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第29話:真帆への進言

 浩一郎の姿が見えなくなった所で前嶋はほぅっと息を吐いた。

 自分が思った以上に緊張していたのがその時にわかる。

 出席したパーティで桧原家に『松前浩一郎』が出入りしていると聞き、慌ててやってきたが、至極正解だった。

 この家の人間は政財界の成り立ちや暗黙のルールが解かっていない。彼を敵に回すことがどれほど恐ろしいことかも、だ。

 その証拠に自分の周りにいる人間たちが揃って彼が誰であるのかを視線で訪ねている。

「いったい、あの青年がどれほどの者なんですか?」

 明らかに理解していない自分の取り巻きの言葉に、彼は冷たい視線で答える。

「彼の父親は『松前良太郎』・・・政財界にずっと君臨しつづける松前家の当主だ。そして彼はその後を継ぐことが決まっている。

 高校生という年齢ながら、彼はすでにその手腕を父親に認められており、資産の四分の一を彼が仕切っているという話まである。

 つまり、今現在、彼が政財界のナンバー2だ」

 前嶋の答えに誰もが耳を疑ったが、その真剣な顔と先ほどの態度でそれが本当だと知れると一気に顔を青くした。

 今まで自分たちがしてきた対応の一つ一つを思い返してみて、それが桧原家の命運へと響くことを考えると心臓が止まりそうなぐらいの衝撃を覚え、全身に冷や汗といやな震えが走る。

 そして今回の『偶然』がなかったらその状況がこの後も続き、そして取り返しのつかないところまで行っていただろう事に気づき、更に背筋を凍らせた。

「まったく、私がいたから彼の身分が知れてよかったのものの、もし知れずに今後もこのような対応を続けたことが先方の当主の耳に入ったら、この家など1週間もせず潰されていたぞ」

 まさに考えていたとおりの言葉を受けて、全員が前嶋に頭を下げる。

「前嶋さまのお顔の広さに感服いたします」

 感謝の言葉に彼はふんっと鼻を鳴らすと、当主に会うべく奥の間に向かった。




 真帆は白い神子の衣装で身を固め、じっと護摩壇で燃え盛る炎を見つめていた。

 彼女の目に映る炎の影は様々な未来を映し出す。

 どの選択肢をつければ、どの未来へ進むのか・・・それを読むのが神子の役目だ。

 一つの選択が、富めるもの、貧しいもの、衰えるもの、成功するものへと万華鏡のように変化を生んでゆく。

 死などの変更の利かない確定した未来以外はすべて彼女の思うままに進めることなど容易い。

「今、通っている銀行へもう一度、あなた自身で足を運んでください。銀行の支店長から更なる融資の話が出るはずです」

 炎しか移さない彼女の目は紅く輝き、後ろで紐により編み上げられた栗色の髪は先ほどから微塵も動かない。

(人形みたいな女だ)

 下座に跪いていた前嶋は心の中で彼女のことを評した。

 作り物のように綺麗な顔立ちではあるが、その顔に人間らしい表情が浮かんだことを彼は見たことがなかった。浩一郎の質問の手前、綺麗であると答えたが、正直、こういう女は苦手だ。

(それに、この女は、化け物だからな・・・)

 彼女の力はその辺のエセ預言者とは違う。彼女の告げたとおりに行動すれば未来は確実に彼女の行ったとおりに動く。

 彼自身、その恩恵を受けてはいるが、はっきり言って不気味と思っている部分が大きかった。

「その資金を元に、緑川という自分物から出ている企画の商品を開発してください」

 彼女はそこで言葉を区切り、前島の方に向き直った。

「他に、ご質問は?」

 女になりきっていない少女の顔がなぜか異常に恐ろしいモノに見える一瞬だ。

 彼は気を引き締めると彼女に一応の礼を示し、そしてゆっくりと口を開いた。

「最近、良弘様の所に彼の高校のご学友が遊びに見えられていることを知っておいででしょうか?」

 この場では滅多に出てくることのない兄の名前を出されて、彼女は少しだけ表情を動かした。

 しかしそれをすぐに隠すと、眉を少しだけ寄せて「いいえ」と短く否定した。

 周りの長老たちも何故今そんな話を出すのかと困惑した顔をしている。

「実は、先ほど偶然にも彼にお会いすることができましてな・・・・吃驚すると同時に、背筋が凍る思いをしました」

 語りだした彼の言葉に全員の視線が注がれた。

真帆の『こんなんでましたけど?』の巻・・・このねたがわかる人がどれだけいることか・・・

浩一郎の脅しは十二分に成功したようです。桧原の血が薄い前嶋にとってみると真帆は気色の悪い化け物に見えるみたいです。ある意味、このちょい役の前嶋が一番普通の人かもしれません。

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