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第49話:きっかけの電話

 良弘の部屋での焔との作戦会議を終えて、自室に戻った真帆はすぐに風呂に入った。恋愛を自覚し始めた焔の顔を思い出しながらの入浴はとても楽しかった。

 いつもより長い入浴を済ませて自室に戻ると同時に部屋の電話が鳴った。

 この部屋にかかってくるのは内線のみ・・・真帆は髪の毛を拭きながら受話器を取った。

「何の御用かしら?」

 いつも通りに冷たい口調で問う真帆に、機械のような侍女の声が『彼』からの電話だと告げた。

「そう、お繋ぎして」

 あくまでも素っ気無い返事に侍女は「わかりました」と答え、回線を切り替える。

『やあ、夜分遅くにご迷惑だったかな?』

 途端に響いてきた彼の声に真帆は「あらあら」と思わず、口走ってしまいそうになる。どうやらショックを受けたのは焔よりも浩一郎の方が大きかったらしい。

「いえ、先ほどまで兄の部屋で喋っていましたの・・・」

 探りを入れてみると彼にしては珍しく、少し動揺しているようだ。

「浩一郎さん、兄と何かありました?」

 水を向けると、電話の向こうの彼は困ったように笑う。

「少し、喧嘩したんだ・・・・俺が『桧原まほちゃん』に近づいているのを厭っているのかな。もう家に来るなって言われたよ」

 苦笑する声にはいつもよりも覇気がない。だが諦めてはいないようだ。そうでなければわざわざ暗号的な電話などしてこないだろう。

 つまり彼は焔に『桧原このいえに近づきすぎている』といわれて遠ざけられたのだろう。

 彼女よりも追求の仕方も話の持っていき方も格段に上手い彼が彼女から聞き出していないはずはない。

「あらあら、それで浩一郎さんは『わたし』を諦めるんですの?」

『まさか、だからこそ相談の電話をしているんだよ』

 たぶんこの電話は盗聴されているだろうから、内容は全部彼らにわからないように進めなければならない。特に『焔』の名前はこの電話の間はタブーだ。

『いくら『あいつ』に反対されても恋の炎は静まりませんよ。できるんだったら、最初にお願いしたとおりに正式に・・・結婚を前提におつきあいしたいぐらいかな』

 どうやら当初の予定通りに真帆と婚約をするつもりらしい。

 こんなこと焔に知れたら大反対されるだろうが、どんな策よりも有益だと浩一郎と真帆は判断していた。

「本来なら『あに』の承諾が必要でしょうけど、それはお二人が仲直りした後で・・・としましょう」

 これだけ釘をさしておけば盗み聞きをしている『彼ら』も婚約の話をを『よしひろ』に告げるのを遠慮してくれるだろう。

 それでも彼女の耳に入った時は適当なことを言って誤魔化すか・・・時期によっては絡め手で巻き込んでいくしかないだろう。

『それじゃ、明日からそちらの学校に迎えにお伺いしますよ。たしか風原学園の高等部でしたね』

「よくご存知ですのね。楽しみにしていますわ・・・家のものには私からその件は伝えておきます。反対するものなどいないでしょう」

 今まで良弘の部屋に赴いてという形でしかできなかった作戦会議が、浩一郎の迎えに来てくれることにより自然な形で行える。

 それに真帆の学校まで調べているとは浩一郎の情報収集には余念がない。

「それにしても、『あに』に言われてすぐに浩一郎さんは引き下がってしまったのですか?」

 最後に意趣返しのつもりで聞いてみると、彼は困ったような口調で

『いや、『虚勢を張ってみたり』、『最後は泣き落とし』までしたんですが・・・それでも駄目でしたよ』

と語った。その言葉から焔が浩一郎に対して虚勢を張り、最後には泣き落としで彼を黙らせたのだと理解できた。

「泣くまでおいつめてしまうなんて・・・『浩一郎よしひろさん』には困ったものね。ちゃんとしからなきゃ駄目かしら」

『お手柔らかに』

 含みのある言葉に、浩一郎は乾いた笑いで答えた。

 どうやら明日迎えに行ったら、一番最初に真帆から説教を喰らうみたいだ。

 それから適度に含みのない会話をしてから二人は電話を切った。真帆はもう何の音もしない受話器を見つめながら、不器用な恋人たちが元通りに仲良く出来るように願うのだった。

真帆、お節介ババァ決定の巻。とうとう浩一郎にまでお節介しています。

焔の知らないところでいろいろ二人で話を進めてくれています。

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