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第30話:兄の部屋での邂逅

 前嶋は冷ややかに長老や控えている桧原家の住人たちを一瞥すると更に言葉を加える。

「この家の人間は世間を知らなさ過ぎる・・・付き合う範囲が狭いと自らの首をしめることになりますよ」

 挑発的な前嶋の言葉に部屋の壁際に控えていた6人の長老たちが色めき立つ。

「どういう、ことですかな?」

 その中でも比較的落ち着いていた、一番年長者の荒井が静かな声で前嶋に問い掛ける。

「良弘様のご学友の名前は、松前浩一郎。知っている方もいらっしゃると思いますが、あの松前家の嫡子です」

 その言葉を聞いて荒井を除く長老達は顔色を失った。

 問い掛けた荒井だけは、すでにそのことを知っていたかのように微塵も表情を動かさない。

 また一番の上座に鎮座する真帆もその名前を聞いても理解できなかった。どういうことなのかと、長老たちの顔を感情を押し殺した瞳で見る。

「真帆様はパーティに出られないのでご存知ないかも知れませんが、松前家と言えば銀行の中心に力を有する巨大財閥で・・・」

 くどくどと良弘の友人のことについて喋りだした前嶋に真帆はバレないようにため息をついた。

 こんな話題はほとほと聞き飽きている。しかし長老たちや控えていた桧原の人間たちは彼の話にのめりこんでいるようである。

 とくに能力ではなく財力でその地位を毟り取ったといわれる柏原かしわらは続けざまにいろいろと質問を出していた。逆に能力者たちの長ともいわれる荒井はあまり興味がないみたいだ。

「で、ですな。その浩一郎様が真帆様の美しさを聞きつけ、是非ともお目通りを願いたいと仰っているのですよ。

 これは当家の格をあげるまたとないチャンス、どうか、お会いしていただくことは出来ませんでしょうか」

 前嶋がしめくくりに発した言葉に、真帆は鋭く反応した。


 もしかして、これはまたとないチャンスではないだろうか。


 あの朝の相談事以来、彼女は良弘の部屋に通させてもらえない状態になっていた。

 それに見張りの数も少なからず増えてきている。抜け出そうと思っても、良弘の部屋に辿り付くまでに捕まってしまうだろう。

 こんな偶発的なチャンスを逃せば、次はいつ逢えるか解からないだろう。

「わかりました、お詫びもかねてお会いしましょう」

 口元が綻びそうになるのを必死に押さえて、彼女は前嶋の案に乗った。彼も真帆の素直な態度ににやりと下品な笑みを浮かべる。

「その方は何処に?」

 真帆は占いの間の隅に控えていた自分月の侍従に問い掛ける。

「良弘様のお部屋においでです。今、応接室を用意させていますが・・・」

「結構です、ただでなくとも今までの非礼のこともあります。ここで変に態度を変え、母屋に通すよりも私が出向いて謝罪し、お話をした方がよいと思います」

 真帆は静かな口調でそう告げ、ゆっくりと立ち上がった。

「兄の部屋ならば、案内はいりません」

 祈祷の席から降りた真帆は、一度振り返ると先ほどまで自分が未来を見るために使用していた護摩壇の炎を一瞥する。炎は彼女の視線に萎縮し、一瞬にして掻き消えた。

「前嶋様のお心遣いまことに感謝します」

 最後に一つだけ労いの言葉を前嶋に残し手、真帆は開かれた扉から音もなく立ち去る。彼女の後姿をその場にいた全員が頭を下げて見送った。




 真帆が良弘の部屋の前に辿り着くと、待ち構えていた数人の使用人たちが一斉に立ち上がった。彼女は彼らに無言で肯くと、重いドアの向こうにある良弘の部屋へと入る。

 彼女について数人の男たちも部屋に入ろうとしたが、無粋なことをすると眉を顰めた浩一郎の表情を見て少し怯んだ。

 真帆も彼らの行動を片手で制し、冷たく言い放つ。

「これ以上の無礼を重ねるつもりですか?多数の人間が同席することは松前様に失礼です。私の許可があるまで下がってなさい」

 真帆の言葉に、彼らは揃って心外そうな顔をした。

「しかし、真帆様」

「お黙りなさい!」

 自分の子供と同じぐらいの年齢の娘に一喝されて、彼らは渋々引き下がる。彼女は全員が外に出たのを確認すると彼らの鼻先で扉を閉めた。

 ついでにいくつかの鍵もかけて、彼らが入れないように処置をしていく。

 これで暫く安全だろう。

 昔の座敷牢を改造して作られたこの部屋は、音が洩れないように十分な防音がされている。部屋の中でどのような会話をしていようとも外に控えている召使や、これから集まるだろう親戚たちにその内容は聞き取れないはずである。

 安堵の息を吐きながら顔をあげた真帆の視界に、急遽持ち込まれたと思われるテーブルで優雅な食事を堪能している二人の男の姿が入った。

(あれ・・・・?)

 何かがおかしい、何かが間違っている。

 どこがおかしいのかと訊かれると困るのだが、彼女にとってそれは異質な光景だった。

(そうだ・・・)

 なぜ、良弘は真帆が入ってきたのに一度も振り向かないのだろう。

 いつもならば、すぐさま優しい笑顔で迎えてくれるのに。

「良弘さん・・・・?」

 本当に、この人は兄なのだろうか。彼女は恐る恐る見慣れた広い背中に問い掛けてみた。

真帆、美●憲一の真似をするの巻。おだまり、攻撃です。

とうとう30話。まだ半分まで言っていないと思うので、これで少なくとも50話は突破することが確定しました。

次回からやっと焔が復活です。

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