表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/104

第50話:もう一人の男

 暗い部屋の中で『男』は精神統一をしていた。

 見えてくるのは年若き当主の姿・・・そしてその妹、電話という回線を通して垣間見えた松前の後継者の姿。

 他にも見るべき人々の姿をすべて確認してから彼はゆっくりと瞼をあけた。

 年老いた双眸には常人よりもずっと強い光を称えて暗い虚空をじっくりと睨みつけていた。

(『あやつ』の思い通りに事を進ませるわけには行かぬな)

 すでに『彼』のことについては他からも2件ほど頼まれている。

 もちろん、彼自身、頼まれていなくてもどうにかするつもりではあった。

 あの男との間でどちらにも付かずに振れていた後藤田はついに桧原への出入りが禁止された。理由としては当主の機嫌を著しく壊したからとなっていたが性格には『あの男』が用済みとして棄てたからだと評判になっている。

(あれでも適当に飼っておけば使えたかもしれぬのに)

 そう思いながらも、彼自身、あの男を自分の方に引き入れることはしない。あんな男に構っていられるほど暢気に構えていることなどできない状況だ。

 切り札は依然として『あの男』に握られている。

 あの蒼い蒼い珠。あの輝きをあの男に奪われたままにはしておけない。

(それに・・・・松前の坊主のことがある)

 焔が浩一郎を遠ざけたことを『彼奴』は心底喜んでいることだろう。

 『あいつ』は昔から『松前家』の人間が苦手だった。現当主しかり、次期当主しかり・・・あの食えない人間たちがどのように動くのか、どうしてそう動くのか判っていないのだ。

 直接、浩一郎の方から真帆に働きかけて関係をもう一度繋げた事をも『あれ』は理解できない。

 金銭的にも、権力的にも、何もメリットを生まない行動を『彼』は否定しているからだ。

(それでも、『炎の子供』が承諾しないことには彼らの行動は意味を為さぬだろう)

 真帆と浩一郎は真にあの『子供』を理解していない。

 あれはずぅっと何にも晒されず、成長せずにいた魂だ。小難しいことを言って精神年齢が高いように見せているが、実際、『あの子』の精神年齢は非常に低い。


 だからこそ、泣き喚いて・・・手を離してしまうのだ。

 道を一つしか見つけられずに泣いてしまうのだ。


桧原この家に対して、利益になることとは・・・)

 そこでいつも思考が止まる。

 いったい『桧原この家』とはどこまでを指していえばいいのだろうか。

 当主一家?・・・・長老・・・・?それともその他すべての血に繋がるもの?

 当主を優先させれば長老と血に繋がるものは疲弊し、血に繋がるものを優先すれば当主が不幸となる。


 もうこの家はすでに病んでいる。

 それは前の当主がこの家を棄てた時点でわかっていたことだった。


『・・・・さま。当主とはいったい何なのでしょう』

 出て行く前に自分の所へ訪れた前当主夫人の顔が今でも鮮明に思い出せる。

 そういえば彼女は『男』の持つ魂喰いという能力をどこか厭っていた。自分はその意味もわからずに「なにを聞くのだ?」と彼らに冷たい対応をした気がする。

 彼は自らの懐から袱紗を取り出すと、その中に丁寧にしまっておいた二つの紅の魂珠を取り出した。

 彼が今まで手にした中で一番美しい魂珠。だがそれを手にした時から自分は魂を食べることができなくなった。


『当主とはいったい何なのでしょう・・・』


(それは、儂が知りたいよ・・・)

 年若い、まだ未来のある当主兄妹を一族を棄ててまで救わなければならない。

 それがこの魂珠を持つ者の使命だ。

(悩む時間はないのぅ・・・少し『坊主』が危険になるかも知れぬが・・・)

 『あれ』を彼にけしかけてみる価値を自分の中で何度も計算する。

 そしてその中に多数の勝算を得た時、『彼』は連絡を取るために部屋から出た。

おじいさんの独り言・・・の巻。って記念すべき50話がこれで本当にいいんだろうか。いやカウントでの50話はこれの前に投稿した真帆が浩一郎にまで世話焼きをする話だったんですけど・・・プロローグがありますから、これが実質の50話目・・・。やっぱり問題ありですよね。

とりあえず、次話から良弘たちの学校の卒業式の当日です。話的には焔と浩一郎のみで続くと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ