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第26話:浩一郎の作戦

 それから何事もない状態のまま、一週間が経とうとしていた。

 焔の方から真帆に向けた「会いたい」という伝言は、今のところことごとく親族・あるいは使用人たちの手で握りつぶされている。

 浩一郎も最初にたらしこんだメイド以外も誑し込み、内情を探ろうとするがすべて徒労に終わっていた。

「さすがにガードが固いようだな・・・」

 浩一郎は言葉もどこか空しい。ほぞを噛む思いというのはこういうのを言うのだろうか。

「彼女抜きで話を進めることはできないのか?」

 いざとなれば自分の財力を惜しみなく使うつもりの浩一郎が進言してみるものの、ベッドに仰向けで寝転がった焔は取り合わないように手首を振っている。

「結局、この家の中を一番動き回れるのは真帆と香帆だ。そしてやらせる役目を考えるとやっぱり真帆抜きで作戦を立てるのは難しい」

 焦っても、怒ってもそれが功を為さない場合、苛立ちだけが虚しく残るはめになる。

 良弘を真似てセットした前神を乱暴にかき回し、焔はまた大きなため息をついた。山のような悪態を何度もついてみたとしても、それで事態が改善されないことはわかっていた。

「この家の人間だって馬鹿じゃない。卒業を機に何かやるだろうことは予測してるだろ。今、この家が当主を失うことは存亡の危機に匹敵する。そんなことを度々繰り返し疲弊したくはないんだろ」

 焔と出会った日の翌日から、浩一郎は独自のルートを使いこの家の現状を細部にいたるまで徹底的に調べ上げた。

 その結果出てきた結果はこの家の財力が前当主である良弘達の父親が残していった資産の半分ほどしか回復していないということだった。当主を探す間に殆ど底をついていた財をそこまで戻した真帆の能力はすごいと思うが、まだそれも完璧ではない。


 そんな状態でこの家が、金を生む雌鳥である真帆を手放すことはないだろう。


 焔に付き添う形であれから毎日この家に訪れるたび、目に見えて増えていく警備という名の監視には呆れる他ない状況だ。この様子だと真帆が動く度に大奥か白い巨頭みたいな行列が出来ているに違いない。

 浩一郎は自分の頭に浮かんだ光景に小さく笑いながら、そろそろ自分の案を実行する時期だと踏んで焔に声をかける。

「俺に案があるんだけど、実行してもいいか?」

 その言葉に焔が訝しげに視線をあげた。

「その案があれば、彼女は絶対にこの部屋に訪れることになる」

「どんな案だ」

 手も足も出ないこの状況では僅かの案でも聞き逃すわけにはいかない。

 焔は眉根をを寄せながら、上体を起こした。顔と顔が近づく。浩一郎の顔に浮かんだ、にこやかな笑みが何かを企んでいるように見える。

「今日、家に入る前に正門を行き過ぎる車の中に見知った顔を見つけた。俺の家の系列の銀行から融資を受けている人物でパーティで見かけるたびに俺にも声をかけてくる」

 正確には浩一郎の持つ融資枠や、その後ろにある『松前』という財力のバックアップが欲しくて、媚びへつらってくるのだが、その辺りの説明は省いた。

「もしかしたら他にも俺の顔を知っている奴がいるかもしれない。だから一回、本宅の方に忍び込んでみる」

 この数回通って気が付いたのだが、この部屋に続く通路や通路からの出口には人がいない。

 そこまで人員を裂けないということか、どちらにしろ出入り口で止められるということなのだろうがとても都合がいい。

 使用人たちに見つからず、その人物と接触できるかさもなくば目的の人物の耳に自分の名前が入ればこちらの勝ちだ。

「お前の家の系列の銀行ってたかが知れてるだろ?」

 一度だけ連れて行って貰った浩一郎の家は桧原の家より一回りぐらい大きいだけだった。そんなぐらいの資産しか持たない人間が桧原に対して何かをアプローチしたところで何があるというのだろうか。

「家の大きさで比較するなよ・・・焔に案内したのは俺専用の別宅だからな」

 その言葉に、焔がぴたっと止まった。

「別宅?あれが?」

 それなら本宅はどれだけの大きさがあるのだろうか。いや、それ以上にこいつの系列の銀行がどれだけの資産を活用しているのか・・・。もしかしたらとんでもない人物を良弘は懐に入れていたのではないのだろうか。焔は少しだけめまいを覚えた。

真帆、白い●頭となる(?)の巻。いえ、浩一郎の頭の中だけのことなんですけど・・・

浩一郎の財力の大きさを焔は勘違いしていたようです。記憶の読み込みが足りなかったのかもしれません。それにしてもまだ高校生の浩一郎を別宅一人暮らしをさせるとはなかなかシュールな家庭らしいです。

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