第2話:過去の布石
良弘が冷遇される発端は19年前まで遡る。
檜原家の前当主であり優秀な神子でもあった檜原瑛一は、妻・浩美を伴い檜原家を棄てた。
余りにも突然の出奔に周りの人間は連れ戻すことも叶わず、当主を失った檜原は衰退の一途を辿った。瑛一が家を出る前に大量に蓄えておいた財もあったが、神子の宣旨に頼り切っていた彼らでは維持する事などできず、とうとう存亡の危機を迎えてしまう。
檜原の親族及び関係者はかつての栄光を取り戻すべく、血眼になり当主を捜しに専念する。だが皮肉にもその行動が財の減少に拍車をかけさせてしまい、自らの首を絞める結果となった。
しかし檜原が滅亡する直前、不運な事に当主・瑛一とその家族は彼らに見つけられてしまった。
逃亡に手を貸した親族の一人が檜原の困窮に耐えられず当主を裏切ったのだ。
彼らを捕らえるべく意気揚々と数人の術者が彼の元に向かった。
だが、彼らはすぐさま落胆した。見つけだした瑛一はすでに神子の能力も術者としての能力も全て失っていたのだ。
能力のなくなった当主とその妻を拘束した彼らは、欲望の視線を彼の子供達へと向けた。
まず、真っ先に狙われたのは長女の真帆である。
彼女はこの時すでに神子として開眼し始めており、その予知能力は近所の噂にもなっていた。能力は普通の術者よりやや劣るが、随分魅力的な存在だった。
ついで、次女の香帆。
彼女も姉には劣る物の神子としての能力を持っていた。術者としての力なら真帆よりも上だろう。
最後に長男の良弘だが・・・・彼はみるからに檜原の能力を受け継いでいなかった。当主の血の証明ともいえる赤い瞳も、炎を操る能力も、まして未来を読む能力などかけらも持っていなかった。
当主夫妻を殺害した後、逃げ出していた兄弟を彼らは次々と捕らえると、彼らは東京の屋敷へと戻った。
当初、檜原としては当主夫妻殺害の現場を唯一見ており、炎の能力を持たない良弘など殺してた方がいいという意見が一族の中に蔓延していた。
しかし、兄妹が死に至れば神子としての役割を放棄すると真帆が宣言したため、彼はそのままこの牢獄みたいな場所に入れられた。
唯一の救いは長老の一人の進言により子供達全員が学校に通えていることだけだった。
とにかく、今、真帆は良弘と香帆を盾に取られ未来を見る事を強制され、香帆は兄と姉の為に術者としての能力を磨かされ、そして良弘は真帆と香帆のために囚われ人としての生活に甘んじていた。
良弘、過去を振り返るの巻でした。
元々の内容を見ながら、今の文章に置き換える作業で書き進めています。
上手くすれば休日以外で一日一話ができそうです。