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第34話:超能力の有無

 最初のうちは芝居がかった遣り取りだと安気に聞いていたが、今のは明確な脱出のためのビジョンだった。それもこの作戦で一番の危険なのは真帆と浩一郎である。

 そんな作戦を焔が許可するはずもない。

「俺をおいて、何かってに計画立ててやがるっ!」

 やっと出た非難の言葉に、真帆と浩一郎は互いに目を合わせると同時に首を傾げる。

「置いて、って・・・ずっと焔は話を聞いているじゃない」

「計画なんて、ねぇ・・・ただ状況がどうなるかシュミレーションしてただけだよね」

 今日、それもつい先ほど出会ったばかりなのに中々の息の合いようである。本当は元から知り合いだったんじゃないのかと疑いたくなるぐらいだ。

「第一、浩一郎は今日の無茶のせいであいつらに目をつけられてるんだぞっ!これからの行動は自重すべきだろうっ!!」

「別に無茶はしてないんだが・・・」

「無茶だっただろうっ!!」

 きゃんきゃんと噛み付いてくる焔に、浩一郎は憮然とした態度で答える。

(あら・・・・?)

 焔に噛みつかれながらも、のらりくらりと交わす浩一郎の瞳の奥に灯っている光を見て、真帆は何かを感じ取った。

 だが、まだそれを伝えるべきではないと、口に手を当て言葉ごと飲み込む。

(そう、なのね)

 だからこそ彼は自分には何の利益もない真帆の駆け落ちの話を聞いてくれ、いろんな裏の部分から焔を助けようとしている。

 だったら、浩一郎と互いに協力し合うのは、真帆にとり・・・そしてその他にとってもいい選択なのかもしれない。

「どちらにせよ、婚約の件はもう少し、後にしましょう。すぐにそんな運びになったら、周りの人間に疑われるわ」

 真帆はいまだ続いている焔の苦言を制するために、婚約の案を保留にする。

 浩一郎も『しかたないか』とばかりに息を吐き、「そうしておきますか」と承諾する。

 真帆の言葉の中に含まれるいろんな要素に焔がぎぃっと目じりを上げた。

「だぁかぁら、っ!!」

「焔、重大な問題が一つあるんだけど」

 息撒く焔に真帆は冷静に言葉を被せる。

 怒りの持って行き所をなくした彼女は、ぐっと言葉を飲み込むと、諦めたようにため息を吐く。

「ああ、わかってる連絡方法だろ」

 今日、この部屋に真帆が来るのですら浩一郎の機転と策略による一芝居がなければ難しかった。

 浩一郎と真帆が会った以上、今度はこの手は使えない。

 この家の人間も馬鹿ではないから今度からは彼を表からあげるだろうし、真帆と会う場合は応接室を用意するはずだ。

 第一、浩一郎を餌に使うのは今回だけにしておきたいというのが焔の意見だ。

 ただでなくても良弘の親友として目をつけられていたのに、今回の件で彼らの中での浩一郎という人物がどの位置まで上り詰めているのか、考えるだけでも恐ろしい。

 焔が考えを巡らせいると視線の先に良弘の本が目に入った。超能力を科学的に分析している学者の書いた反異能力者アンチエスパーの本で、その表紙には超能力のイメージを書いたイラストが貼り付けてあった。

「真帆、こういうのできるか?」

 焔はその本を勉強机からテーブルへと持ってくると浩一郎が広げていた書類の上へと置く。

「テレパシー?」

 焔の指がしめすイラストを見て、真帆は眉間に皺を寄せる。

 自分たち桧原の血筋が持っているのは、炎の能力・・・この本で言うなら発火能力だけで、こんなSFじみたものは持ち合わせていない。

 真帆は少しだけ考えてから、逆に焔に問い掛けた。

「この能力を焔はもってるの?」

 真帆の問いに彼女は「ああ」と即答する。

「良弘さんも、持っていたの?」

 今度の問いには焔もどう答えようかと言葉を詰まらせる。

 だが問題解決のためには情報を提供するべきと判断して「持ってる」と小さく答えた。

「それなら、答えは簡単ね。私はこの能力を持っていないわ」

 高校に入ってから、真帆は学校の図書で有用なものを読み漁り、超能力についての知識を身につけた。そんな中で知ったこの能力を、もちろん彼女は実戦で試してみた。

 未来を見るときよりももっと精神を集中させ、ただひたすら呼びかけてみたが彼女の声に答えてくる人間などいなかった。

「良弘が、能力を封じられていたからじゃないのか?」

 尋ねたのは浩一郎だった。彼の言葉に真帆は静かに視線を下に落とす。

「能力を、封じる?」

「ばか・・・・」

 失言をした浩一郎に焔は低く唸った。それが更に彼女の視線を険しくさせる。

「やっぱり、良弘さんには何か秘密があるのね?どういうことか教えてくれる?」

 小さい頃、聞かされた父の言葉・・・『炎に愛されている焔』、『すべての炎を従わせることのできる良弘』それが事実なら、彼はこんな家になんか捕まっていないはずだ。

 だが、彼の炎を見たことがある者はいなかった。唯一、香帆だけが見たみたいだが、そのときの様子を彼女は滅多に話さない。

 真帆が視線で焔を威嚇すると、彼女は恨めしげに自分の隣に座る浩一郎を睨みつける。

「全く、こんな奴、同席させるんじゃなかった」

 嘆息と共に毒づいた焔の言葉に、真帆は静かに「違うわ」と否定する。

「私が薄々そう気づいたのは、焔の行動のおかげよ?違う魂が入っていても拒否反応を示さない肉体。そして結界を張るときに見せた炎・・・それに耐えられる肉体を持っている時点で、良弘さんに何がしかの能力があるのではと感じたわ・・・

 浩一郎さんは焔がこれ以上、墓穴を掘る前に自分から落とし穴に飛び込んでくれたのよ」

 焔よりもずぅっと大人びたしっかりした口調で、真帆は浩一郎に確認の視線を送る。

 彼は「さて、どうでしょう」とばかりに小さく笑ってみせた。

焔、墓穴の大量発生。の巻・・・浩一郎は焔を墓穴の中から引っ張り出せれるのか。そして墓穴の入り口でもぐらたたきをしている真帆の手から彼女を守ることは出来るのか。・・・単なる冗談です。

腹黒い大人たちに囲まれて日々過ごしているせいか、浩一郎と真帆は始終腹の探りあいをしています。相手が自分にとり害のない相手、あるいは守ってもいい相手だと理解できるまでは浩一郎きつね真帆たぬきの化かしあいは続いていきます。


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