第35話:諸刃の剣の能力
焔は二人の会話に驚き、目を丸くして浩一郎を見やる。
そんな彼女の視線を受けて、浩一郎は居心地悪そうに自分の考えをばらした少女に文句を言う。
「真帆ちゃんは、巫女なんてしなくても十分生きていけるんじゃない?並みの企業家よりもずぅっと洞察力があるよ」
「予測を立てるよりも予見するほうが楽なんです。まあ、どちらも出来るのは親の教育と良弘さんという素晴らしい見本がいてくれたからなんですけど」
二組の鳶色の瞳が、相手の本性を探るように見つめあった。それも会話の間もずっと笑顔を崩さないのが空恐ろしい。
しかしすぐに彼女は真顔になり、すぅっと目を細めた。
「話題をそらすのは、これぐらいで。
時間がないのですから、私は私の知りたい情報を手早く手に入れたい。時間切れでお流れになるなんて認めないわ」
その言葉に観念したのか、浩一郎は焔へと視線を移動させた。その顔には「失敗しちゃった」とおどける表情が浮かんでいる。
「良弘さんは、焔よりも強い力を持っていたはず・・・それは父から聞いているわ。能力の封印を施したのは、父さんかしら」
何を考えてか話しにくそうにしている焔に対し、真帆は更に質問を重ねる。
その言葉の内容に観念したのか焔はぽつりぽつりと話し始める。
「良弘の力は、桧原家の者・・・真帆や香帆、そして俺を含めた全員が立ち向かっても相手にならないぐらい強い」
焔の告白に、真帆は息を飲んだ。確かに強いかもしれないとは思っていたが、それほどまでとは思っていなかったのだ。目の前の焔ですらきちんと生まれてきていたら歴代随一と歌われるほどの術者に・・・当主になっていただろう。
それを超越する能力・・・それはすでに神の領域ではないだろうか。
そして一つの考えに至る。何故、前当主が能力を失ったのか。そんな強大な能力を封印するのならば、いくら有数な術者といえどもただではすまないはずだ。だが命を科してまでの封印でないそれはもうすでに決壊しようとしている。
「瞳も赤かったのかなぁ・・・一応、最後にあった良弘の瞳は赤かったから・・・」
焔の言葉に浩一郎も彼が連れ去られる直前の出来事を思い出した。
結界が綻び始めたせいで露呈した紅い瞳。だが、それは良弘にはあまり似合っていなかった。焔も同じように思って、幼い頃の記憶を辿るがどうもその辺りが思い出せない。
「父さんは良弘の能力のことを『諸刃の剣』だと称していた。敵を退けるためにはまたとない能力だが一度暴走すれば、世界をも崩壊させるって」
焔たちの父・瑛一が恐れていたのはそれだった。浩一郎がごくりと唾を嚥下する。
「もちろん、俺と同じで人間なんて一瞬で消滅させることができる」
それが炎の守護をうけている真帆や香帆でも、だ。
自分と良弘がもつ能力がどれほど桁外れで、どれほど危険なものかは焔自身よくわかっている。良弘もだからこそ敬遠していた。
話を聴き終えた真帆は一つ溜息をつき、
「あの温厚だった父さんの考えそうなことね」
と結論づける。
「でも何故、焔の能力の方は封印しなかったんだ?」
当然の如く浮かんだ疑問に、真帆も
「良弘さんの方が人間が出来てるのに」
と失礼な言葉を附随させて来る。
焔は少し瞼を臥せると「俺が身体を持ってないからだ」と答えた。
「魂の器がどれだけでかくても、肉体の器が小さければそれだけで暴走の要因となる。俺も普通に生まれてたら封印の対象になってただろうな」
その時はきっと命をかけた封印になっただろう。そうならなかった事だけで生まれなかった意味はある。
「今でも暴走の可能性はあるの?」
真帆の問いに焔は大きく頭を振って否定する。
「完璧に俺が炎を出しても支障がないぐらい肉体の器は大きくなってる。魂の器の方も安定観を増しながら成長していた。今なら暴走なんて起きないって断言できる」
力強い焔の言葉に二人は安堵した。
良弘、神になる?の巻。焔の独演会ともいうかも。
今回終わり500字ぐらいを携帯で打ち込んだのでいつも以上に文のチェックが出来ていません。明日PCで見るのが少し怖いです。