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第33話:策略家たちの会議

 どういうこと?と見つめてくる二つの視線に浩一郎は鞄の中からある資料を取り出した。

「前当主はこの家を出る時に、当主の役目として財産をかなりの増やしてから出て行ったようだ。それが半年は続いていることからして、予言は暫く保つようにしていったんだと思う。

 その後、資産は徐々に目減り・・・つまり予言もなくなり捜索なんかに財力をつぎ込んでいるから徐々に財力が減って、真帆ちゃんが見つかる時は破産寸前にまでなっている」

 グラフを見せながら説明をされ、二人は生徒のように真剣に聞きいる。

「つまり今度は姿を消す直前か、姿を消した後に一気に財力が落ちるように仕掛けを張ればいい」

 財力が元々ない状況なら捜索を広範囲に広げることなど出来ない。人を雇うことも情報を買うこともできない。ましてや今度の逃亡には桧原家の中に協力者はいない状況だ。

 つまり桧原がどのような窮状になろうとも情報を漏らす人間がいないのだ。

「術者は・・・どう押さえるんだ?」

 焔の問いに浩一郎は深く首肯すると、「だけどね」と切り替えした。

「術者が出てくるのは見つかった後の話だろう。なら一番最初に押さえるべきは財力の方だ」

 浩一郎はそういうと、今度は別の分厚い封筒を出してきた。

 それには先ほどよりも細かい様々な数字が書かれている。彼はその中の数枚を選ぶと再び二人の前に並べた。

「これが桧原家関連企業の決算報告書のコピー。少し無理を言って、貸付を行っている銀行やいろんな企業から借りてきた」

 自らの口から犯罪行為の事実を告げながら、浩一郎は「こことここを見て」と説明する。

「この数字から見ても解かるように、桧原家の関連企業の財力は当主失踪当初の財の半分ぐらいだ。まあ、15年をかけて潰れていった家を僅か3年でそこまで戻すんだから、真帆ちゃんの能力はすごいと思うよ」

「あまり、嬉しくないわ」

 浩一郎の賞賛に真帆は眉を顰めた。他にはどんな書類があるのだろうと見てみると、わけのわからない数字の羅列から、銀行の出納記録までありとあらゆる書類が揃えられていた。

 さらにはどうやって調べたのか、ダミー会社や資産を通り抜けさせるための会社の分の書類までもが用意されている。

 居並ぶ数字に頭が痛くなってきたのか、焔はそうそうに書類を放棄した。

「真帆、あいつらに一時的に上手くいくように行く取引を選択することはできるか?」

 浩一郎の望むビジョンを理解した焔は、真帆に問い掛けた。彼女は少し考えると難しい顔でその問いに答えた。

「そういう取引を進めることはできるわ・・・でも、仮にも経営者、気づかれないかしら?」

 逆に問い返した真帆に、浩一郎は短く「大丈夫でしょ」と答える。視線は先ほど二人が拒否した数字の羅列を睨んでいる。

「この書類を数枚見ても、彼らが経営の才を持っているとは思い難い。もし彼らにそれが備わっていたなら、当主がいない間でもここまで急激に落ちぶれることなどなかったはずだ。

 ・・・・それにしてもよくこんな張りぼての業績で銀行から融資が受けられるなぁ・・・俺だったら絶対に貸し付けないんだけど」

 彼はすべての書類から的確に今の桧原の経済状況、経営手腕などを把握して行く。

「こんな会社を潰すのに一番早い方法って知ってる?」

 書類から一端、顔を上げて二人に問いを投げた彼に彼らは首を横に符って答える。

「銀行からの融資が止まること、だよ。貸付の停止、取引の停止なんて食らったら一発で信用がなくなる。銀行は横のネットワークも強いから、情報が広まるのも一瞬だ」

 書類をテーブルに戻した浩一郎の顔には人の悪い笑みが浮かんでいた。真帆も彼の意図が読めたのか、にこぉっと笑って見せる。

「確か、松前さまは銀行家の家系だとお聞きしましたわ。日本でも有数な銀行の頭取はすべてあなたの家とのつながりがあるとも・・・」

「ええ。の殆どが銀行や証券会社、大蔵官僚などになっている家系です。父はその本家の当主なんかをしてるんです。俺も父の事業に参画をしている状況で、俺の一言ですべての銀行からこの書類みたいなものがすぐに上がってくるんです」


 うふふふふふふ・・・・くすくすくすくすくす・・・・・・


 まるでホラー映画のような不気味さを出しながら真帆と浩一郎は談笑する。その様子を焔はただ呆然と見ていた。

「もしかして、松前様に何かあったら銀行側が勝手に動くなんて事も?」

「よく、ありますね。後もう少しでこの家もその憂き目を見ていたかもしれません。俺がこの家の裏口からしか入れて貰えていないことはいろんなパーティで話題になっていましたからね」

 表面だけの空々しい会話を続けながら、彼らの笑みはどんどんと深くなる。その目元が笑っていないところは本当にホラーとしか言い様がないだろう。

「まあ、そうでしたの・・・・では、何か理由があれば銀行も動けれるんですね?」

 真帆の確信を射た問いに彼は静かに視線を動かす。

「たとえば、真帆ちゃんと俺が婚約をして・・・」

「私は駆け落ちをする訳ですから、松前様の顔に泥を塗るわけですよね」

「そして、その報復がこの家に・・・」

「ちょっと待てぇっ!」

 二人の掛け合いがあらぬ方向に進み始めたのに驚き、焔は大慌てで彼らの会話を止めた。

 二人の「あら?」「なぁに?」という嘘めいた視線に焔は口をぱくぱくと開いた。

浩一郎、真帆と漫才をするの巻。焔、置いてけぼりです。

焔と浩一郎・真帆の両名との違いは焔は一人ですべての人間を守ろうと無茶をし続けるが、彼らは必要なモノは遣い、利用しながら、守れる範囲のものを守るというところでしょう。

ただ浩一郎の場合、範囲を広めても大丈夫な立場を持っているので「すべてを守る」と明言させてもいいんですけどね。

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