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第40話:捨て駒の罠

 焔が桧原邸に到着した時、真帆はまだ祈祷の真っ最中だった。

 祈祷といっても形だけのもので、唱えている真言には炎を活性化させる能力しか込められていない。どうやら祈祷を伸ばすことで彼女の到着を待っていてくれたようだ。

 祈祷室には珍しく長老達の姿が見えなかった。彼らの気配を辿ると別の一室で集まってなにやら話し合いをしているようだ。

 代わりに沢山の侍従と、あまり見覚えのない恰幅のいい男性がその場にいた。

 下座の真中に座っているところから察して、男は依頼人といった所だろう。

『待たせた、こいつか?』

 焔が問うと、真帆は答えるようにゆっくりと目を開けた。

「後藤田様、次の視点は本店よりも北東の位置・・・足立区あたりがよいと出ております」

 とうの昔に出ていた予知の結果を然も今出たかのように告げた真帆に、男はでっぷりとした身体を揺らしながら頭をさげた。

 焔は普通の人間の目に自分の姿が見えないのをいいことに、男の周りを飛び回りいろいろと観察する。

 年齢は五十後半ぐらい、どこにでもいる中年男だ。桧原の血がほんの少し入っている程度で、こいつが良弘を浚うというのは無理がある。

 真帆の気のせいなのだろうか、と思いもう一度念入りに彼を見て、ふとあることに気が付いた。

(これは・・・!)

 彼のオーラの中に、彼とは別個のオーラが紛れ込んでいる。

 よくよく見ると、それは彼が持っている炎のオーラよりもずっと強い気だった。

 間違いない。良弘のオーラだ。これを確認させるために、真帆は慌てて彼女を呼びつけたに違いない。

「他に、ご質問は?」

 無表情のまま冷たく真帆が問う。

 大体の場合、依頼人はそこで再び頭を下げ退出するのだが、彼は身を乗り出し「一つよろしいですか?」返してきた。

「真帆様、本日はこれとは別件でお伺いしたいことがあって参りました・・・お時間はよろしいでしょうか?」

 焔に観察されているとは知らず、後藤田は大きな身体を伸び上がらせて、真帆に質問する。下卑た表情が気色悪い。

「何でしょう?」

 当主とし毅然とした態度を少しも崩さず、彼女は後藤田に問い返した。

 了承を得たと判断した後藤田は、自分よりも随分と年若い少女に敬意をはらっているように装いながら、ごほんと咳払いをして質問を続ける。

「最近は良弘様のご学友の方とつきあっていらっしゃるとか」

 後藤田の切り出した話に、焔が「どういうことだ」とこちらに視線を送ってくる。彼女は平常心を保ちながら、にこやかに笑ってみせた。

「普通に、兄を交えて逢っているだけですわ」

 あくまでも兄とを交えた交流なだけで特別なものではないと強調した言葉を、彼女は後藤田に言う振りをしながら焔に告げた。

 何となく納得できてない焔の様子に、真帆はこれ以上彼が変なことを言わないようにと、

「松前様と逢うのをこれ以上はやめたほうがよいと?」

と、絶対零度の問いを返した。

 その言葉に今度は後藤田の方が慌てる。

 真帆が浩一郎と会えるのは長老会の後押しがあってこそだ。それを止めるほどの権力を彼は持ちあわせていない。下手にこのことが長老かれらの耳に入った日には間違いになく後藤田はこの屋敷への出入りを禁じられるだろう。

「滅相もございません。私もお二人がお会いになられるのは、喜ばしいと思っております。私が知りたいのは良弘様のご様子の方です」

 後藤田の質問に真帆は眉を顰めた。

 いったい目の前の男は『良弘ほむら』の何を問いたいのか?彼女には判別がつかなかった。

 質問の意図を理解できていない彼女に彼はごもごもと言葉を濁らせる。

「たとえば、ですな。人が変わられたようになった・・・とかそういうことはありませんでしょうか」

 直球で投げつけられた言葉に、真帆は心底呆れると同時に彼の役割を理解した。

 彼は浚った者がしかけた罠だ。それも出来の悪い、捨て駒的な罠である。焔も同様に思ったのか、注意を後藤田から部屋へと向けられる力がないか探るほうに切り替えている。

「別段、変化があるなどと、私は感じていませんが・・後藤田様あなたは兄の様子に何がしかの変化があったと思われるのですか?」

 妹である自分が気づかない変化をどうしてあなたなどに判別できるのだ、と言外に滲ませて真帆は目を細くした。

 機嫌の悪くなった真帆の様子に後藤田は額の汗を拭いながら「いえ、そのようなことは・・・」と言葉を淀ませた。

「ご用件はそれだけでしょうか?」

 今はこんな出来の悪い罠に構っている時ではない。多分、この謁見室を覗いているだろう『敵』に情報を与えないためにも・・・と彼女は話を打ち切った。

 だが区切りをつけようとする真帆に後藤田はなおも食い下がろうとする。

「実は・・知り合いが、良弘様にそっくりな赤い髪、赤い瞳を持つ少年を見かけたというのです。それで真帆様にお聞きしようと思いまして・・・」

 その言葉に少しだけ真帆の肩が揺れた。

真帆、秘密を守り通す。の巻。あやうく捨て駒如きのせいで浩一郎との密会が焔にばれそうになっています。

今回の話はほとんど脂ぎったおっさんvs人形の仮面を被った真帆で終わってしまいました。さっさと彼には退場してもらいたいものです。

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