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第21話:入れ替わった『良弘』

 真昼の太陽のように煌煌こうこうと輝く光は、そこにある不浄をすべて焼き尽くすように部屋の中を照らし続ける。

「よ・・・・・ろ・・・・」

 眠ったままの良弘口があえぐように動いた。

 しかしそれはあまりにも弱弱しい声で、浩一郎には内容が聞き取れない。

「・・・ひ・・ろ」

 言葉を発する度に光の威力は倍増していく。

 更には彼の黒髪を紅く染め上げはじめた。深紅色へと変化してゆく髪は、数度の寝返りのせいで枕の上に乱れ散っている。

 止みそうにない荒れ狂う炎のように強い光に、恐怖よりも神々しさを感じ、浩一郎は息を呑んだ。

「・・・良弘っ!」

 甲高い叫び声と同時に、光は止んだ。

 いつもと違う声で自らの名前を呼びながら飛び起きた『良弘』は、乱れた息もそのままに警戒するように辺りを見回す。

 大きく真っ赤な双眸がベッドの脇に立つ浩一郎でとまる。

「お前っ誰だよっ!!何で、この部屋にいるっ」

 何が起きているのか未だ理解できないまま怒鳴られた浩一郎はどう答えるべきかを迷った。

 第一、どうして『良弘』がそんな質問を自分にしてくるのか・・・いやその前に目の前の人物は明らかに『良弘』とは違う人物に見える。

 顔立ちは一緒だが、目はパッチリと大きくなり、良弘の持つ男くささが全く消えている。逆に少女っぽい口元は浩一郎の好みでもある。体格も、一気に小さくなったようだ。こんな小さい体なら、先ほど運ぶのも楽だったのにな・・・と取りとめのないことまで考えてしまった。

「答えないのか?」

 浩一郎の沈黙を拒絶と捕らえてしまった『良弘』はつり上がった目を更につりあげ、ベッドサイドにいる浩一郎に近づく。

 体が縮んだ所為だろうか、彼の肩からシャツが落ちそうになっていた。

 やはりどこをどう見ても良弘には見えない。浩一郎は警戒をしつつ、彼に質問し返した。

「お前こそ、誰だよ」

 逆に問い返されたことが『良弘』には気に入らなかったのか、毛を逆立てた猫のような態度で浩一郎に挑んでくる。

「俺の質問に答えない奴に、なんで教えなきゃならない」

「名前も名乗らない奴に、名前を教える謂われも、質問に答える義務もないと思うが?」

 不服を述べる彼に外面がいい彼にしては珍しく周りを凍りつかせるような冷酷な笑顔で答える。

 もともと支配階級で育っている浩一郎だ、礼を逸する人間に礼を持って接するような教育は受けていない。

「俺は、焔。桧原焔だ。」

 『良弘』・・・いや焔も初対面に対する態度じゃないと改めたのか、すぐに挨拶をすると名乗ったぞとばかりに胸を張った。


 あの精神世界で良弘が邪悪なる『何者か』によって浚われた後、焔はしばらく放心していた。

 しかし、彼女はすぐに気を取り直すと、急いで『良弘』のうつわへと戻った。

 魂が連れ去られた後の生きた身体は魑魅魍魎達の格好の餌だ。それに適当な理由をつけて死んだことにされ処分される恐れもある。そして何より怨霊の器になる危険性もあるのだ。

 ただでさえ、良弘という類稀たぐいまれな能力を持つ魂を支えることの出来る器だ。そんな不浄な輩が手に入れたら、どうなることかわからない。

 それに帰ってくる場所からだがなければ、良弘を取り戻しても彼がこの世界にとどまることができなくなる。



 だからこそ、焔は良弘が戻るまで表に出る決意をした。



「俺は、松前浩一郎。良弘のクラスメイトで友人だ。今日は倒れた良弘に付き添ってこの家に来て看病をしていた」

 とりあえず、名乗ったことで善しとして、浩一郎は焔に現状の説明をした。

 浩一郎も突然、良弘と入れ替わった焔に違和感や警戒心があるが、自分の持ち前の勘で彼が敵ではないと感じていた。

 しかし人付き合いの少ない焔には浩一郎の言葉を信じていいかわからず、当然のように顔を曇らせる。急に友人ですといっても信じられないよな・・・と浩一郎は思いながら、どう説明しようかと考えを巡らした。

 そんな中、焔はそっと浩一郎の手を取ると静かに目を閉じた。

 途端に浩一郎の脳裏に良弘との数々の記憶がちらつき始める。自分の意志で思い出しているのではない。何かが自分の記憶を掘り起こしているような感覚だ。

 その不思議な感覚が止まると焔はゆっくりと目を開けた。その瞳からは警戒が消え、明るい色へと変化している。

「本当に、良弘の友人なんだな。香帆にも信頼されてるみたいだし」

 触れていた手を離しながら述べられた言葉に浩一郎の視線が逆に警戒の色を増す。

「何をやったんだ?」

 浩一郎の言葉に、焔はしまったという表情でこちらを見上げてきた。

焔、浩一郎と出会うの巻・・・または信用されない浩一郎の巻でした。

浩一郎は持ち前の勘で焔を判別したのに、焔はそう判別しなかったのは日頃の人徳の差なのかもしれません。

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