の男で、『あの男』は良弘の魂珠にキスしていた変態のことです。

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