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第38話:真帆からの連絡

 状況が一転もしないまま、瞬く間に二週間の時が過ぎた。

 すぐにでもアプローチがあるものだと踏んでいた焔は少なからず焦っていた。タイムリミットは刻一刻と近づいている。

 こちらから何かの行動を仕掛けようかと考えたが、敵の正体の見当もついていない状態で動くのは危険すぎると浩一郎に止められた。真帆も家から課せられた勤めを日々こなしながら、地道に相談者に探りをいれているようだ。

(なぜ行動を起こさない・・・良弘の魂さえ押えておけば真帆が逃げないと踏んでいるのか)

 確かに一理あるが、それだけではないことを焔自身気づいていた。

 良弘がさらわれたのは真帆が相談してきた後ではあるが、それ以前から自分と良弘に対して『奴』は狙いをつけていた。それゆえに良弘は悪夢を見続け、焔は偽りの声で眠りの淵から引き摺り起こされた。

(どうすれば、いいのかな・・・)

 本日、何度目かのため息が知らず知らずに口からこぼれていた。


 ・・・・・・・・・・・・どくんっ!


 突然、激しい衝撃が焔の心を貫いた。

 自分の心が揺れたのではない。回線を繋げてある真帆の意識が揺らいだのだ。いろいろな物を混ぜたような感情が、無防備なままの焔の心を駆け抜けていく。

『どうした?』

 焔は問いかけると同時に彼女の心を読んだ。

 鮮明に伝わってくるのは動揺・疑惑。真帆の心に映る見知らぬ男の顔。

(焔、来て)

 何の説明もつけずに真帆の思考は、その言葉だけに染まった。

 今までどんな情報を得てもこんな風に動揺などしたことない彼女からの至急の呼び出し。

 急いで家に帰るか?・・・いや、それではここにいることとあまり変わらない。考えあぐねて視線をあげると職員室から帰ってきたばかりの浩一郎の姿が飛び込んできた。彼は焔の異変を察知すると急いで彼女のもとに駆け寄ってくる。

 焔は指先で浩一郎に顔を近づけさせ、小声で耳打つ。

「真帆が何かを見つけたみたいだ」

「!」

 見開かれる目、鋭い光を持った視線が無表情のままの焔の顔へと注がれる。

「信憑性があるんだな」

 浩一郎の確信をもった問いに短く「ああ」と答えると焔はすぅっと視線を落とした。

「様子を見に行きたいんだが・・・」

 決断は急を要している。この一瞬の戸惑いも間違いも許されない。焔は腹をくくると目前で心配そうにしている浩一郎に再度視線を向けた。

「今から真帆あいつの様子を見に行く。肉体からだが気絶と似た状態になるから、悪いが保健室に運んでおいてくれ」

 元々良弘の身体を間借りさせて貰っているだけなのだから、彼女自身はいつだってこの身体から出て行くことが出来る。

 だが、この状況下で何も入っていない『良弘の肉体』を空にすることは危険だ。

 しかし躊躇していては折角の情報が得られなくなってしまう。


−−−−−−−−これは、勘だ。


 本来、先頭に重きを置いていた桧原の血が警告している。敵が何かを仕掛けてきたと。

「わかった、運んでおくだけでいいのか?」

 浩一郎も事の重大性を認識し、ほんの僅かの迷いも持たず、彼女の申し出を受け入れた。

「授業もないようだから、付き添っていてくれると助かる」

 この数週間、浩一郎の周りにいて気づいたのだが、彼が邪霊たちのいる場所に行くとどんなモノもすべて恐れをなして逃げ出す。それが強すぎる意志の効力なのか、何か特別な能力ちからを持っているのかは判別できない。

 だが、中身が入っていない空の肉体の傍にいてもらえば、これ以上にない護符となるだろう。

 しかしそんな事実を知らない浩一郎はその申し出に彼には珍しく本気で嬉しそうな顔をした。

「目が覚めた時に俺の顔を一番に見たいとか?」

「ばばば・・・ば・ば・ばかやろ。そんな意味じゃないっ!」

 途端、顔を真っ赤にし反論した焔に、浩一郎は「またまたぁ」と茶化してみせた。

「お前は、御札の変わりみたいなもんだっ!とにかく時間がないんだから俺は行くからなっ」

 焔はこれ以上に顔を紅くさせないうちにと良弘の体からの離脱を開始した。

 紅く変化するのを見られるとまずいので眼を瞑り、体の力を抜く。とたんにふわりと倒れこんだ良弘の体から焔はすぅっと自らの霊体を剥がした。

 倒れこもうとした良弘の身体を浩一郎の腕が抱きとめる。肉体の動きを支配する霊体がいなくなったせいか、『良弘』の肉体はただ浅い呼吸を繰り返すだけの状態になる。

 浩一郎は良弘の伊達眼鏡を外し、それを自分の胸ポケットへと避難させると抱きとめた体をゆっくりと机の上に下ろした。

 その様子を霊体のみの姿になった焔が心配そうに見ていた。

 良弘とは違う真っ赤な髪と真っ赤な瞳を持つ少女・・・先ほど、良弘の体から出るときに教室中に満ちた紅い光は集まり、凝縮し、彼女の身体を形成した。華奢な体のライン、幼さを残した顔立ち、そして何よりも印象的な真っ赤な瞳。これが炎の申し子たる彼女の姿。

 魂だけの存在となった焔は、一度浩一郎を振り返ってから、教室の外へと身を翻した。

焔と浩一郎のショートコントォの巻。真帆、待ちぼうけにさせられています。時間がないんだったらいちゃついてないでいけよ、と書きながら思っています。

まだまだ友人未満恋人未満・・・何もかもが未満な二人です。

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