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第51話:操られた浩一郎

 あの日から数日、互いに何の対処も出来ないまま焔たちは卒業式の日を迎えた。



 焔はその日も黙ってただ外を見ていた。

 教室に視線を移せば、こちらをじっと見ている浩一郎と視線が合ってしまうからだ。

 あれ以来、浩一郎は余り周りとも喋らなくなった。いつも無駄に口数の多い彼からは想像できない風体だ。

 そのせいで彼が普段隠している精悍さや攻撃性が表立って出てきてしまっている。

 教室にいる『良弘』の友人からは何度も『浩一郎と仲直りしてくれよ』と頼まれた。

 しかし一度張った意地は中々取り消すことなど出来ない。

 焔だって苦しいのだ。苦しくて苦しくて、すぐに視線を外してしまう自分に焔は舌打ちした。

(俺は、道を選んだんだ・・・それを勝手に切り替えていいのか?)

 自分を叱咤するように自問自答を繰り返す。

 その脳裏に真帆の『焔は、間違えてはいけないわ』という言葉が自分を責めるように響いている。

(どうすりゃいいんだよ・・・・)

 きちんとセットした前髪をかき乱しながら悩む良弘の姿は他のクラスメイト達の目を引く。

 普段の彼とは違いすぎる行動が最近は目立ちすぎていた。

「俺って・・・馬鹿みたいだ」

 ぽそりと呟いた言葉を聞きとがめた級友の一人が不思議そうに良弘に話し掛けてきた。

「桧原・・・お前、本当に大丈夫か?」

 とうとう見るに見かねたクラスメイトの一人が彼に心配そうに近づいてきた。

「卒業式が無事終わり、ほっとしているだけですよ」

 とっさに良弘の口調を真似てにっこり笑いながら答える。しかしそれは更に日頃の良弘らしくなくて、相手は眉を顰めた。

「お前、本当にちょっとおか・・・・」

「良弘」

 浩一郎の声がクラスメイトの声を遮った。

 何事かと振り返ったクラスメイトに浩一郎は一睨みしてこちらへと近づいてくる。

「ちょっといいか、大事な用があるんだ」

 会話を止められたクラスメイトはどこか非難めいた視線を残して、友達の輪の法へと戻っていく。

「どうか、しましたか?」

 見上げた瞳に映る浩一郎の顔がいつもと違って見えた。

 機械の冷たさすら思い起こさせるような全く動きのない表情。こんな彼の表情かおは初めて見る。

 浩一郎は無言のまま、常日頃の彼とは異なる仕草で焔の二の腕を掴み引っ張った。かなり力を篭めているのか、掴まれている部位が痛みを歌える。

「いったい、どうしたんですか?」

 再度の焔の問い掛けにも浩一郎は眉一つ動かさない。ただ自分の腕を引っ張るのみだ。

 彼女はふぅっと一息吐くと諦めたように立ち上がった。

「わかりました、場所を移動しましょう」

 浩一郎は立ち上がった焔の腕をそのまま引っ張り、そのまま教室を出て行った。




 体育倉庫の裏の雑木林にはいつもの通りまったく人影がなかった。

 共学の学校ならば卒業式が終わった後、こういう場所で大告白タイムとなるのかもしれないが、男子校ではそんな光景は見当たらない。

 浩一郎は適当な場所を見つけると、急に立ち止まった。

 教室で腕をつかまれた時からの感じた不信感が、今、完璧な形で焔の目の前に立っていた。

「どうしました?」

 あくまで良弘の真似を崩さずに焔は浩一郎に笑いかけた。だが表情とは裏腹に攻撃できる態勢だけはきちんと作っておく。

 目の前の浩一郎は焔の声を聴きながら、薄く笑っていた。だがその瞳はどこか虚ろで、何かが欠けているようにも見えた。

 それに、先ほどから微妙にだが彼の中から彼以外の人物の気配が流出している。

 後藤田みたいにぺとりとつけられたのではない、内側からの気配だ。

「その猿芝居、やめたらどうだ?」

 浩一郎の低い声が硬く響いた。

 いつも優しく自分を心配してくれるそれとは全く違う冷たく硬い声。

 それが悲しくて・・・・悔しくて、焔は小さく下唇を噛んだ。

浩一郎、はじめての失態・・・の巻。別名:大ぽかするの巻・・・かも。

何気に浩一郎が乗っ取られています。真帆の不安が的中です。

先に浩一郎達の方が卒業するのは、彼らが通う高校が公立だからです。真帆ちゃんが通う高校は幼稚舎〜大学部まで要する私立学校なので卒業式は少し遅めです。

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