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第36話:心の通話

 ただそうだとしても良弘がその力を疎んでいる事ぐらい彼らも解かっている。

「良弘さんはやっぱり『能力の危険』の方を重視するでしょうから」

 自分が傷つくのは厭わないくせに他人が傷つくのには人一倍敏感なあの兄のこと、兄弟に危険が及ぶ力を好き好んで目覚めさせようとはしないかもしれない。


 たとえ、それがこの家から開放されるための重要な鍵だとしても。


「守るため・・・と、言っても破壊を及ぼすものだからな・・・」

 人殺しのための能力・・・それは焔自身もわかっている。

 その能力ほのおの持つ危険性。どれだけ精神を鍛えようとも押さえきれるとは限らないそれが良弘の『恐れ』に直結している。

「自分の欲求のために・・・鬱憤を晴らすために使うのではなく、攻撃を返す・・・ひいては守るための、正当防衛のための手段として考えてくれればいいのに」

 真帆の究極の意見に、浩一郎もうんうんと同意している。

 焔は呆れた視線を二人に向け、

「マシンガンやミサイルを常時持っているのと同じ人間が、正当防衛も何もないだろ」

と、思わず正論を返してしまった。

 二人は「なんで?」と同時に首を傾げる。

「「持っているのは、本人の意思じゃないわ(じゃないだろ)・・・それが偶然そこにあっただけなんですもの(だから)。それって正当防衛でいいじゃない」」

「お前ら、どこかで打ち合わせしてきたのか・・・・?」

 二人の口から寸分たがわずに発せられた究極の滅茶苦茶理論に、焔は頭を抱えた。二人はにぃっこりと笑いあう。

「誉められているのかしら」

「誉められてるんでしょ」

 なんか、話がズレてからずぅっと疲れてさせられている気がする。

 焔はぱんっと机を叩くと、二人をギロリと睨みつけた。

「とにかく、この話はこれで終わり。連絡手段の方に話を戻すぞ」

 焔の一言で一瞬前までおちゃらけていた筈の二人の顔が真顔になる。

 だが浩一郎はこのふざけた会話の中でも手段を講じていたらしく「そういえば」と焔に切り出す。

「焔、お前、人の心読めるんだよな」

「あ、ああ」

 急に切り出されて焔の方が戸惑いながら、何とか肯定する。真帆も今度の彼の言葉の意図が掴めずに、じぃっと目の前の二人の会話に集中し始める。

「それって遠距離でもできるのか?」

 浩一郎の次の問いに焔たちは顔を見合わせた。ようやく彼の考えることが解かった。

 真帆が視線で「どう?」と焔に訊ねると、彼女は難しい顔をしながら「わからない」と答える。

「たぶん、照準をしっかり定めておけばなんとかなる。接触しているわけじゃないから読む相手、つまり真帆の心がずぅっと開いていることも必要になる」

「わかったわ、普段から心がけるようする」

 それは唯一示された有用な手段だった。真帆もそれしか手段がないとわかっているため、比較的安易に同意してくる。

 いつもは親しい相手にしか見せない心をどんな能力の人間がいるのかわからない中で開放すると決断をするのはかなりの恐怖があるだろう。それでも、良弘を救い出し、みんなでこの家を出ためにはそんな恐怖に慄き続けることはできない。

「それじゃ、とりあえずためしてみるか・・・今から一方的に俺が真帆にメッセージを送る。それを 聞いたらすぐに、その答えを思い浮かべてくれ」

「わかったわ。やってみましょう」

 二人は時間がない中、とりあえず近い距離での練習を始めた。

 真帆はいつも護摩壇に向かっている時と同じように芝居がかった無表情の仮面を被り、精神を集中させる。もちろん、焔に向けての心の扉だけはきっちりと開くイメージだけは忘れないようにした。

『コ・・・エルカ?キコ・エルカ?』

 最初は聞き取りにくかった声がどんどんと自分の心に響く。耳で聞き取った声ではない、どこか不思議な声だ。

 良弘と肉体を共有しているため彼と同じ声なのだと思い込んでいたが、それは見事に覆された。

 心に木霊する焔の声は普通の女の子より少しだけ音が低く、男の人の声とは違い澄んでいた。どことなく母の声に似ているかもしれない。

『聞こえるか?真帆』

 照準をしっかりと設定できたのか、普通に話すのと変わらないぐらいはっきりとした声に変化した焔の声に彼女は答えを思い浮かべる。

(大丈夫、ちゃんと聞こえるわ)

 こんなので読めるのかしら、とも思うが焔からは『きちんと読める』と心に答えが返ってくる。

『すまないが、これからこういう風に俺と繋がった状態が続くようになるけど、大丈夫か?』

(ええ、もちろん。互いにがんばりましょう)

 焔の優しい心遣いに真帆はしっかりと気持ちで返す。そのとき、すぅっと何かが離れる気配がした。見ると焔がメッセージを送る回線を切ったようだった。

 黙り込んでいた二人をずっと見守っていた浩一郎が、目を開けた二人に「大丈夫そうか?」と訊ねてきた。真帆と焔は親指を立てると

「「任せろ(て)、俺(私)は天才なんだぜ(だから)」」

と二人揃って笑って見せた。


焔と真帆の「無言・・・色●ぽい」の巻。目と目で通じあうという感じです。テレパシーですけど。

何やかんやと言いながらも、彼らの行動は浩一郎の案に従う部分が多いです。さすが頂点の男。やっと次回かその次ぐらいで第二部が終わります。やはり終わりはまだまだ見えません。

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